話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

冬薔薇姫

茄子

013 風の龍人種の国 出立

 風の龍人種の国に滞在して一週間、その間ハーロルト兄様達は、龍人種の騎士に混ざって訓練などをして過ごしておりましたが、わたくしは相変わらず図書塔に籠って本を読み漁っておりました。
 いよいよ出立するという朝、多くの風の龍人種の皆様がお見送りに来てくださいました。
 大爺様やその正妃様はいうまでもなく、騎士の方々で非番の方々がいらっしゃったのは、ハーロルト兄様達が受け入れられていた証拠でございますわね。

「パウラ、魔物討伐の旅時には困難な事も待ち受けているだろうが、我が息子たち同様、其方達なら完遂できると儂は思っておる。なに、他の亜人種の国の勇者一行も、人間種の勇者一行もいるのだ、そう気負わずに前に向かって進むがよい。餞別に、パウラにはこの本をやろう」
「まあ! 本ですか?」

 わたくしは無表情ながらに目を輝かせて一冊の本を受け取ります。
 お、重……、重量ではなく、本の持つ空気が重いですわ。

「大爺様、この本は?」
「禁書だ」
「そうですか、中身はどのような物なのですか?」
「禁術が記された本だと聞いておるのだが、生憎儂にはその本に書かれている文字が読めぬのでな。その本は読む人を選ぶのだ。パウラであれば読み解けると信じ託そう」
「ありがとうございます」

 わたくしはそう言って早速本のページをめくっていきます。
 そうしますと、文字を読むと言うよりは、文字が頭の中に刷り込まれていくような感覚がして、一瞬ふらり、と眩暈がしそうになりましたが、本を落とすわけにはいきませんので意地で足を踏ん張りました。
 なるほど、これが禁書ですか。
 人を選ぶと言うあたりが、禁書らしいと言えば禁書らしいですけれども、これは馬車の中でじっくり読んだほうがよさそうですわね。

「大爺様、ありがとうございます。何とか読めそうですわ」
「そうか! 流石はパウラだな。選ばれたからにはもうその本はパウラの物だ、遠慮なく持って行くと良い」
「はい」
「では風の龍人王、私達はもう出立したいと思います」
「なんだ、もう行ってしまうのか? 魔物討伐が終わった帰りにも是非寄っていくがよい」
「そのお心ありがたく頂戴いたします」

 ハーロルト兄様は礼をなさいましたので、わたくしもカーテシーを致しました。

「パウラさん、次に来る時までには、貴女にぴったりな装飾品をまた用意しておきますから、楽しみにしていてくださいね」
「はい、正妃様」
「これこれ、パウラには装飾品よりも本であろう」
「まあ、年頃の女の子なのですよ。しかもいずれは正妃になる身、装飾品はいくらあっても困りはいたしません。いざという時は換金することも出来ますしね」
「そんな、頂いたものを換金するだなんて……」
「あら、そんなこと気になさらなくてよろしいのですよ。貰った物は自分の物なのですから、どう扱おうと自由ですわ」
「そうですか」

 まあ、支度金も十分に貰いましたし、そもそも私財が潤沢にございますので、旅の資金に困るという事はないと思いますけれども。

「それにしても、パウラさんは図書塔に籠ってばかりで、お茶会にもお誘いできなかったのが残念でなりませんが、体が弱いのですものね、無理をさせてしまっては申し訳ないですわよね」
「ふ、ふふ?」
「パウラの体が弱いのう……」

