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冬薔薇姫

茄子

012 風の龍人種の国 その2

 有言実行ともうしますか、行動が早いと申しますか、ハーロルト兄様の実力が見たいと仰られた翌日には、非公式ではありますが、大爺様とハーロルト様の模擬訓練が行われることになりました。
 あ、もちろんわたくしもハーロルト兄様側として参加いたしますわよ。

「さあ、二人とも、かかってくるのだ!」
「はあ、勝てる気がしない」
「同感ですわねえ」

 ご自分で強化魔法をかけたのでしょう、大爺様は昨日よりも若々しく、筋肉隆々と言った感じなのでございます。
 わたくしも、ハーロルト兄様と自分自身に身体強化魔法をかけていきますが、二人掛かりでも勝てるかどうか、と言いますか、間違いなく負けますわよねえ。
 大爺様の妹である御婆様もハーロルト兄様のお母様である正妃様も、好戦的ではなかったと思うので、龍人種全てがこのように好戦的と言うわけではないのでしょうけれども、流石五十年ごとに行われる力試し大会で優勝し続けているだけあって、大叔父様は好戦的ですわね。

「何を弱音を吐いておる! ほれ、打って来い!」
「では、お言葉に甘えて!」

 ハーロルト兄様がそう言って剣を構えて大爺様に向かっていきましたので、わたくしは身体強化をフルに使ってハーロルト兄様の後ろにぴったりとくっつき、ハーロルト兄様が剣を振り下ろしたタイミングで飛び上がり、剣を受けている大爺様の頭上にメイスを思いっきり叩き込みました。
 「ドゴン」と言う音がして、メイスは残念ながら避けられ地面に大穴をあけただけになってしまいました。

「パウラよ、其方本当に病弱か?」
「そういう事になっておりますわ。そんな事よりも、今の攻撃を避けるなんて、流石ですわね」
「ふん、甘いわ。殺気がまだ隠せておらん」
「いえ、隠す気もないのですが……」

 地面にめり込んだメイスを抜き取りながら、そうため息を吐きますと、ハーロルト兄様が横にやって来ました。

「パウラ、時間を稼ぐから使いたがっていた大魔法を打ち込んでみようか」
「よろしいのですか?」
「風の龍人王だし、大丈夫だろう」
「適当ですわね。では、魔法を練りますので、時間稼ぎ、頑張ってくださいませね」
「OK」

 そう言って大爺様に向かっていくハーロルト兄様を見ながら、わたくしは自身の体に巡る魔力を操り、魔法陣を空中に組み上げていきます。

「お、何かする気か?」
「実験台になっていただきますよ、風の龍人王」
「なんと、王を実験台にするとは、いやはや、末恐ろしい子供達だの」

 空中に魔法陣が完成いたしましたら、魔力を流し込んでイメージを膨らませていきます。
 そうしますと、わたくしの周りを茨が囲み始め、わたくしを覆い隠すほどになった頃、茨の周りに粉雪が舞い、その茨から新芽が芽吹き花を咲かせます。
 ぶつぶつと呪文を紡ぎ、その魔力が頂点に達した時、最後の呪文を叫びました。

「バーストフレア!」

 その瞬間、大爺様が爆発したように見えました。
 この魔法は、目標の内部に火球を生み出し、爆発させると言う古の魔術でございまして、魔力をそれなりに持って行かれてしまうのですよね。
 大爺様の様子を見ていますと、ゴホゴホと黒い煙を吐きながら、それでもしっかりと地面に足を付けて立っていらっしゃいます。
 うーん、やはりだめですか、人間種でしたらひとたまりもないはずの大魔法なのですけれどもね。

「中々であったぞパウラ! しかし発動までが遅い! もっとイメージを膨らまし、呪文を短くしなければ実践では使えぬぞ! それに、威力にも迷いが見えた、もっと全力を出せたはずであろう」
「いえ、流石に魔力を全て使い切って大爺様を殺すわけにもいきませんので……」
「ハーロルトの剣術も中々であった。しかし、其方はまだ若い、もっと伸びしろがあるだろう」
「はあ、ありがとうございます」
「しかし、儂にここまで傷を負わせたものは久しぶりに現れたぞ! いや、実に愉快な時間である」

 こちらは割と必死なのですが、それを愉快の一言で終わらされてしまうとは、まだまだ精進が足りませんわね。
 けれども、よく見てみれば、大爺様の体のあちらこちらに剣の切り傷が出来ております。
 口からは相変わらず黒い煙を吐いておりますし、結構いい線は行けたのではないでしょうか?

