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冬薔薇姫

茄子

016 水の龍人種の国 その2

 煌びやかに明かりの灯された会場に、色とりどりに着飾った令嬢や貴婦人、そして子息や紳士の方々が集まっております。
 ハーロルト兄様を筆頭としたわたくし共勇者一行の歓迎の夜会でございます。
 想像していたよりも規模が大きくて驚きましたが、魔物が発生している時期だからこそ、貴族の団結を強めるため、このような盛大な夜会を開くのだそうです。
 わたくし達の紹介が終わり、わたくしとハーロルト兄様がファーストダンスを踊り始めると、他の方々もダンスホールに躍り出てダンスを踊り始めます。
 それはまるで、タペストリーで見た物語のように、色鮮やかなドレスが宙を舞う光景で、思わずわたくしは溜息を吐いてしまいました。

「どうした? 読書の時間が削られて気落ちしているのか?」
「え、ええ、まあそんなところですわ」

 ハーロルト兄様にもあのタペストリーの事は話しておりません。
 なんだか、秘密にしておかなければならないような気がしたからです。

「ねえ、ハーロルト兄様。身分違いの恋って、どうなのでしょうか?」
「ん? この国の初代の勇者や聖女の物語を読んだのかい?」
「ええ、まあ」
「私も母上に幼い頃にその物語の絵本を読んでもらったよ。まあ、普通なら平民が王族と結婚するなんてありえないけれども、勇者と聖女となれば話は別だったのかもしれないな。当時は邪悪なるモノは存在していなかったそうだけど、魔物が大量に発生していて、その勇者と聖女がいなければ、水の龍人種の国が崩壊していたかもしれないっていう話だしね」
「そうですわね。そう考えますと、英雄の血を王族に取り込むと言うのは、正しい考えかもしれませんわね」
「パウラは夢がないな。勇者は王女に見初められ、聖女は国王に見初められ、それぞれ恋愛結婚をしたっていう話じゃないか」
「そう、ですわね」

 いくら聖女であっても、平民が王宮で過ごすと言うのは、つらいものがあったのではないでしょうか?
 歴史書には、正妃が産んだ子は女の子で、末姫だったと記載されておりました。
 つまり、跡取りを産んだわけではないのです。
 そう考えますと、正妃になった聖女は肩身の狭い思いをしていたのかもしれません、その手慰みに、本当の記録をあのタペストリーに託したのかもしれませんわね。
 一曲目のダンスが終わりましたが、婚約者であるわたくし達は三曲連続でダンスを踊ることになっております。

「パウラ、なんだかこの国に来てから元気がないように見えるけど、あまり良い本に出合えなかったのかい? もっと違う本を渡すようにお願いしようか?」
「いえ、本はどれも素晴らしいものでございますわ、ただ、知恵の泉は裏切りませんが、欺くことはあるのだと思い知らされたのでございます」
「よくわからないな」
「ハーロルト兄様はわからなくても良いのですわよ」

 ハーロルト兄様の中では、この国に広く伝わっている物語こそ真実なのでしょうから、わたくしがわざわざそれを訂正する必要はございませんわよね。

「それにしても、母上もお強いが、この国の騎士は本当に強い。風の龍人種の国の騎士も強かったが、ここまで統制は取れていなかったよ」
「そうなのですか」
「うん、風の龍人種の国の騎士は、ここの実力が特化した感じだったけど、水の龍人種の国の騎士は団体行動での動きが強い感じだね」
「お国柄、というものでございますわね」
「そうだね、とても勉強になるよ」
「亜人種と比べるのもどうかと思いますが、我が国の軍事力との差はどのぐらいございますでしょうか?」
「そうだな、少なくともこの国の軍事力なら、ガルムの大量発生も問題なく処理できたんじゃないかな。怪我人もほとんど出さずにね」
「そうですか、そんなにも違いますか」
「ああ、亜人種の国に人間種の国が襲われたらひとたまりもないって言われているけれど、実際にその通りなんだって実感するよ。暗黙の了解で人間種の国は襲わないって事になっていることに本当に感謝だな」
「今は亜人種が人間種の国に嫁いで来る事が多いですが、かつては人身御供のように、人間種が亜人種の国に嫁ぐ事が多かったそうですものね、そう言った方々の努力の結果が今、人間種を守ってくださっているのでしょうね」
「ああ、感謝しなければいけないね」

