話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

冬薔薇姫

茄子

014 カチヤの心労

【カチヤ視点】

 皆様、お初にお目にかかりますでしょうか、私の名前はカチヤと申します、家名は王宮に務めると決めた時に捨てたのでございません。
 まあ、一応元侯爵令嬢でございましたが、王宮に務めて三十年、元令嬢というのもはばかられますね。
 私の主はパウラ=ノルドヴィヒ様でございまして、冬薔薇姫、茨姫などというあだ名をつけられている、表向き病弱で本好きな大公姫君でいらっしゃいます。
 実情は、病弱でもございませんし、本好きと言うよりはビブリオフィリア変人でございまして、人間種どころか、亜人種にも共通致します三大欲求よりも本を読むことを優先すると言う、異常嗜好者でいらっしゃいます。
 え? 主の事をこんな風に言っていいのかって?
 五歳の頃からお育てした大切な私の姫君でございますので、他人が言ったらそれこそ物理で話し合いをつけますけれども、身内が言う分には問題はございません。
 なによりも、パウラ様自身がお認めになっていらっしゃいますしね。
 そんなパウラ様の好きな事は、もちろん読書であり、嫌いな事は読書の妨げになる物でございます。
 ですから、パウラ様が禁書につられてハーロルト殿下と婚約をなさったのには納得致しましたが、まさか読書の時間を邪魔されたくないという理由で、聖女に立候補なさるとは思っても見ませんでした。
 確かに、人間種は弱いので、魔物が大量発生してしまえば、大量の重軽傷者が出て、その度にパウラ様の回復魔法が求められ、読書の時間を削られてしまいますが、それを避けるために、邪魔な魔物を片付けに行くと言うのは、なんというか、異常嗜好者独特の考えでございますね。
 そもそも、我が国には既に勇者一行は決定しておりました、それも立候補で。
 けれども、約二ヶ月の間、王宮でだらだらとただれた関係を続けるだけで、聖女であるエーフィー様は魔法の一つも覚えず、ランツェル殿下達は兵士に交じって剣の訓練をするわけでもございませんでした。
 そんな中、聖女に立候補なさったエーフィー様は、自分の教育が進まないのはパウラ様がエーフィー様に嫌がらせをしているからだと難癖をつけたのでございます。
 読書が趣味で、余程のことが無い限り図書塔に籠って食事もそこで済ませているパウラ様が一体いつエーフィー様に嫌がらせをしたと言うのか、小一時間ほど問い詰めたい気持ちになりましたが、それよりも先にキレたのが他でもないパウラ様でいらっしゃいました。

「皆様もよろしいですわよね? なんといってもエーフィー様自らが嫌がらせをされたいとお望みなんですもの、思う存分陰口を言ったり、嫌がらせをして差し上げなくては失礼にあたりますわ」

