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冬薔薇姫

茄子

019 妖精種の国 その2

「ここが貴女方にあてがわれた部屋になります。用事がない時は無駄に出歩かないように」
「ダクマ伯母様、お母様と仲が悪かったのですか?」
「……わたくしは、あのような者を妹とは認めておりません。お父様がなんと仰っても、不浄の方法で生まれた忌み子ですもの、王族を名乗らせるのも気に入りませんわ」
「忌み子ですか? よろしければ詳しく教えていただけないでしょうか? わたくし、お母様と話したことなど片手で数えるぐらいしかなく、そう言った出生の事など全く分からないのでございます」
「流石は不浄の子ですね、子育てもまともに出来ないとは。……よろしいですわ、あの忌み子がどうやって誕生してしまったのか、お話して差し上げますわ」

 ダクマ伯母様はそう言ってわたくし共にあてがわれた部屋に入りますと、木で出来たベンチに座り、わたくし達にも座るよう言ってきましたので、言われるままに対面にあるベンチに腰掛けました。

「リベロは、インキュバスを経由して、お母様が孕んだ忌み子なのですわ。サキュバスに変じたインキュバスがお父様の精を吸い取り、その精を使って、お母様を孕ませたのです。ですので、お父様は自分の娘で間違いなく、リベロは純血の妖精種であると主張しておりますが、お母様はリベロを孕んだ事により心を病み、今でも部屋から出られない状態なのです。ですので、わたくしはリベロと言う存在が許すことが出来ません。人間種の国に嫁に行ったときは、清々したものです。それなのに、その娘が聖女となって我が国に足を踏み入れるなど、なんという悪夢なのでしょうね」
「なるほど、お母様はそんな事情があって産まれた方なのですね」

 育児放棄をして夜会やお茶会に精を出しているのは、妖精種ならではなのかと思っておりましたが、そのインキュバスの影響もあるのかもしれませんわね。

「それで、さきほどリベロと会話をしたことは片手程と言っておりましたが、事実ですか?」
「はい、わたくしは育児放棄されて育っております」
「これだから忌み子は嫌なのですわ。パウラも混ざり者とはいえ、苦労したことでしょう。けれども、準備が整い次第、早々にこの国から出立してください、貴女の顔を見ているとリベロを思い出して仕方がありません。くれぐれも、お母様の前に姿を出さないように」
「わかりましたわ、ダクマ伯母様。ただ、お付きの者の剣が欠けてしまい、その修繕を行いたいのですが、その修繕が終わるまでの間滞在することは許していただけますでしょうか?」
「剣の修繕ですか? いいでしょう、鍛冶職人を呼んで差し上げます。貴女はくれぐれも不必要にこの部屋から出ないように」
「はい、ダクマ伯母様」
「……ふう、リベロの娘とはいえ、性格はリベロに似てはいないようですね。それだけは救いですが、その顔はやはり気に入りません。お父様はリベロをいたく可愛がっておりましたが、わたくしには可愛いとはとても思えませんでしたから」
「然様でございますか。けれども、そのような経緯でお母様が産まれたのでしたら、そのせいでお婆様が心を病んでしまったと言うのであれば、お母様を憎むのも仕方がない事なのではないでしょうか?」
「……実の母親の事だと言うのに、随分と他人事のように言うのですね」
「本当に話したことなど片手程の回数でございますし、内容も挨拶程度でございましたので、産んでくれた母親と言う認識はございますが、家族だという認識がございませんの」
「そうですか。忌み子の子として産まれたパウラに同情はします」

 同情されてしまいました。
 お母様は本当にダクマ伯母様に嫌われていたのですわね。
 他にも兄姉がいらっしゃったと思いますが、皆様このような感じなのでしょうか?