「しかし、パウラの放ったバーストフレアという魔法はしぶといな、未だに儂の臓物を焼き切ろうともがいておる」

 それに平然と耐えていらっしゃる大爺様は何者なのでしょうね!?

「ほれ、今の儂は弱っておる、止めを刺すのなら今の内だぞ」

 まだ続けるおつもりですか!?

「ハーロルト、剣を構えよ!」
「はあ、戦闘狂……」
「はっはっは! 戦いこそが儂の血を熱く燃えさせるのだ」

 ハーロルト兄様はため息をつきますと、再び大爺様に切りかかっていきます。
 なるほど、確かに先ほどよりも大爺様の動きは鈍くなっておりますが、まず筋肉に覆われた肉体を傷つけること自体が難しそうですわね、筋肉がさながら鋼鉄のようですもの。
 わたくしはもう一度魔法を行使するために魔法陣を空中に描き、ぶつぶつと呪文を唱え始めます。
 先ほどのように茨が体を包み始め、粉雪が舞い茨から新芽が芽吹き、花が咲いたその瞬間、今度は別の魔法を発動しました。

「ブラストボム!」

 途端に、溶岩のような物が大爺様をめがけて襲い掛かっていきます。
 ハーロルト兄様も巻き込まれかけましたが、寸でのところで避けたようで良かったですわ。

「パウラ! 危険だろう!」
「ハーロルト兄様でしたら避けて下さると信じておりましたわ」
「そういう問題じゃない!」
「そんな事より、大爺様は?」
「ふはははははは、これはいい、これはよいぞパウラ!」

 うそぉ、直撃したはずですのにめちゃくちゃ元気そうですわね。
 一応、祖国の一般の魔術書に記載されている最大級の魔法でございましたのに……。
 人間種でしたらゆうに百人は溶岩に呑み込まれて死ぬ予定の魔法ですのよ? 本当に大爺様がなぜ勇者に立候補なさらないのか不思議で仕方がありませんわ。
 ……ああ、国防がありますものね、最強の存在である大爺様が国を空けてその間に魔物の大群が押し寄せてきたら大変ですものね。

「降参ですわ。大爺様」
「同じく、降参です、風の龍人王」
「む、そうか? 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものだな。それにしても、今のブラストボムの熱は良いな、体に溜まっていた疲れが洗い流されるかのような気分であった」

 いえ、そんな魔法ではありませんわよ?
 龍人種の王は皆様このように頑丈なのでしょうか? 先行きが不安になってしまいますわね。
 少なくとも、ハーロルト兄様のお母様、国王陛下の正妃様のお父君はそうでないとよろしいのですけれども、どうなのでしょうか?
 正妃様、幼い頃のハーロルト兄様に剣を教えるのだと言って自ら剣を振るっていたこともあると聞きますし、本当に不安ですわ。

「うむ、久しぶりに本当に愉快な時間であった。ハーロルト、温泉に行くが付き合え」
「わかりました」
「パウラはどうする?」
「わたくしはさほど汗もかいておりませんので、このまま図書塔に行こうと思いますわ」
「そうか、ではまた夕餉の時刻になったら会おう」
「わかりましたわ」

