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冬薔薇姫

茄子

011 風の龍人種の国 その1

 その後、わたくし達一行は道すがら魔物を倒したりしながら、龍人種の国の一つに到着いたしました。
 ここは、わたくしの祖母の祖国になりまして、毎年誕生日には貴重な本をプレゼントで贈ってきてくださるのですよ。
 あ、正妃様の出身国とはまた別の龍人種の国になっておりますので、お気を付けください。
 風の龍人種の国に入りますと、ハーロルト兄様の容姿に変化が出始めました。
 瞳孔が丸から縦長に変わったのでございます。
 おそらく、この国に満ちている龍人種の気にあてられての変化だとは思いますが、こうしてみると、つくづく正妃様に似ていらっしゃると実感してしまいますわね。
 国にある王宮に紹介状を持ってまいりましたら、すぐさま応接室のような場所に通されまして、この国の国王陛下が来るのでしばらく待つように言われてしまいました。
 わたくしは待っている間、アイテムボックスから本を取り出して読んでおりますと、横からハーロルト兄様が口元にお茶うけに出されたクッキーを持ってきますので、それをモグモグと頂きながらの読書となりました。
 丁度本を一冊読み終わったところで、豪快に扉が開き、そこからお会いするのは初めてになりますが、祖母の兄でいらっしゃるこの国の国王陛下がおいでになりました。

「よく来たな、パウラ。我が国を挙げて歓迎しよう」
「はじめまして、国王陛下」
「よいよい、其方は儂の孫のようなものだ、堅苦しい挨拶は抜きにしよう。儂の事は大爺様とでも呼んでくれ。それで、人間種の其方の国の勇者一行は、其方達だけか?」
「いえ、もう一組居りますが、正反対の方向に進みましたので、この国に来るかはわかりませんわね」
「そうか、まあよい。人間種の勇者一行は丁重にもてなすのが亜人種の国の習わしだ。自分の国だと思って楽に過ごすがよい」
「大爺様、ではお言葉に甘えまして、図書館はどちらにございますでしょうか?」
「パウラは噂通りの本好きなのだな。毎年本を贈っていた甲斐があるというものだ。しかし、其方は病弱でもあるのだろう? 休まなくとも良いのか?」
「大丈夫ですわ、大爺様。それよりも、図書館に案内してくださいませ」
「わかった、しかし龍人種の言語で書かれている物がほとんどだぞ、読めるのか?」
「もちろんでございます。むしろ、龍人種に伝わる古代語の本などございましたら、是非解読したいと思いますわ」
「そうか、では案内しよう」

 わたくし達は大爺様の案内で王宮内を歩いて行き、大きな塔の前に辿り着きました。
 この国でも図書館は図書塔のようでございます。
 けれどもこの扉、ものすごく重そうですわね、身体能力強化で開くことが出来ますでしょうか?
 そう考えておりますと、大爺様が片手であっさりと扉を開けてしまいました。
 明るい外から見ますと、中は薄暗く、明かりがないようで目が慣れるまで時間がかかってしまいそうです。
 けれども中に入りますと、足元が「ぽう」と明るくなりまして、次々に魔法の光があちらこちらで灯り始めたのでございます。
 その光景にわたくしが感動しておりますと、大爺様に背中を押され、また一歩足を踏み入れました。

「この図書館にある本は基本的に持ち出し禁止だ。それと、最上階にある書棚の物は禁書となっているので、見る場合は許可を取らなければ最上階に辿り着くことは出来ない」
「わかりましたわ」
「それと、魔物や邪悪なるモノに関連する本は我が国の勇者一行が持って行ってしまっているため現在はほとんど無いはずだ」
「そうなのですか」
「まあ、あとは自由に見ると良い。そうだ、王宮内に客室を用意させよう。いつまで滞在してくれる予定になっておるのだ?」
「出来る限り早く出立したいと思ってはいるのですが」
「なんだ、それではつまらぬではないか。少なくとも一週間はかわいい孫同然のパウラの顔を見せていておくれ」
「わかりましたわ」