 大爺様は知っていますわよね。
 正妃様、毎日毎日、あの図書塔の扉を開けているのは、身体強化したハーロルト兄様ではなく、わたくし自身でございますのよ、とはとても言えませんわ。
 正妃様は妖精種にとても夢を見ていらっしゃるようで、そのハーフであるわたくしの事をいたく気に入っているようなのでございます。
 妖精種、お母様のように育児放棄が基本で、自分は自由奔放に社交界を飛び回るような方々でしたらどうしましょう。
 ああ、でも妖精種のお爺様から毎年誕生日に頂く贈り物は砂糖菓子や装飾品に交じって本が贈られてきますので、育児放棄はお母様だけなのでしょうか?
 まあ、妖精種は亜人種の中でももっとも美しいと言われている種族ですので、夢を見るのも仕方がないのかもしれませんけれども、それをわたくしに求められても困ってしまうのですよね。
 正妃様は、わたくしの貴重な読書の時間を削ってまで付き合ったお人形の着せ替えごっこが大層気に入ったご様子で、もっと滞在期間が長ければ、デザイナーを呼んでドレスをオーダーメイドで作らせるのに、と嘆いていらっしゃいました。
 いや、わたくしは一度袖を通したドレスなんてもう着ませんわ! なんて主張する令嬢方とは違って、同じドレスを何度でも着れるような娘ですので、そんなにドレスも必要ありませんのよ?
 まあ、風の龍人種の国で流行っているドレスは、祖国で流行っているドレスよりも動きやすそうですので、一着ぐらい欲しいかもしれないとは思いましたけれどもね。
 まあ、今は聖女として旅立っている姫君の幼い頃・・・のドレスのサイズがぴったりでしたので、それは何着か頂いたのですけれども、わたくし成人しておりますのに、姫君が幼い頃に身に着けていたドレスがぴったりとかどういう事なのでしょうね!
 それと話は変わりますが、多分ですが、龍人種の方々は、属性に関係なく、皆様好戦的な部分をお持ちだと思いますわ。
 その理由は、女騎士の多さや、正妃様まで非公式の訓練試合をしたいとか言ってきたことでそう思いましたの。
 なんでも、武術を嗜むのも淑女教育の一環だそうで、我が国では考えられない事ですわね、まあ、我が祖国にも女兵士はいますけれども、数は少ないのですよね。
 護衛もできるメイドになる令嬢が多いですし。

「ああそうだ、パウラ達。最後にこの紅茶を飲んでいくと良い」

 そう言ってわたくし達はそれぞれカップを渡されました。
 柑橘系の香りのする紅茶ですわね。
 言われるがままに一口飲みますと、やはり柑橘系の果物の汁が使われているのか、爽やかな味がいたしました。

「我が国の神木から取れた果実を使用した紅茶だ、其方らの旅を良きものにしてくれるよう願いを込めて作らせた」
「神木……」

 いくら孫同然のわたくしが居る勇者一行にそのような物を飲ませて下さってよろしかったのでしょうか?