「お父様が用意させた本は隣室に置いてあります、もうパウラの物ですので、自由になさいませ。パウラが滞在している間、世話係の責任者はわたくしになります。けれども、下位妖精種達が貴女方を歓迎したくて仕方がないとウズウズしておりますので、主な面倒はその者達に任せることといたします。何度も申しますが、くれぐれも不必要にこの部屋から出ないように」

 何度も念を押されなくても、わたくしは本さえ読めればそれで満足ですので、外には出ませんけれども、ダクマ伯母様は何をそんなに警戒しているのでしょうか?
 部屋を出てくダクマ伯母様の姿が完全に消えますと、ハーロルト兄様が深いため息を吐き出しました。

「どうかなさいましたか? ハーロルト兄様」
「いや、リベロ叔母上の嫁入りの際は、妖精国から是非にと言われて嫁に出されたと聞いていたが、もしかして出生の事もあって喜んで嫁に出されたのかもしれないと思ってね。でも、妖精王はリベロ叔母上の事は溺愛していたようだし、その部分が矛盾していると言うか、よくわからないんだ」
「ハーロルト兄様は深く考えすぎなのではございませんか?」
「考えざる得ないさ、私もいずれは他国の姫君か、自国の令嬢を側妃にしなくてはいけなくなるからね。事情を知っておくことは大切な事だ」
「それはそうですけれども、お母様が我が国に嫁いできた事により、この妖精種の国との同盟関係は強固なものとなったではございませんか」
「まあ、そうなんだけどね」

 ハーロルト兄様はそう言うと、下位妖精が運んできた果実水の入った小さめのカップを手に取ると、その中身を一気に飲み干してしまいました。
 そうして、「ふう」と息を吐き出して、わたくしの顔をしげしげと見ていらっしゃいました。

「なんでしょう?」
「いや、忌み子の子なんて言われて、否な気分になっているんじゃないかと思ってね」
「そんなことございませんわよ? むしろ、お母様が自由奔放に動き回るのが、妖精種独特の物だけではなく、インキュバスも関係していると知って納得してしまったほどでございます」
「うーん、親子関係が薄いとそんな感じなのか」
「そうですわね。家族と言うのであれば、国王陛下やハーロルト兄様達の方が余程家族と言う感じが強いですわね」

 お世辞ではなく、事実ですわよ。
 お父様もお母様も、お会いしたことも少なければ、会話をしたことは本当に片手程の回数しかございませんもの。
 放置していてくださったおかげで、わたくしは思う存分本を読むことが出来ましたので、何の文句もございませんし、恨んでも居りませんわ。
 それよりも、隣の部屋に用意されていると言う本の方が気になりますわね。
 わたくしがソワソワしておりますと、ハーロルト兄様は肩を竦めて「本を読みに行っておいで」と仰って下さいましたので、わたくしは木で出来たベンチから立ち上がりますと早速隣室の扉を開けました。