 そう仰って、エーフィー様に反感の意志を持っている令嬢方を焚きつけたのでございます。
 もちろん、パウラ様がなさったのはそれだけではございません。
 エーフィー様のご実家であるレスデア男爵家の周辺に圧力をかけまして、まずお茶会や夜会などに一切誘いを出さないようになさり、商人にも伝手があるパウラ様は、商人にもレスデア男爵家に物を売らない・買わないようにと手を回したのでございます。
 ええ、それはもう見事な手腕でございました。
 レスデア男爵家は、次第に金策がうまくいかなくなっていき、お金を借りようにも、今まで懇意にしていた貴族達には無視をされてしまい、街の高利貸しにお金を借りるしか無くなってしまっていたのでございます。
 もちろん、エーフィー様はそのようなこと御存じないでしょう。
 なんでも、借金の請求に来た両親を、聖女の仕事で忙しいからとあっさり追い返してしまったと聞きます。
 魅了の魔眼でエーフィー様の虜になってしまっている両親としましては酷い裏切りにあった気分でございましょうが、魅了の魔眼の効果のせいで、エーフィー様を恨むことが出来ず、高利貸しに借金をする羽目になったのは、全て今まで懇意にしていた貴族たちが自分達を無視したせいだと恨み言を毎日のように言っているのだそうです。
 愚かしい事でございますね。
 そして、パウラ様が聖女に立候補する転機になった事件、ガルムの大量発生による重軽傷者の大量発生でございました。
 いつものように図書塔で読書を楽しんでいらっしゃったパウラ様に、王命と言う避けられない命令が下され、重軽症者の回復に駆けずり回ることになったのでございます。
 生憎、私は回復魔法は使えないので、パウラ様のお傍について、暴れる重傷者を押さえつけたりしておりましたが、そんな時、恐らく同じ王命を受けてエーフィー様がやって来たのですが、回復魔法など覚えていないと喚き、むしろ邪魔をしている状態でございました。
 パウラ様が追い出すように指示を出すと、エーフィー様は悪役令嬢が回復魔法を使えるなんておかしい、などと訳の分からないことをさらに喚き、パウラ様の邪魔をしてきたのでございます。
 重傷者が暴れるのを押さえていなければ、私が拳で黙らせてもよかったのですが、その時は衛兵がエーフィー様を強制連行させることで決着がつきました。
 その後、パウラ様は何かを決心したかのように、ガルム討伐に参加なさっていたハーロルト殿下の元に行き、聖女に立候補すると仰ったのです。
 私は、その嘆願はおそらく受理されると予測し、パウラ様の元を離れると、パウラ様の私室で作業をしていたフートとゾフィにパウラ様が聖女に立候補したことを告げ、その場合従者として私達も共に旅に出る可能性が高いことを告げました。
 二人はすぐについて行くという事を選択し、今までしていた作業を手早く終わらせると、今度は旅の支度に取り掛かったのでございます。
 もちろん、私もパウラ様の身の回りの物などを集める作業に取り掛かりました。
 そんな時、衛兵がやって来て国王陛下の執務室に行くよう言われたので、付いて行きますと、予想通り、パウラ様が聖女になるという誓約書にサインをなさっておいででした。
 そして、心を決めていた私達も、誓約書にサインをして、新たなる勇者一行が誕生したのでございます。
 パウラ様は任命式などせずに、一日でも早く魔物討伐の旅に出違っておりましたが、貴族に対する体裁がございますので、任命式は行う事になりました。
 ええ、先に任命された勇者一行も衛兵に連行されて参加しておりましたが、結局喚くだけで何の役にも立ちませんでしたが、パウラ様の提案で、同じ日に国を出立して魔物討伐に向かう事になったのでございます。
 ただし、エーフィー様は聖女として扱うべき魔法を習得してない為、その講師も同行しての旅となりました。
 私共は、パウラ様が魔改造した馬車で移動を致しますので、快適な旅路となるのですが、ランツェル殿下達の馬車は王族用の豪奢な馬車なだけですので、もちろん野営もなさるでしょうし、不便なことも多々あるでしょう。
 けれども、二か月間の間に何の準備もしていなかったランツェル殿下が悪いのだと私は思います。
 それにしても、聖女になることを決めた日に行った、パウラ様のオリジナル魔法には驚かされました。
 確かに、お二人が結婚為さった場合の初夜には、介添え人が付き、パウラ様が処女であることを確認する者が居るのですが、まさか初夜を迎える前にあのような事をなさるとは思いませんでした。
 私の教育が間違っていたのかと、行為を目の前にして眩暈が置きかけたほどでございます。
 パウラ様はドレスはさほど乱していないし、オリジナル魔法には相手の精が必要だから仕方がなかったと仰いましたが、一歩間違えれば痴女でございますわね。
 まあ、ハーロルト殿下も最初は驚いていらっしゃいましたが、結局はノリノリで協力なさっておりましたので、何とも言えないのですけれども……。
