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冬薔薇姫

茄子

020 妖精種の国 その3

 お爺様がプレゼントして下さった本の中には、祖国には無かった範囲魔法を記載された本があり、わたくしの魔法知識が一段とアップいたしました。
 けれども、妖精種の魔法発動は呪文を唱えるのではなく、歌を神に奏上するものでございました。
 ダクマ伯母様にお願いをして、範囲魔法の実験をしたいため、一回だけで良いので魔法師団と一緒に訓練をしたいとお願いしたら、渋られては仕舞いましたが、無事に許可を頂くことが出来ました。
 カチヤが舐められないようにと気合を入れてドレスを着せて来て、装飾品も魔石をふんだんに使ったものになってしまいましたが、その恰好で魔法師団の訓練場に現れたわたくしを、魔法師団の方々はすんなりと受け入れて下さり、範囲魔法を使いたいと希望すれば、舞台を用意した下さり、お手本まで見せてくださいました。
 舞いながら歌う妖精種の魔法師達は、まさに絵本に出てくる妖精種そのもので、見ていて思わず感心してしまったほどでございます。
 すぐにやってみるように言われたため、見よう見まねで手足を動かしながら歌を奏上いたしますと、普段とは違い、茨がわたくしの動きに合わせてくねり、わたくしの体に巻き付くことはございませんでした。
 そして、歌の奏上が終盤にかかると、いつものように粉雪が舞い新芽が芽吹き薔薇の花が咲き、わたくしの魔力が高まった時、わたくしは最後の一節を歌い上げます。

「願いまするは広きに届く浄化の力、神よこの願いを聞き届け給え」

 その途端、ぶわり、と咲いていた薔薇が散り始め、周囲にその花びらが舞い、きらきらと光を放ちながら空中に消えていきます。

「おめでとうございます、パウラ様。成功でございますよ」
「まあ、そうですか? ありがとうございます」

 今までは、体に絡まったまま、花が散ることもなく、ただ空気中に粉々になって消えていくばかりでしたので、初めての現象に少し驚いてしまいましたが、範囲魔法を使ったと言うのにいつもよりも魔力の使用量が少ないように感じましたので、もしかしたらわたくしには呪文を唱えるよりも、こうして神に歌を奏上するほうがあっているのかもしれませんわね。
 続いて範囲回復魔法も実験しましたが、これも問題なく成功いたしました。
 攻撃魔法に関しては、ある程度の範囲魔法も覚えておりましたので実験はしませんでしたが、本を読んで知識は蓄えることが出来ましたので、お爺様には感謝しなければなりませんわね。
 けれども、歌を奏上することに変更するにあたり、今まで唱えていた呪文を全て変更しなければいけませんので、その日は本を読むことなく、呪文をいかに歌に変換するかに頭を使う事になってしまいました。
 ハーロルト兄様には、本を前にしてわたくしが本を読まないなんて、天変地異の前触れか! などと失礼なことを言われましたが、本の知識から得た知恵の泉を整理することもとても大切な事なのだと、徹底的に説明をさせていただきました。
 このように、わたくしは順調に各国で知識と知恵を蓄えていき、それを自分の中で昇華していくことが出来ております。
 そう言えば、ランツェル様達は今頃何をしていらっしゃるのでしょうか? 南に向かわれましたが、そこでコツコツとレベル上げをしているのでしょうか? エーフィー様は魔法を覚えることが出来ましたでしょうか?
 心配ですわね、あの時はわたくしも腹に据えかねたものがございましたので、つい勢いに任せて一緒に出立させてしまいましたが、今考えてみると無謀にも程がございましたわよね。
 ええ、反省しておりますわ。
 もしエーフィー様が魔法を取得出来ていない場合、随行致しました講師の方が魔法を使うのでしょうし、問題はないとは思いますが、心配ですわねぇ。
 そんな事を考えていると、わたくしの行動を見張るために傍に居らっしゃったダクマ伯母様が目に入り、わたくしは思いついたことを尋ねました。


