話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

冬薔薇姫

茄子

010 VSブラックドッグ

 旅はわたくしの提案で文字通り魔改造された馬車で行きます。
 二人ほど見張りを兼ねた御者になりますので、実質六人が馬車の中に入るのですが、わたくしの掛けた空間魔法のおかげで、馬車の中は、普段わたくしが使っている私室とほとんど変わらない広さとなっております。
 ベッドも五人分用意いたしましたし、キッチンも備え付けてありますし、お手洗いも洗浄魔法を常時発動させているので問題ありません。
 もちろん浴槽も完備しておりますわよ。
 わたくしにとって、快適に読書をおくれない場所なんて、地獄でしかございませんもの、快適に読書をできる場所を構築するのに、手など抜きませんわ。
 そうそう、なぜベッドが五人分なのかと申しますと、わたくしとハーロルト兄様は一緒のベッドで眠ることになっているからでございます。
 ええ、気が付いた時にはそのようにハーロルト兄様に約束をされておりました、なんでも婚約者だし、例の魔法を発動させた時に、その、致してしまったので今更だとか言われて、わたくしもハーロルト兄様の事は好意を持っておりますので拒否出来ませんでしたの。
 まあ、好意を持っておりませんでしたら婚約者にそもそもなりませんでしたし、例の魔法も発動いたしませんでしたわ。
 本当に、メイドや侍従の見ている前で例の魔法を発動するのは羞恥心でいっぱいでございましたが、まあ、今はそれはおいておきましょう。
 わたくし達と時を同じくして魔物討伐に出立するランツェル様達の姿はお見掛けいたしましたが、皆様蒼白な顔をなさっておいででしたわね。
 勇者一行に自ら立候補なさったのに、いざ魔物討伐に向かうとなったら怖気づいてしまったのでしょうか?
 まあ、少なくともわたくし達の使用する魔改造した馬車と違い、あちらは普通に豪華なだけの馬車ですので、道中は何かと不便かと思いますわ。
 けれども、約二ヶ月もあったのですし、準備はしていたはずですわよね?
 まさかとは思いますが、全くしていなかったなどと言う世迷言は言いませんわよねえ。

「パウラ、それじゃ行こうか。まずは隣国、風の龍人種の国、私達のひいお婆様の祖国だ」
「楽しみですわ。龍人種は亜人種の中でも特に長命ですもの、古い文献や書物が沢山あるのでしょうね」
「あくまでも、メインは魔物討伐、ひいては邪悪なるモノの封印もしくは浄化だからね?」
「分かっていますわ。でも、本がわたくしを呼んでおりますの」
「ずっと思っていたんだけど、パウラが私に側妃を勧めてくるのって、公務に邪魔されず読書に精を出したいからかい?」
「他に何かございまして?」
「うん、わかっていた。わかっていたよ」
「わたくしの考えなどお見通しなのですわね、流石はハーロルト兄様ですわ」
「いや、誰でもちょっと考えればわかると思うよ」
「そうでしょうか?」
「まあ、どんなに拒んでも、私の長子はパウラが産むのだからね」
「それは逃げられない事だと思っておりますわ。大丈夫です、閨事の本も、子育ての本も読破いたしましたもの。それに、例の魔法を発動するときもちゃんと出来ましたでしょう?」
「ああ、うん。初めてだとは思えないほどにスムーズだったね」
「知恵の泉は裏切りませんのよ」
「いや、もうちょっと初々しさがあっても良かったんだけどね」
「あら、皆様に見られながらの魔法の発動は十分に恥ずかしかったですわよ?」
「あれは見ている方も恥ずかしゅうございましたよ、パウラ様」
「でもゾフィ、ハーロルト兄様がすぐにでも魔法を発動させてほしいと仰ったんですもの。それにドレスをそれ程乱したわけではありませんし」
「パウラ様。そういう問題ではございません。淑女たるもの、人前でみだりにあのような真似をするものではございません」
「けれども、初夜の晩はわたくしが処女かどうかを確認する未届け人が居るのでしょう? それが貴女方になっただけではありませんか」
「そういう問題でもございませんが……、本当に本のこと以外興味がございませんね、パウラ様」
「ええ、本は素晴らしいですわ。いつだって新鮮な夢の世界にわたくしを旅立たせてくださいますもの。知恵の泉、それこそがわたくしの生きる力ですわ」
「パウラほどのビブリオフィリア変人は亜人種の国にもそうそう居ないだろうね」
「もしわたくしの同志が居りましたら、是非、今まで読んだ本に関して論じたいと思いますわ」
「うん、わかった。とりあえず、この先の村にブラックドッグが出たという話だし、先ずはそのブラックドッグを倒そうか」
「わかりましたわ。到着するまでわたくしは読書に精を出しておりますので、到着したら教えてくださいませね」
「この馬車の速さだと、夕暮れ前には到着するだろうね」