 一週間ぐらいあればそれなりの量の本が読めますわね。
 歓迎してくださる大爺様に感謝をしなければいけませんわ。
 大爺様が図書塔を出ていくのを見送ってから、わたくしは複雑な階段を上りながら見た事の無い文字で書かれている本を中心に集めていきました。
 なるほど、これが龍人種の古代語ですのね。
 現在の龍人種の言葉と照らし合わせながら、解読を進めていきます。
 形としては漢文に近いのでしょうか? けれども、文節を読み解いていくと、古代プロシア語も混ざっているような形ですわね。
 ふむふむ……………………………………………………………………。
 なるほど、大体わかりましたわ。
 そうなりますと、この文献は、邪悪なるモノが存在していた時代の龍人種の生活について書かれているわけですわね。
 現在の言葉で書かれている魔物や邪悪なるモノに関する本は確かにありませんでしたが、古代語で書かれている物はまだ残っているというわけなのですね。
 へえ、邪悪なるモノの力の影響が濃くなっていくと、魔力が高いと言われている龍人種にもその影響を受けて、魔物化する人も現れていたのですか、しかもある日突然変異してしまうと……、まあ! 人を喰らう魔物に変化ですか!? まるでホラー映画のような光景だったのではないでしょうか?
 あ、でもこの書物に記載されているのは、魔力が高い者が魔物化しやすいと……、邪悪なるモノの影響は魔力が高い方が影響を受けやすいのでしょうか?
 それにしてはよくこの国の王族は無事でしたわね。
 えっと、なになに? なるほど、王宮全体を強固な結界で守っていたわけですか。
 邪悪なるモノが目覚めた当時のこの国の勇者と聖女は王子と王女、そして選りすぐりの精鋭一個師団だったのですね。
 大人数での移動は大変でしたでしょうけれども、王子と姫を危険な目に合わせるわけですから、確かに一個師団を動かしてもおかしくはない、のかもしれませんわね。
 まあ、我が国は王子と大公姫が勇者と聖女をしてもお付きの侍従とメイドしか随行しておりませんけれども。
 嫌ですわよ、一個師団なんて動かすの、時間もかかりますし、何よりも面倒そうですもの。
 一万人以上もの食料を現地調達とか、眩暈がしそうですわよね、泊まる場所も確保が大変そうですし。
 …………ああ、なるほど、だんだん規模は縮小されていっているのですね。
 けれども、勇者や聖女は王子・王女から選ばれることは少なくないと。
 まあ、あくまでも古い文献ですので、今回の勇者・聖女が王族とは限りませんわよね、その部分は大爺様にでも聞いてみることにいたしましょう。
 本と読んでいっていると、「ポン」と肩を叩かれて、本から顔を上げますと、大爺様がいらっしゃいました。

「夕餉の時間だ。今宵は歓迎の意味を込めて豪勢なものとなっておる故、楽しみにしていると良い」
「まあ、もうそんな時間ですか?」
「ああ、……古代語で書かれた本だな、読めるのか?」
「はい、文字を解読いたしました。発音まではまだわかりませんが、読み書きならできるようになりましたわ」
「はははっ! 学者どもが度肝を抜くな。龍人種の古代語は難解で、解読も難しいと学者どもが嘆いている物なのだぞ」
「そうなのですか? 法則を読み解いてしまえば簡単でございますわよ」
「ふむ、その言葉、学者どもの前では言うてくれるなよ、一週間は寝込んでしまうだろうからな」
「そうなのですか? この国の歴史などについて討論できればと思ったのですが、残念ですわね」
「この国は風の龍人種の国だからな、他の龍人種の国の歴史よりは少々歴史は浅い」
「なぜでしょうか?」
「風の龍人種は基本的に一所に留まることを好まない性質があったからな。それでも、邪悪なるモノの存在によって、風の龍人種もまとまざるをえなくなり、この国が出来上がったというわけだ」
「それでは初代の国王はどのように決まったのですか?」
「現在まで続いている制度だが、五十年ごとに行われる力比べの大会の優勝者が国王となる」
「まあ! では大爺様はその大会の優勝者でいらっしゃるのですね」
「うむ、まだまだ若い者には負けぬぞ」
「では、この国の勇者・聖女はどちらの方々がおなりになったのですか?」
「儂の息子と娘が勇者と聖女となっている。なに、あれでも儂の次には強い者達だ、心配はいらぬさ」
「この文献には、かつては一個師団を護衛に付けていたとありますが、今の随行人は何人ほどなのですか?」
「二十人ほどだな、そのうち戦いに参加するのは十人ほどだ。あとは回復役や世話役となっている」
「なるほど、大分規模は縮小されているのですね」
「ああ、だがお前達には驚いた。たった七人で魔物退治をするとはな。しかも亜人種の血が多く流れているとはいえ、人間種がよくもやるものだ」
「下手に大勢で動いて、怪我人が多数出ましたら、逆に大変でございましょう?」
「なるほど、言い得て妙だな」