「ダクマ伯母様、わたくしは呪文を唱えるよりも、妖精種の方々のように神に歌を奏上するほうが魔力の消費量も少なく、効果も強くなったように感じるのですが、妖精種の血がなせる業なのでしょうか?」
「混ざり者とは言え、妖精種の血が混ざっている事は確かですので、確かにそれも関係しているのかもしれませんが、そもそも、呪文と言うのは、妖精種や有翼種が神に奏上する歌を何とか自分たちなりに習得しようとして出来上がった紛い物です。正しく魔法を行使するには、神に歌を奏上するのが一番効果的なのですよ」
「そうだったのですか。では、長い呪文は奏上する歌を呪文に変換したものなのですね」
「然様です。神にから遠い種族ほど、長い呪文が必要になってくるのです」
「歌を奏上する時、魔法師団の方々が舞いを踊っていらしたのは何故ですか?」
「あれも奏上の一つです」
「わたくしも覚えたほうが良いのでしょうか?」
「舞いは自然と出てくるものです、無理に人の真似をする必要はありません。歌を上手く奏上することが出来るようになれば、自然と舞い奏上することが出来るようになってきます」
「そうなのですか」
「……リベロは忌み子のくせに魔法を使うのは不得手でしたが、貴女は違うようですね」
「忌み子ですと、魔法をうまく使えるのが普通なのですか?」
「誰しもが魔法を得意とするわけではありません。けれども、忌み子は特別な力を持って生まれることがほとんどなのです。リベロは良くも悪くも普通の妖精種の娘でしたが、隔世遺伝と言うのでしょうか、インキュバスの忌み子としての能力は貴女に受け継がれたようでございますね」
「わたくしに、特別な力ですか……」
「ビブリオフィリアなど、どの顕著な例なのではありませんか? お父様が用意した本をほとんど読み終わってしまったのでしょう? 古代語で書かれた本も混ざっていたはずです、通常であれば数年かけて読み終わるかどうかという量を、この一週間で読み終わりかけているのですから、十分に特殊能力と言えるのではないでしょうか」
「そうでしょうか」

 わたくしにとっては当然の事なのですが、ダクマ伯母様がそう言うのであれば、そうなのかもしれませんわね。
 そういえば、魅了の魔眼をはじめとした、魔眼の持ち主は、父にインキュバスを持つものが多いと文献にはありましたが、もしかしてエーフィー様もインキュバスを経由して産まれた子なのでしょうか?
 ……結論付けるのはよくありませんわよね。

「ダクマ伯母様、魔眼を持って生まれた子は全てインキュバスによって孕まされた子供とは限りませんわよね?」
「そうですね、隔世遺伝という物もありますので一概には言えませんが、魔眼、とくに魅了の魔眼を持って生まれる者はほぼ確定でインキュバスを経由して産まれた子供と言えるでしょう。もちろん、隔世遺伝もございますよ」
「隔世遺伝かそうでないかは、見分ける方法はございますか?」
「簡単な事です。インキュバスに孕まされた子供で魅了の魔眼を持っている子供は紫色の瞳の輝く瞳を持っております。隔世遺伝では、赤紫の輝く瞳になります」
「紫色の輝く瞳……」

 エーフィー様がそうでございますわね。
 という事は、エーフィー様はインキュバスによって孕まされた子供という事なのでしょう。

「それにしても、本の追加が必要なようですね、お父様に相談しておきます」
「ありがとうございます。剣の修繕は後どのぐらいかかりますでしょうか?」
「あと一週間ほどですね。まったくこの国で剣を新しく購入したほうがどれほど早かったことか」
「けれども、この国に兵士団や騎士団がない事を考えますと、剣の文化はさほど発展していないのではありませんか? それに使い慣れた剣の方が扱いやすいのではないかと思います」
「そうですね、確かにわたくし共妖精種は剣を持って戦うことを良しとしておりませんからね。修繕を依頼した鍛冶師も、移住してきたドワーフ種に依頼を出しました」
「そうだったのですか」
「そもそも、妖精種であるわたくし達は、鋼を嫌う傾向がありますからね」
「では、そのドワーフ種の方はこの国は居辛いのではありませんか?」
「全く鋼を使用しないと言うわけではありませんし、その他の修繕も引き受けていますから、問題なく過ごしているようですよ」
「そうですか、でしたらよかったです」
「そもそも、妖精種の娘と結婚して子供をもうけたためこの妖精種の国に移住してきたのです、多少の苦労は覚悟の上でやってきているはずです」
「奥様が妖精種なのですね」
「ええ、混ざり者の子供がどうなるかと思いましたが、幸いにも妖精種の血を多く引いているようで、羽もあり、問題なくこの国に溶け込んでいるようです」
「それはなによりですわね。そういえば、ダクマ伯母様が羽を隠しているのは、神の姿に近づくためなのですか?」
「そうですね、力のある妖精種ほど羽を隠す傾向があります。かつては神にその姿を近づけるための行為でしたが、今ではその力の強さを表すと言う意味もあります」
「わたくしは妖精種の血を引いていますが、羽は存在しませんね」
「混ざり者ですから、無くても不思議ではありませんが、確かに貴女は妖精種の血が濃いようですし、あってもおかしくはないはずですが、本能的に羽を隠しているのかもしれません。羽を顕現させたいと願えば、羽が顕現するかもしれませんよ」