 あ、ちなみに馬車を引いておりますのは、身体能力で強化いたしました魔馬でございます。
 羽も生えておりますので空を飛ぶことも出来ますのよ、本当に便利なものをハーロルト兄様は捕まえていらっしゃいましたわね。
 わたくしはアイテムボックスの中から、魔物について書かれている本を取り出しますと、ブラックドッグの項目を呼んでいきます。
 見るだけでも相手に死を与えてしまう場合もある恐ろしい魔物だそうで、別名チャーチグリム墓守犬
 普通であれば、墓荒らしから墓を守る妖精に類するものだったようですが、邪悪なるモノの復活の気配にあてられて魔物化してしまったのでしょうか?
 この世界における魔物の定義は『理性を失った動植物』を指しまして、人間種でも理性を失ったと判断されれば、魔物と定義づけられ討伐されることになっております。
 まあ、何をもって理性と言うのかについては、長年各国で議論されておりますが、とにかく魔物というものはこの世界ではそういう物なのでございます。
 そうして、伝承では、そういった魔物を統括もしくは生み出すのが邪悪なるモノなのです。
 前世で読んだ小説では、邪悪なるモノは蝶のような羽の生えた羊角を持った存在として挿絵で描かれておりました。
 小説の中では、神はこう啓示なさるのです、『邪悪なるモノが羽化した。聖女よ、今こそ立ち上がり邪悪なるモノを打ち滅ぼすのだ』と。
 年末にそのような啓示を出され、勇者一行がレベルを上げながら湿地に向かうのですから、今この時期に急いで湿地に向かえば、邪悪なるモノが羽化する前に対処できるのではないかと思うのですよね。
 面倒なことは早めに片付けてしまう方がよろしいですし、力がついてしまっている場合よりも、力が付く前にカタを付けたほうが楽ですわよね。
 わたくし達は、湿地に向かう最短距離を進みますが、ランツェル様達はレベル上げを兼ねて真逆の方向に向かうようでございます。
 まあ、この世界といいますか、この星も前世の地球のように丸いので、真逆に進んでもいずれは湿地に到着するのではないでしょうか? まあ、大分遅れるとは思いますけれども。
 ランツェル様達が湿地に到着する前に、わたくし達でカタを付けるのが一番なのですよね。
 そんな事を考えながら本を次々に読んでいきますと、村に着いたのか、静かに馬車が止まり、ハーロルト兄様に本を取り上げられてしまいました。

「ほら、仕事の時間だよ。聖女様」
「わかりましたわ、勇者様」

 わたくし達が外に出ますと、まだ日が暮れる前で、辺りはまだ明るくなっております、この時期のこの国は、日が暮れるのがとても遅いのですよね。
 湿地帯に行けば行くほどそれは顕著になり、湿地帯はこの時期は白夜となっておりまして、日が沈まないのだそうですわ。
 ええ、前世で読んだ小説での知識でございます。
 そういえば、エーフィー様は十中八九転生者(それもイタイ系ヒロイン)だと思うのですが、なぜ湿地とは真逆の方向に向かうことにしたのでしょうか?
 確かに、レベルを上げるには、あちらにいる魔物の方がレベルは低いので、レベル上げにはもってこいかもしれませんけれども、それにしても効率が些か悪いのではないでしょうか?
 それとも、神からの啓示を待って湿地に向かう気なのでしょうか? それって、下手をすれば手遅れになるのでは?
 まあ、わたくし達は最短距離で湿地を目指しますので、本気で神からの啓示がある前に邪悪なるモノを浄化もしくは封印できるかもしれませんわね。