 はあ、書物で読んだ知識だけではまだまだというわけですのね、実用化するにはもっと実践訓練を積まないといけないという事でしょうか。
 けれども、道中の魔物はハーロルト兄様達があっさりと倒してしまわれましたし、わたくしがすることと言えば、瘴気の浄化ぐらいでしたものね。
 そんな事を考えながら、図書塔に向かいまして、強化魔法を自身にかけて重たい扉を開きます。
 強化魔法をかなりかけて両腕で押してやっと開けることのできる扉を、片手で軽々と開けてしまわれた大爺様はやはり只人ではござませんわよね、ええ、龍人種だという事を除いても、普通じゃないと思いますわ。
 大爺様、確かお年は350歳を越えているとお聞きしましたが、まだまだ現役バリバリですわね。
 純血の龍人種の寿命は千歳にも達すると聞きますし、まだ若いと言ったところなのかもしれませんわ。
 あら? でも確か大爺様のお母様は人間種でいらっしゃったはず……、突然変異でしょうか?
 大爺様が龍人種の基準だとは思いたくありませんわね。
 わたくしは図書塔に入りますと、読む本を選んでいき、魔法の灯りの下で、次々とページをめくっていきます。
 祖国にはない知恵の泉達に、わたくしのビブリオフィリアの血が滾っていくのが分かります。
 ただの人間種では魔力不足で使えない魔法も、書物には多く記載されております。
 幸い、わたくしは魔力保有量が多いので、こちらの魔法も使えそうですわね。
 けれども、流石は他の龍人種の国よりも歴史が浅いとはいえ、龍人種の国にある本なだけあって、祖国にある本と違い、魔法でもその他の文体でも、洗練されているのが分かりますわ。
 とくに魔法に関しては、数多の呪文が記載されており、イメージの膨らませかたまで記載されておりますので、実際に魔法を発動するまでの時間が短縮されていいですわね。
 メギドフレア……浄化の炎ですか、浄化魔法で使えそうですわね。
 わたくしは戦闘狂と言うわけでもありませんし、戦闘しているよりも本を読んでいる方が好きですけれども、ハーロルト兄様達が戦っている中、一人のんびりしているのも好きではないのですよね。
 せっかく戦闘用の浄化特化メイスも作成しましたのに、未だに活躍していないのですもの、勿体ないですわよね。
 あ、このバーストバーメンは殺虫魔法ですか、旅にはもってこいの魔法かもしれませんわね、馬車で寝泊まり致しますので、野営は致しませんが、御者を担当するものにかけておけばいい虫よけになるかもしれませんわ。
 湿地に向けていくにあたり、どんどん気温は下がっていくとはいえ、虫の発生はありますものね。
 虫から疫病が蔓延することもございますし、用心するに越したことはございませんわ。
 本当にここにある本たちは素晴らしいですわ、出来る事なら祖国に持ち帰りたいぐらいですけれども、持ち出しは禁止ですものね、本当に残念ですわ。
 せめて読めるだけ読んで知恵の泉を蓄えておかなければいけませんわね。
 そのまま数時間、食事を取ることもせずに読書をしておりますと、「ヒョイ」と本を取り上げられてしまい、顔を上げますと、大爺様がいらっしゃいました。

「パウラ、夕餉の時刻だ、参るぞ」
「まあ! もうそんな時間ですの? わかりませんでしたわ」
「ここは時間を忘れやすいからな。しかし、其方確か朝食も食べていないと言ってはいなかったか?」
「ええ、早朝から大爺様との模擬訓練がございましたので食べておりませんわ」
「昼食も食べていないのであろう?」
「そういえば食べておりませんでしたわね。つい読書に没頭してしまいまして」
「其方のお付きの侍従とメイドは今日はどうした?」
「今後の旅用に食料品の買い出しに行っておりますわ」
「其方一人でこの扉を開けたのか!?」
「ええ、身体強化魔法は使いましたけれども」
「ははは! これは愉快だ。この図書塔は有事の際の避難所でもあってな、扉はそう簡単に開かないように重いものになっているのだぞ、それを強化魔法をかけたからと言ってこの細腕で開けたと申すか」
「大爺様は強化魔法をかけなくても片手で開けたではありませんか」
「儂が開けなくて誰が開けると言うのだ。民の安全を第一に考えてこその国王であろう。力試しはなにも腕っぷしの強さだけを競うものではない、いかに民を思いやれるかも競う物でもあるのだ」
「そうなのですか」

 脳筋だと思っておりましたが、そんなことはないのですね。

「そうだ、夕餉の際にお前に似合うと思う装飾品を持ってこさせよう。母上の物だが、質はいいし、流行遅れと言うわけでもない。パウラもいずれ国王の正妃となるのだから、装飾品を多く持っていて困るという事はないだろう」
「よろしいのですか?」
「ああ、かまわない。儂の娘はそう言った物にまったく興味がなく清貧を好んでいてな、着飾らせようにも拒まれてしまうのだ。孫娘もまだいないし、儂の希望は其方だけなのだ」

 わたくしもそんなに着飾るのを好む方ではないのですが……。

「わかりましたわ、もし気に入ったものがありましたら頂くことにいたしますわ」
「そうか、それはよかった。なに、儂の正妃もパウラに似合う装飾品を選ぶのに朝からかかりきりでな、それはもう膨大な量になっているはずだから、気に入るものが必ずあるはずだ」
「そうですか」

 娘を着飾らせられないから、替わりにわたくしをお人形のように扱いたいのですね、わかります。

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