 言われて、わたくしは首を後ろにひねって背中を見まして、羽が顕現するように考えますと、ぶわり、と光が背中から発生し、虹色の光を纏った薄い羽が顕現いたしました。

「なっ!」

 わたくしの羽を見てダクマ伯母様は驚いたように目を見開き、わたくしの羽を凝視しております。

「ダクマ伯母様の仰ったように、わたくしにも羽があったのですね。お母様も羽を隠していらっしゃいましたし、わたくしに羽があるなんて想像もしておりませんでした。……ダクマ伯母様、わたくしの羽がどうかしましたか?」
「その羽は、その羽の光は、初代聖女様と同じ物……、まさか混ざり者が先祖返りをしたと言うのですか!? リベロは薄紫色の羽だったというのに!」

 あらまあ……、面倒ごとが起こりそうなことになってしまいましたわね。
 それにしてもお母様の羽の色は薄紫色なのですか、なんだか今日は初めて知る事ばかりで新鮮な一日ですわね。
 ダクマ伯母様は、羽をそのままにしておくようにと言って、速足で部屋を出て行ってしまいましたので、わたくしはまだ読んでいない本を手に取り、読む作業に没頭するのでした。
 そうして本を読む作業に没頭していると、部屋の外が賑やかになったと思った時、いきなり部屋の扉が開けられ、お爺様がいらっしゃいました。

「おお! 真に虹色に発光する薄羽! まさしく伝説の初代聖女様の物と同じだ」
「えっと……」

 お爺様が恍惚とした瞳でわたくしの羽を見てきます。
 どうしたものかと、一緒にいらっしゃったダクマ伯母様を見ましたが、ダクマ伯母様もまだ信じられないものを見るような目でわたくしの羽を凝視していらっしゃいます。

「これは神の思し召しだ! パウラこそ、神に選ばれし真の聖女!」

 ええ、なんですかそれ。

「……お父様、パウラの羽の模様が薔薇と茨の模様になっておりますわ」
「それも伝説の通りではないか! 爺の孫が真の聖女であったとは、神に感謝せねばならぬな!」

 羽は背中にありますので、自分ではよく見る事は出来ませんが、確かに見える範囲の羽の模様は茨と薔薇の模様ですわね。
 そういえば、絵本に描かれていた初代聖女様は茨と薔薇がドレスに描かれておりましたが、まさか羽の模様がそうだったからドレスがあのような模様になっていたのでしょうか?
 お爺様は相変わらず恍惚とした表情をわたくしの羽に向けてきますし、ダクマ伯母様は未だに信じられないと言った表情をわたくしの羽に対して向けて来ていらっしゃいますが、この状況、どういたしましょう。

「ヴィロッテを呼べ!」
「お母様を!? お父様、何を考えているのですか!」
「あれは初代聖女の信奉者だ、この姿のパウラを見たら何か変わるかもしれぬ」
「危険な賭けでございます。もしお心が悪化したらどうなさるおつもりですか!」
「その時はその時だ、再び時が解決してくれるのを待つだけだ」
「っ!……お前達、お母様をここに、いえ、パウラ、お母様の部屋に案内します。ついていらっしゃい」
「わかりました、ダクマ伯母様」

 よくわかりませんが、わたくしの羽は特殊な物のようでございますね。
 わたくしの羽を見て、お婆様のお心が少しでも回復すればよろしいのですが、わたくしと言う存在を見て症状が悪化する可能性もあるのですよね。
 本当に、お爺様は危険な賭けに出ましたわね。

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