 大爺様はそういうと、わたくしを「ひょい」っと抱えると、図書塔を出て行きました。

「大爺様、降ろしてくださいませ」
「儂の気に入りだと王宮に出入りしている者たちに知らしめる意味もあるのでしばし我慢をせい。まあ、勇者一行の聖女に手を出す愚か者はいないとは思うが、念のためだ。それにしてもパウラは軽いな、きちんと食べているのか?」
「わたくしは食事よりも本を読んでいたいのですが、お付きのメイドや侍従がそうさせてはくれませんので、きちんと三食いただいておりますわよ」
「間食は無しか?」
「そうですわねえ、ハーロルト兄様が時折戯れにわたくしが読書をしている最中に菓子を口元に持ってくるので、それを頂くことはございますわ」
「ハーロルト、其方の国の勇者だな。確か第一王子の名前だと記憶しているが、間違いないか?」
「ええ」
「そうか。お主がパウラの将来の夫か。よし、あとで手合わせを願おうか」
「怖いですね。わかりました」
「ははは、話の分かる婚約者だ」

 あらまあ、ハーロルト兄様と大爺様が戦う事になってしまったようですわね。
 孫娘同然のわたくしの婚約者として認めて欲しければ自分を越えて行け! みたいなスポコン的思考なのでしょうか?
 いくらハーロルト兄様であっても、身体強化なしで大爺様に勝てるとは思えないのですが、サポート役でわたくしが入ることは可能でしょうか?

「大爺様、ハーロルト兄様のサポート役として、わたくしも参加してよろしくて?」
「なんだ、聖女であるパウラも戦うと言うのか?」
「いえ、主にバフと回復要員ですわ」
「ふむ……まあ、良いだろう。其方達の連携を見るのもまた一興だ」

 その言葉にほっと胸を撫でおろしました。
 実際に戦闘になった際は、魔物用の浄化魔法を付与した魔石の付いたメイスとは別の、物理強化魔法の付与されたメイスを持って参加することにいたしましょう。
 あんな重たそうな図書塔の扉を片手で簡単に開けてしまうような大爺様に通用するかはわかりませんが、持っておくに越したことは無いですわよね。
 そう話しているうちに着いた客室は、また重厚な扉があり、わたくしを抱えたまま大爺様は軽々とその扉を開けました。
 中は、我が国の客室と大きな違いはありませんが、目立つ位置に大きな肖像画がかけられておりました。
 随分古いものに見えますけれども、どなたのものでしょうか?

「大爺様、あの肖像画の人物はどなたですか?」

 わたくしは大爺様に床に降ろしてもらいながら尋ねますと、大爺様は目を細めて肖像画を見ました。

「あれは、この国の初代の国王とその王妃の肖像画だ。この国の初めての勇者と聖女でもある」
「まあ、そうなのですか」
「伝説では、その拳は山をも砕き、その足は海をも割ったと言う」
「それはすさまじい伝説ですわね」
「王妃である聖女は、死人すら蘇らせたと言う」
「死者蘇生は我が国では禁術になっておりますわね」
「ああ、術者にかかる負担が大きい故、我が国でも禁術に指定されている」

 やはり、死者蘇生には相当の対価が必要なようですわね。
 はあ、早く我が国の禁書庫を読み漁りたいですわ。
 流石にこの国の禁書を読むのは難しいですわよね、その前に普通の書物を読み切るのも無理ですし、早く出立したい気持ちと、しばらくここに留まりたい気持ちがせめぎ合ってしまいますわね。

「ここはパウラとハーロルトの部屋だ、好きに使うと言い」

 あら、さり気なく同室ですか、別に構いませんけれども。
 部屋の中を案内されまして、最後に見た寝室にあったベッドはもちろんキングサイズのものでございました。

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