「人間種は脆いからな、これで少しは体が丈夫になるだろう」

 わたくしもハーロルト兄様もどちらかと言えば亜人種の血の方が多いですし、フート達も貴族ですので、亜人種の血が流れているなんて言えない雰囲気ですわね。
 あ、いえ、知っているのかもしれませんけれども。
 その後、わたくし達は魔改造した馬車に乗り込み、窓からお見送りをしてくださる皆様に手を振って、風の龍人種の国を後にいたしました。
 風の龍人種の国を立ち去って二時間ほど致しましたら、ハーロルト兄様の瞳孔が元の丸い形に戻りました。
 本当に大変でしたのよ、龍人種の気にあてられているせいなのか、騎士の方々と訓練をなさっていたせいなのか、夜は中々熱が収まらないと仰って、寝付かせるまでに苦労致しましたの。
 この一週間のおかげで、わたくしの閨事のスキルがアップしたように思いますわ。
 ええ、実践で学ぶのが一番だと書物にも書かれておりましたがその通りですわね、知識はありましたが、まさか自分があんなことをする羽目になるとは思いませんでしたし、出来るとは思いませんでした。
 まあ、背は低いですが、胸や尻に肉が付いていないわけではございませんし、冬薔薇姫なんてあだ名をつけられるぐらいには、そこそこ魅力ある肢体と容姿を持っていると自負しておりますけれども、けれども書物に記載されていたことを実行するとは思っていませんでしたのよ。
 まあ、魔物退治で気が高ぶっても、寝所がお付きの者達と一緒ですので、そう言った行為をすることはないので、ここぞとばかりに求められてしまったと考えれば、ええ、納得せざる得ないと言えなくもないですわね。
 というか、そうでも思わなければやってられないですわ!
 わたくしの貴重な読書の時間がハーロルト兄様の熱を冷ます時間に奪われてしまうなんて、今後発生して欲しくありませんわね。
 風の龍人種の国を出立しましたら、次に目指すのは水の龍人種の国になります。
 ハーロルト兄様のお母様である祖国の正妃様の出身国ですわね。
 ……え、また龍人種の国?
 まさかとは思いますが、また夜な夜なハーロルト兄様の熱を冷ますのに時間を取られることになってしまうのでしょうか?
 ……ご自分でしていただく? いえ、わたくしは本を読むので構わないのですが、それを見てご自分で処理なさるハールロト兄様を想像しますと、変態? と思えてしまいますわね。
 水の龍人種の国では部屋が別だといいのですが、きっと同じ部屋ですわよね、わかっておりますわ。
 わたくしは溜息を吐きながら、大爺様に頂きました本を開きます。
 相変わらず、読むと言うよりも文字が頭の中に刷り込まれてくるような感覚がいたしますわね。
 内容は簡単に言えば、邪悪なるモノの誕生秘話でしょうか?
 風の龍人種の初代勇者の執筆したものになっておりまして、人間種の勇者一行がいかにして邪悪なるモノを封印したのかが書かれている本になっております。
 当時の邪悪なるモノは番を仲間に殺され、闇に落ちてしまった龍神だったそうで、各国から集められた勇者一行が協力して対峙し、最終的に人間種の勇者一行が止めを刺したのだそうですわ。
 そのときに使用された刀が御神刀となり、東の果てにある、人間種の国に祀られることになったのだそうですわ。
 まあ、神殺しの刀ですし、祀られるのも当然ですわよね。
 東の果てにある人間種の国の文化は独特だそうで、まあ、言ってしまえば前世の日本の室町時代のような感じでしょうか?
 しかも、この書物によりますと、どちらかといえば、前世のとある県の選挙CMにも採用された戦国ゲームのように女性も戦うお国柄のようですわね。
 まあ、既に一国になっておりますので、国内で戦いが起きるという話はわたくしの耳には現時点で届いておりませんので、国内で戦は行われていないはずですわ。
 人間種の国って、他の亜人種の国と違って、世界各地に点在しているのですよね。
 まあ、それは人間種が生き残りをかけて各地を旅した結果なのですけれども、独特な文化を持つ国も多いのですよね。
 それは亜人種の国にも言える事ではあるのですけれども。
 基本的に、前世の世界のルネサンス期、つまり1500年~1550年ぐらいの時代背景が数千年続いている状態の世界だと思ってくださると分かりやすいかもしれませんわね。
 あ、もちろん国同士で戦争もございますのよ? 亜人種国の暗黙の協定で人間種の国は襲わないとなっておりますが、亜人種同士の国では戦争はたまにあるようなのですよね。
 まあ、魔物が活発化している今は、そんな戦争なんて言っている場合ではないので、戦争をしていた国も休戦協定を結んでいるようですけれども。
 意外な事に、好戦的だと思われる龍人種の国は戦争を受ける側で、仕掛けることはほとんどございません、逆に温厚に見えるエルフ種の国が各国に戦争を仕掛けることが多いと書物には書かれております。
 なぜでしょうね?
 それにしても、この禁書に選ばれたからと言って、あっさり頂いても良かったのでしょうか?
 結構重要な事が書かれておりますわよね。
 確かに、書かれている文字は古代龍人種の言語ですし、そう簡単に翻訳できるものではないかもしれませんが……。
 まあ、貰ってしまったのですし、ぐちぐち考えるのは止めにいたしましょうか。
 そんな事を考えながら本を読んでおりますと、口元にハーロルト兄様がスープの入ったスプーンを差し出して来ましたので、ぱくりと加えて、スープを飲み込みました。
 もう昼食の時間になってしまったのですか。
 まあ、読書の手は止める気はないのですけれどもね。
 その後も、ハーロルト兄様に食事を食べさせていただきながら、禁書を読み解いて行きました。
 読み終わった頃には夕食の時刻になってしまっておりまして、ゾフィ達がキッチンで料理をしている姿が見えました。
 一冊の本を読むのにこんなに時間がかかったのは久しぶりですわね。
 けれども、その分収穫はございましたし、良しと致しましょう。

「冬薔薇姫」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く