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冬薔薇姫

茄子

017 水の龍人種の国 出立

 水の龍人種の国に滞在して一週間が経過いたしまして、わたくし達は次の地を目指すため、旅を再開することになりました。
 見送りとして、王宮で盛大な食事会が開かれました。
 その時知ったのですが、先日の夜会で話しかけていらっしゃったのは、この国の宰相でいらっしゃいました。
 失礼な態度はとっていないとは思いますが、まさか宰相だとは思いませんでしたわ。
 道理で、夜会の後に様々な古代語で書かれた本を貸し出されたわけですわね、宰相が裏で手を回して下さったのでしょう。
 おかげでこの国の歴史や古い魔法なども良く学ぶことが出来ましたわ。
 本当に、もっと時間がありましたら、行った事はございませんが、この国の図書館に行ってみたいものですわね。
 食事会では、わたくしが読書をしないようになのか、ハーロルト兄様の膝の上に乗せられて、ハーロルト兄様に給仕されている状態でございます。
 こんなことしなくても、流石のわたくしもこんな場面では読書は致しませんのに、信用がありませんわね。
 丁度チーズリゾットを頂いておりますと、敵意のこもった視線を感じましたのでそちらを見ますと、先日の夜会でハーロルト兄様をダンスに誘っていらっしゃった方がこちらを睨んでおりました。
 さて、どうしましょうか?
 身なりと座っている席からして、相当高位の方ですわよね。
 まさかと思いますが、ハーロルト兄様に一目ぼれして、わたくしの存在を邪魔に思っているとか?
 けれどもわたくしはハーロルト兄様の正式な婚約者ですし、例の魔法も発動してしまっておりますし、はいどうぞ、と渡すわけにはいかないのですよね。

「……ハーロルト兄様」
「なにかな? あ、何か食べたいものがある?」
「わたくしばかり食べさせていただいていては申し訳ありませんので、わたくしもハーロルト兄様に食べさせて差し上げますわ」
「まさかパウラがそんな事言うとは思わなかったな」
「駄目でしょうか?」
「いや、大歓迎だよ。じゃあ、その皿のサンドイッチを食べさせてくれるかな?」
「わかりましたわ」

 わたくしは丁寧に盛り付けられた皿の中から、一口サイズに切られたサンドイッチを手に取ると、ハーロルト兄様の口元に持って行きました。
 ハーロルト兄様はそれをわたくしの指ごと銜えますと、指に着いたソースを舐めるように舌を動かした後、サンドイッチを咀嚼なさいました。
 それを確認してから、わたくしはこちらを見ていた方を見て勝ち誇った視線を投げかけます。
 その途端、その方は悔しそうな顔を浮かべました。
 わたくしは無表情ですが、目は口ほどにものをいうと申しますものね。
 それにしても、祖国でもハーロルト兄様はモテていらっしゃいましたけれども、水の龍人種の国でもモテるのですねえ。

「パウラ、次はそっちの葡萄をくれるかな?」
「ええ、いいですわよ」

 わたくしは葡萄を一つ摘まみまして、ハーロルト兄様の口元に持って行きます。
 また、指ごと銜えられてしまいましたが、これはハーロルト兄様の癖か何かなのでしょうか?
 舐められた指を口の中から引き抜き、ナプキンで濡れた指先を拭いていますと、こちらを見ていた方が立ち上がり、わたくし達の方に歩いてきました。

「ご機嫌よう、ハーロルト様。食事会は楽しんでいらっしゃいますか?」
「はい、パウラのおかげで想像よりも楽しい食事の時間を過ごせていますよ」
「っ……。それは何よりですわね、わたくしも、そう言っていただけると従兄妹として鼻が高いですわ」

 従兄妹でいらっしゃいましたか。
 全く似ていないので気が付きませんでしたわ。
 えっと、今の国王陛下の孫になるという事ですわよね? けれども席順的に姫君が座る席としては少々下の方なのではないでしょうか?
 確か、王太子には正妃様の他に五人の側妃様がいらっしゃいましたわよね。
 その側妃様のどなたかの娘なのでしょうか? それにしてもやはり席順が低いように感じられますが……。
 母親の身分が低いとか? 可能性はありますわね。
 それとも、従兄妹と仰っておりましたが、実はもうどなたかに嫁いでいるとか?
 ブルク様は御年98歳ですし、そのお兄様の娘なのでしたら、とっくに成人しているでしょうし、嫁いでいてもおかしくはありませんわね。
 ……それでハーロルト兄様に一目ぼれ? 政略結婚で旦那様との間に愛がないとかそんなオチでしょうか?