「それで、ブラックドッグはどこにおりますの?」
「墓だよ」
チャーチグリム墓守犬ですものね、納得の居場所ですわ」

 わたくし達は墓場に向かいます。
 墓場の敷地に一歩足を踏み入れますと、重苦しい空気がのしかかってきましたので、わたくしは全員に障壁バリアを張りました。
 これで不意打ちには一度ぐらいは耐えられますわね。
 墓場を進んでいきますと、瘴気と言えばいいのでしょうか? 黒い靄のようなモノが溜まっている場所がございました。

「お下がりを」

 フートがそう言って投げナイフを黒い靄のようなモノに向かって投げつけますと、ナイフは黒い靄のようなモノに吸い込まれてしまいました。
 そうしますと、黒い靄のようなモノは次第に集まり、巨大な犬の形に姿を変えました。

「これが、ブラックドッグ」

 誰ともなしにそう呟きますと、わたくし以外の全員が剣を構えました。
 あ、わたくしですか? 知識はございますが、生憎実践で剣を使ったことがございませんので、今回の旅でも使用することは禁止されておりますの。
 なので、わたくしはアイテムボックスの中からメイスを取り出して構えます。
 所詮は鈍器ですが、これも魔改造しておりまして、触れたものを強制浄化する魔石をいくつもはめ込んでいる物になっております。
 まさに聖女が持つのにふさわしい武器なのではないでしょうか?
 身体強化能力を発動いたしまして、ぐっと重量は軽く十キロはあるメイスを片手で持っていつでも動けるように腰を落としました。
 ドレスが少々邪魔ですが、動けなくもありませんので、我慢することにいたしましょう。
 戦いを前にしてこう言うのもなんですが、わたくしは淑女でございますので、ドレスをそう簡単に乱すような真似は出来ませんの。
 まあ、男装してもよかったのですが、それはハーロルト兄様達が許しては下さいませんでした。
 カチヤ達もメイド服で戦いますので、文句は言っていられませんわよね。
 具現化したブラックドッグは真っ赤な血のような目をしており、咄嗟になんて綺麗なのでしょう、と場違いにも思ってしまいましたわ。
 ヘルムとヨルクが剣でブラックドッグの前足を縫い留め、フートが剣でその牙を封じました。
 カチヤ達はわたくしの護衛に残っておりますが、油断なく周囲を伺っております。

「まだそれほど力をつけているわけではなさそうだな」

 そう言って、ハーロルト兄様がブラックドッグの首を切り落としました。
 その瞬間、ブラックドッグを形成していた黒い靄が拡散していきましたので、わたくしはその黒い靄を結界の中に閉じこめますと、その中を浄化魔法で清めていきます。
 結界の中の黒い靄のようなモノが次第に薄れていき、最後には空気に溶け込むように消えたのを確認してから結界を解きました。
 あっけないものですわね、これが村を恐怖に陥れていたブラックドッグですの?

「ハーロルト兄様、魔物とはこのように弱いものなのでしょうか?」
「いや、十分に強い方だと思うよ」
「けれども、皆様であっさり倒してしまわれたではありませんか」
「うん、このパーティーの能力値を考えれば、ブラックドッグの一匹を退治するのは簡単だけど、普通はこんなに簡単にいかないから」
「そうなのですか?」
「それにしても、瘴気に戻ったブラックドッグをあっさり浄化するなんて、流石は私のパウラだな」
「そんなに難しい事ではございませんわよ? この程度の事でしたら、多少学べば誰にでも出来るのではないでしょうか?」
「そう思っているのはパウラだけだと思うぞ」
「そうなのですか?」

 わたくしはハーロルト兄様の言葉に首を傾げながら、出番のなかったメイスをアイテムボックスの中に仕舞いました。
 馬車に戻ったわたくし達は夕食を食べることになり、ゾフィ達がキッチンに立ちます。
 前世では自炊もしておりましたので、わたくしも料理は出来るのですが、手伝わせてくれそうにはありませんわね。

「冬薔薇姫」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く