 今ある幸せは、何かの犠牲の上に成り立っている。
 それを忘れることなく過ごさなければなりませんわね、特にわたくし共は王族なのですから、特に多くの犠牲の上に今の幸せがあるのですわ。

「……パウラ、本当にどうかしたのかい? 深刻そうな顔をしているよ」
「いえ、幸せな時間を大切にしなければいけないと考えていた所でございますわ」
「そう? 何かあったらちゃんと私に言うのだよ?」
「ええ、わかっておりますわ、ハーロルト兄様」

 そんな話をしていますと、三曲目が終わり、わたくし達は一旦ダンスホールから離れます。
 すぐさまフート達がわたくし達に飲み物を差し出してくれましたので、ありがたく頂き乾いたのどを潤しました。

「ハーロルト殿下、私と一曲踊ってくださいませんか?」
「いいえ。わたくしと」
「私、ダンスが得意ですのよ。ぜひ一曲お相手願います」

 予想通り、あっという間にハーロルト兄様は令嬢や貴婦人方に囲まれていらっしゃいます。

「パウラ様、よろしければ一曲踊っていただけませんか?」
「いや、僕と是非」
「いやいや、私と踊ってくださいませんか?」

 わたくしにもお誘いが来ますが、わたくしは手にした扇子を口元にあてて、力なく微笑みました。

「申し訳ありません、流石に疲れてしまいましたので、少し休もうと思っておりますの。ダンスは他の方と踊ってくださいますか?」
「なんと! 噂通り体が弱くていらっしゃるのですね。それでは無理は言えませんね。休憩をなさるのなら、あちらにあるスペースがよろしいかと思いますよ。会場がよく見渡せますので」
「ご親切にありがとうございます」

 わたくしはダンスの誘いをかけて来た方々が居なくなるのを見計らって、ゾフィを連れて、観葉植物などで外からは目立たない位置にあるソファーに座って休むことにいたしました。
 こちらからも観葉植物が邪魔で会場の様子はあまり見えませんが、読書をするのにはもってこいの場所ですわ。
 わたくしは早速、アイテムボックスの中からこの国の歴史に書かれた古代文字で書かれた本を取り出しますと、ページをめくり読み始めました。

「パウラ様、夜会の途中でございますよ」
「誰か来たら教えてください。誤魔化しますので」
「はあ……」

 なんだかゾフィの重たい溜息が聞こえましたが、今は読書の時間ですもの、気にしてはいられませんわ。
 それにしても、建国して七千年以上経っているとか、龍人種の国でも最も古いのではないでしょうか?
 建国当時は、邪悪なるモノはいなくとも、魔物がはびこる世界だったようで、勇者や聖女の存在が必須だったようですわね。
 その代わりと言っては何ですが、今よりも神との距離が近かったようで、神は本当に身近な存在だったようでございます。
 そう、約五千年前に初めて龍神が闇堕ちし、邪悪なるモノになるまで、本当に神々は身近な存在であり、祝福をくれ、奇跡を起こしてくれる存在として崇められていたようです。
 けれども、どうして神々が身近な存在であったのに、龍神が闇堕ちしてしまった時、人間種や亜人種の勇者一行にその討伐を任せ、神々は天に昇って行ってしまったのでしょうか?
 歴史書には、最初の邪悪なるモノは仲間に裏切られ、番を失った龍神とありますが、それが何か関係しているのでしょうか?
 歴史書は紐解けば紐解くほど難解で、奥深いものでございますね。
 知恵の泉は裏切りませんが欺きますので、その欺きをいかに看破するのかが重要な鍵になっていきますわね。
 前世で読んだ小説では、邪悪なるモノの正体についてまでは書かれていませんでしたが、もし邪悪なるモノが闇堕ちした神であるのなら、神々は何故勇者や聖女たちに任せ、その存在を放置しているのでしょうか?
 いえ、憶測はよくありませんわね。
 けれども、最初の邪悪なるモノが出現したタイミングで、それまで身近にいた神々が一斉に天へと昇って行ったのは事実。
 有翼種は今でも神が身近にある亜人種だと聞きますし、有翼種の国に行って歴史書を読めば何かわかるかもしれませんが、生憎湿地に行く途中に有翼種の国は無いのですよね。
 邪悪なるモノを封印もしくは浄化いたしましたら、速やかに祖国に戻ることになっておりますし、遠回りをして有翼種の国による暇はないでしょうね。
 わたくしは今しがた読み終わった歴史書をアイテムボックスに仕舞うと、また別の歴史書を取り出しました。
 ページを淡々とめくっていきますと、ふと本に影が差し込みましたので顔を上げますと、見た事の無い龍人種の方が興味深そうにわたくしを見ておりました。
 ゾフィ、誰か来たら教えて下さいと申しましたのにっ!