「それにしても、従兄妹が勇者なんて鼻が高いですわ。人間種も見る目があると言った所ですわね」
「私は立候補した勇者ですよ。まあ、貴族から元々推薦はされていましたが、最終的に勇者になることを決めたのはパウラの一言があったからです。パウラが聖女になるのであれば、その対になる勇者は婚約者である私がなるべきですからね」
「まあ……。パウラ様は病弱だと聞きますが、聖女の務めを果たせますの?」
「ご心配には及びません。パウラは優秀な聖女ですよ」
「そうですか? なんだか疑わしいですわね」
「もし、パウラに欠点があっても、私がカバーしますので問題はありません」
「……そうですの。パウラ様はハーロルト様に守られていて幸せですわね、羨ましいですわ」

 敵意バリバリに睨まれておりますけれども、どうしましょう? 下手に発言して刺激するのも良くない気も致しますのよね。

「えっと、お名前をお聞きしても?」
「ゾルデですわ。王太子の五番目の娘になりますわ」
「そうですか。先日の夜会ではお名前を聞きませんでしたのでわかりませんでした」
「構いませんのよ」

 えっと、水の龍人種の国の王太子の五番目の姫君は、確かこの国の騎士団長とご結婚為さっているはずですわよね。
 しかも恋愛結婚で、かなりの年の差があるのにもかかわらず、ゾルデ様の方から押しまくっての結婚だったと本に書かれておりましたが、事実は異なるのでしょうか?
 ……あ、単純に惚れっぽい体質だとか? 有り得そうですわね。

「ハーロルト様、パウラ様を抱えていては疲れてしまうのではございませんか? そろそろ降ろしては如何です?」
「いや、いつもの事なので問題はありませんよ」
「いつもの……」

 ええ、大体こんな感じです、ごめんなさいね? けれどもわたくしが強要しているわけではなく、ハーロルト兄様が率先してくださっているので、わたくしは悪くありませんわよ?

「ゾルデ様は旦那様にこのように食事を食べさせていただくことはございませんの? 大層な恋愛結婚をなさったと本で読みましたわ」
「え、ええ。もちろんございますわ。けれどもそれは屋敷で行うものであって、こんな公衆の面前行うものではございませんでしょう? 場を弁えておりますの」
「まあ、そうなのですか? ハーロルト兄様、場を弁えない無作法ものだと言われておりますわよ?」
「なっ! わたくしはハーロルト様の事を言っているわけでは」
「あら? だって、わたくしがこうすることを強請っているわけではございませんし、わたくしを膝の上に乗せて給仕をなさっているのはハーロルト兄様の意志でございますのよ? ですので、この状態を責めるという事は、ハーロルト兄様は無作法ものだと言っているのと同義ではございませんか?」
「っ! ……失礼いたしますわ」

 ゾルデ様はそう仰いますと、わたくし達の元から離れていき、ご自分の席にドサリと音を立てて座りました。
 音を立てて座るなんて、マナーがなっておりませんわね、甘やかされて育ったのでしょうか?

「ハーロルト兄様、従兄妹だというのに名乗られもしなかったのですか?」
「うん、全く」
「そうなのですか。その割にはハーロルト兄様にご執心のように感じられますけれども」
「なんだ、嫉妬かい?」
「いえ、ハーロルト兄様の愛は毎晩実感しておりますので、焼きもちを焼くことはございませんけれども、あのように睨みつけられるのは少し遠慮したいですわね」
「ふむ。まあ、今日でこの国ともお別れだし、もう少し待っていればあの視線も無くなるよ」
「それはそうですけれども」