「まあ!」

 そこには本の山がいくつも出来上がっておりました。

「素晴らしいですわ」

 わたくしは目を輝かせて本の元に行くと、一番上にある本を手に取って、表紙を見ますと、現在の妖精種の言語で書かれた本のようです。
 この部屋には気で出来たベンチではなく、クッションの付いた柔らかそうな椅子がございましたので、それに座りまして、早速一冊目の本を読み始めました。
 剣の修繕がどれほどかかるかは存じ上げませんが、ダクマ伯母様の感じからして、急がせそうですし、そんなに時間はかからないのではないでしょうか? それまでの間に読み切れなければアイテムボックスに仕舞ってしまう事にいたしましょう。
 いいえ、ここにある本はわたくしの物だと言われましたし、全てアイテムボックスに仕舞う事にいたしましょう。
 一冊目に手に取ったのは童話のようでございまして、妖精種の勇者と聖女の活躍が書かれたものでございました。
 どの国でも、初代の勇者と聖女の物語は語り継がれていくものなのですね。
 元々、妖精種はその特性から国を作ることが早く、歴史は一万年を超える者となっております。
 そうして、初代の勇者は当時の国王、聖女はその正妃であったそうです。
 周辺に出没する魔物を率先して討伐していく姿は、雄々しく勇敢で、聖女は可憐で儚げでありながらも凛とした気高さを持っていたと書かれております。
 どの国でも、勇者と聖女の在り方については共通しているように感じますが、その通りなのか、そのようにあることを願って書かれているのかはわかりませんわね。
 わたくしは一冊目の本を読み終わると、二冊目の本を手に取りページをめくりました。
 この本は妖精種の古代語、それも相当古い文字で書かれている物でございましたので、解読しながらの読書となりました。
 それは、神々について書かれている本でございました。
 神木には元々神が宿っており、この妖精種の国に様々な恩恵を授けてくれていたのだそうです。
 代々の妖精王は、神に自らの娘を献上し、その恩恵に報いていたと記載されております。
 妖精種の国の中には魔物は発生しませんでしたが、その周囲には魔物が発生し、当時の行商などに支障をきたしていたため、勇者と聖女がその討伐に手を上げたのだそうです。
 魔物討伐が終わり、国王とその正妃の任に戻った二人は、長く安定した統治をおこない、国王は多くの子供を生み出し、その中でも飛び切り美しい娘を神に献上したと記載されております。
 神に献上された姫君は幸せに神の御許で暮らしていたと記載されておりますが、その間に子が設けられたという事の記載は一切ありません。
 神との間に子が出来なかったのか、出来てもその存在を隠されていたのかはわかりませんが、記録上では神と妖精種との間に子はいないという事になっておりますわね。
 神に人身御供を与え、繁栄を祈ると言う風習は前世の歴史にもよく登場しておりましたが、この世界にもあったのですね。
 まあ、人身御供ではなく嫁として献上されたと記載されてはおりますけれども。
 その当時の妖精種の国は、他国とのかかわりがほとんどなく、というか、他国がほぼ存在しておらず、転々とした様々な種族の者達と行商を通じて交流を取っていたと記載されております。
 確かに、一万年以上前に建国されている国と言えば、妖精種の国か有翼種の国、そしてエルフ種の国ぐらいだったでしょうしね。
 龍人種の国も魔人種の国も歴史は人間種や獣人種のものよりも古いですが、やはりその歴史の古さでは敵いません。
 神々は、神木に宿り、様々な恩恵を妖精種の国に与えましたが、同時に厳しい階級制度も敷いたようなのです。
 まあ、その力の大きさで階級を分けたようなのですが、下位妖精種は単純な労働力として同じ妖精種に使役される存在になり、高位の妖精種はそれを使役し、神の姿をまねるように薄い羽を隠したと記録されております。
 神々には羽を持った神も居ると昔読んだ文献にはございましたけれども、この国に居た神は羽がなかったのですね。
 勇者であった当時の妖精王は、たくさんの妃を娶ったようでございます。
 その中で最も美しいと言われた妃の娘を、神に献上したとありますが、その娘を愛していたから神に献上したのか、愛していなかったから神に献上したのかまでは書かれておりません。
 愛していたから、神の御許で幸せに暮らせるように献上したのかもしれませんし、他の子を手放したくなかったがゆえに、その子を手放したのかもしれません。
 難しいですわね、当時の光景を見ることが出来ればよいのですが、水の龍人族の国にあったタペストリーのような物が都合よくあるはずもございませんので、無理な話でしょうね。
 古文書を解読しながら読んで言っておりますので、いつもよりも時間がかかり、いつもよりも考察させられることが多くございますわね。
 古文書にはインキュバスの事も書かれております。
 夢魔の一種である妖精ではありますが、一万年以上昔から、その存在は忌み嫌われている者の様で、いつの間にか魔人種の国に逃げて行ったと記載されております。
 お母様はそんなインキュバスの力によって生み出された子供というわけですのね。
 ダクマ伯母様が忌み子と言うのもわからないでもありませんわね。
 それほど昔から忌み嫌われていた存在を介して、父母は同じだとしても、その間にインキュバスが存在していると言うだけで忌み嫌われてしまったのでしょう。
 まあ、お爺様はそのような事に関係なく、お母様を溺愛していたようですけれども。
 いえ、けれどもその割には、お母様は妖精種にしては若くしてお父様の元に嫁ぎましたわよね。
 溺愛する傍ら、やはり忌み子として疎んじていたという事でしょうか?
 心という物は複雑怪奇でございますものね、相反する感情を抱いていたとしてもおかしくはないのかもしれませんわ。

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