「あの、なにか?」
「これは失礼。その本を読むことが出来るのですか?」
「ええ」
「それは素晴らしい! この国でも、古代語を理解できるものは少数でしてな、時間があれば是非とも我が国に長く滞在していただき、まだ解明されていない書物の解析に携わっていただきたいものです」
「それは魅力的なお誘いでございますが、生憎聖女としての役割がございますので、お断りせざる得ませんわね」
「まったく、残念です。パウラ様のような才女がまさか人間種にいるとは思いませんでした」
「わたくしには様々な亜人種の血が流れておりますので、純血の人間種と言うわけではございませんわ」
「然様でしたな。それにしても素晴らしい」

 モノクルをかけた紳士は、とにかくわたくしが水の龍人種の古代文字を読み解くことが出来ることに感激しているようで、「素晴らしい」と何度も繰り返していらっしゃいます。

「知恵こそ力の源。なに、剣を振るう事だけが国を救う手立てではございますまい。魔法と言う知恵もまた、この国を救う手段なのです」
「そうですわね」
「おっと、読書のお邪魔をしてしまっておりますな。では、私はこれで失礼いたします」
「ええ、ご機嫌よう」

 立ち去って行く紳士を見て、結局どなただったのでしょうか? と首を傾げましたが、読書を再開することにいたしました。
 今読んでいる歴史書の最後にはこう記載されております『メメント・モリ』、死を忘れるな、ですか……。
 邪悪なるモノが覚醒しており、話が出来る状態でしたら、対話をしてみたい気もしますが、世界の事を考えますと、一刻も早く浄化もしくは封印したほうが良いのですよね。

「パウラ、やっと見つけた!」
「あら、ハーロルト兄様。ダンスの申し込みはもう終わりましたの?」
「タイミングを見て逃げて来たよ。パウラだけこんな隅っこで休憩するなんてずるいじゃないか」
「あら、だってわたくし、表向きは病弱なんですもの。ダンスを三曲も踊ったら疲れてしまいますわ」
「よく言う。身体強化魔法で一晩中だって踊り続けられるくせに」
「ふふふ」

 ハーロルト兄様はわたくしの隣に座りますと、わたくしが今読んでいる本を覗き込んで首を傾げました。

「全く読めないな。歴史書っぽいけど」
「はい、歴史書でございます。水の龍人種の古代語で書かれたものでございますわね。なかなか興味深いですわよ。当時の人々の暮らしなどが書かれておりまして、とても勉強になりますわ」
「現代語ならわかるけど、古代語は流石に無理だなあ。パウラはパズルを解くみたいに古代語や異国語を解読していっちゃうけど、それって相当すごい事だってわかっている?」
「わたくしはただ読書をしたいだけですわよ」
「うん、そんなところがビブリオフィリア変人らしいね」

 その後、ビーネが運んできた軽食をつまみながら、夜会が終わるまでわたくしはソファーに座ったまま読書に集中いたしました。
 あ、食事はハーロルト兄様が口元に持ってきてくださいましたので、わたくしはそれを食べて咀嚼するだけの簡単なお仕事でございました。

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