 なんだか納得いかないのですよね。
 ……これが嫉妬と言う感情なのでしょうか? 本で読んだものとは違う気がしますけれども、実際はどういう物なのか試してみないとわかりませんものねえ。
 けれどもわたくしが嫉妬ですか、そんな日が来るなんて想像もしておりませんでしたわね。
 まあ、嫉妬と決まったわけではございませんけれども。
 そう思いながらゾルデ様の方を見ると、立派な軍服を着た騎士様が横に立っていらっしゃいます。

「ハーロルト兄様、ゾルデ様の横にいらっしゃるのはどなたですか?」
「騎士団長だね」
「まあ、ではあの方がゾルデ様の旦那様なのですね」
「そういえば、姫君が正室だと言っていたような気もするな。だが生憎まだ子宝に恵まれなくて、正室の機嫌が悪いとも言っていたような」
「そうなのですか。長命種は子供が出来にくいですし、そんなに焦る必要もないと思うのですけれどもね」

 わたくしは食後のお茶を飲ませてもらいながら、ゾルデ様と騎士団長を見ていますと、ゾルデ様が何かを言って、それを聞いた騎士団長が眉間にしわを寄せてゾルデ様から離れて行ってしまいました。
 何を言ったのでしょうか?
 それにしても、ゾルデ様は見た目だけだと二十代前半に見えますが、実際はお幾つなのでしょうか? 騎士団長は見た目四十代後半に見えましたわね。
 年の差結婚と本に記載されておりましたし、相当年齢が離れているのではないでしょうか? それを押してでも結婚為さったのですし、もっと堂々といちゃついてもよろしいのではないでしょうか?

「パウラ、お茶のお代わりは?」
「要りませんわ。もうお腹がいっぱいですもの」
「そんなに食べていないはずなのに、パウラは胃が小さいのかな?」
「そうかもしれませんわね」

 祖国では、あまり食べられない分シェフが色々と工夫をしてくださって、少量でも栄養がしっかり取れる食事を作って下さっていましたわね。
 まあ、わたくしもそのレシピの開発には協力致しましたけれども。
 前世で読んだ、ボディービルダーの食事法を参考に作りましたのよ、まあ食事の頻度は真似しておりませんけれども。
 そんな感じで食事会が終わりまして、いよいよ出立するとなったその時、事件は起きたのでございます。

「ハーロルト様に神のご加護を」

 そう言って、ゾルデ様がハーロルト様の唇に口づけをなさったのです、旦那様の騎士団長が見ている前で。
 もちろんすぐさま騎士団長である旦那様に引き離されましたが、ゾルデ様は何を考えていらっしゃるのでしょうね。
 騎士団長に嫉妬して欲しかったとか?

「うちの妻が申し訳ない」
「いえ、油断していた私も悪かったので」
「そうですわね、ハーロルト兄様が油断していたのが悪かったですわね」
「パウラ……」

 わたくしは狼狽するハーロルト兄様を置いてさっさと馬車に乗り込みまして、そそくさとアイテムボックスから本を取り出しますと、読み始めました。
 一拍遅れて入って来たハーロルト兄様は、わたくしをヒョイっと抱えて膝の上に乗せますと、わたくしが読書に集中している事をいいことに、頭にキスをしてきたり、頬っぺたをプニプニして来たりしましたが、本に集中しているわたくしにはそんな事関係ございませんわ。

「パウラ、ちょっとだけ上向いて?」
「……」
「パーウーラー」
「ハーロルト兄様、読書の邪魔は魔物が現れた時だけにしてくださいませっん」
「ん~、消毒しないとね」
「……キスしたいだけではないのですか?」
「そうともいうかもね」
「はあ、くれぐれも読書の邪魔をなさらないで下さいませね」
「わかってるって」

 その言葉を聞いて、わたくしは再び本に目を落としますと、読書を再開致しました。
 その間、ハーロルト兄様は当たり前のようにわたくしを膝の上に抱えたままの態勢で、ご自身も器用に本を読み始めました。
 どうでもいいのですが、わたくしの頭を本を置く台にするのは止めていただけないでしょうか? 身長が縮んだらどうしてくれますの?
 さて、次はお母様の祖国の妖精種の国ですわね。
 いったい何が待ち受けているのでしょうか?

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