 あの時は、侍従・メイド全員が育て方を間違った、と天を仰いだものでございます。
 けれども、少々初行為が早まっただけだと自分達を無理やり納得させ、パウラ様が処女であった証を国王陛下に提出したのでございます。
 あの時の国王陛下のお顔は、私共と同じように、教育を間違ったのか、と言った驚愕の顔をなさっておいででした。
 まあ、ハーロルト殿下と婚約を結んだ時点で、結婚式の前に初行為をなさるかもしれないという事は、予想していても良かったかもしれませんね。
 なんと言いましても、婚約する前から、年頃の男女の距離にしてはあまりにも近すぎる距離を二人は保っておりました。
 もちろんパウラ様は本に夢中でございましたので、気になさっていなかったでしょうが、通常、年頃の令嬢を膝の上に乗せてせっせと給仕をする殿下がどこにいるというのですか!
 ああ、あの時止めなかった私共も悪かったのでしょうが、幼い日よりハーロルト殿下は正妃にはパウラ様を据えると国王陛下にも母親である正妃様にも、パウラ様のご両親にも宣言していましたので、見逃していたのでございます。
 ええ、それが間違いのもとでございましたね。
 ドレスをきっちりと着込み、さほど着崩すわけではないからと、そして信用のおける侍従とメイドの前だからと、あっさり初行為をなさったパウラ様の頭の中を一度覗いてみたい気分でございます。
 そして、いよいよ出立し、目指すのは北の湿地となっておりますので、まずはその中継地点にある風の龍人種の国を訪れることになりました。
 道中、魔物はもちろん発生いたしましたが、怪我人を出すことなく処理することが出来ました。
 そもそも、ハーロルト殿下のお付きの侍従とメイドも、パウラ様のお付きの侍従とメイドも亜人種の血が混ざった先祖返りが選ばれております。
 それ故、通常の人間種よりもより強い力を持っておりますので、チームワークさえ問題なければ、魔物の軍勢に襲われでもしない限り問題はないのでございます。
 さて、パウラ様は長い詠唱を必要とする魔法を使う場合、その体に茨が巻き付き、粉雪が舞い、茨から新芽が芽吹き薔薇の花が咲くという現象が毎回起きます。
 まあ、それが冬薔薇姫と言われる由縁の一つでもあるのですが、魔物の残照、瘴気を浄化なさる時もわずかではありますがその現象が起きます。
 それはとても美しい光景でございまして、見たものはその美しい姿に魅了されてしまうのでございます。
 もっとも、この姿を見たものはごく少数、あとは噂で広まり、冬薔薇姫などと言うあだ名がついたのでございます。
 もっとも、あだ名の由縁はそれだけではないのですけれどもね。
 普段は大人しいパウラ様ですが、キレると無表情のまま怒るのでございます。その姿が苛烈で輝かしい事もあり、令嬢を中心に茨姫などと呼ばれているのでございます。
 滅多にお茶会などに参加しないパウラ様ではございますが、王命・正妃命が下された場合は渋々ながらお茶会や夜会に顔を出されます。
 年々母親に似て、いいえ、それ以上に美しくなっていくパウラ様に婚約の申し込みは殺到しておりましたが、その全てをハーロルト殿下が暖炉の燃料へと変えてしまっておりました。
 そして、婚約を結び、初行為も済んでいるのですから、まあ、当然なのかもしれませんが、魔改造された馬車の中でのパウラ様とハーロルト殿下のベッドは同じ物でございました。
 まさか私共も一緒に寝ている中、性行為をする程理性が軽いとは思いませんでしたが、付き人達の中で、馬車の外で見張りをする寝ずの番以外に、ハーロルト様を監視する寝ずの番が出来たのは言うまでもございません。
 まあ、それでも風の龍人種の国では私共と部屋が別にされ、騎士に混ざって訓練をなさっていたハーロルト様が、熱に浮かされパウラ様と毎晩のように性行為を行っていたのは、ええ、仕方がないのかもしれません。
 パウラ様は避妊薬を飲んでいるから大丈夫だとあっさり仰いましたが、やはりお育て方を間違えてしまったのでしょうか?
 基本的に読書の時間を邪魔されるのが嫌いなパウラ様でございますので、ハーロルト殿下の性欲処理もより多く読書の時間を確保するための行為だったようなのですが、

「百聞は一見に如かずって本当ですのね。実践を経て、わたくしの閨事のスキルが上がったように感じますわ」

 などと言われた時は、本当に天を仰ぎ、神に謝罪したほどでございます。
 まあ、次に向かう水の龍人種の国に着くまでは、夜に性行為をなさることはございませんでしたので、そこら辺のハーロルト殿下の理性には感謝いたしました。
 そもそも、ベッドを別にすればよいと思ったのですが、

「パウラは私の抱き枕だから」

 と、笑顔で押し切られてしまったのでございます。
 さて、水の龍人種の国はハーロルト殿下の母君である正妃様の出身国でございます。
 いったい何が起きるのでしょうか、今から不安でたまりません。

「冬薔薇姫」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く