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冬薔薇姫

茄子

009 二度目の任命式

 再び集められた貴族の者達、事前に勇者一行の任命式だと聞かされていて、ランツェル様達はどうなるのだろうと興味津々のご様子です。
 任命式の会場にはもちろんランツェル様達もいらっしゃいますが、衛兵に囲まれ、下手なことが出来ないようにされております。

「ここに、新たなる勇者一行を任命することとする!」

 国王陛下がそう言った瞬間、貴族の間から拍手が沸き起こります。
 もともと、わたくし達を勇者一行にしたがっていた貴族が多かったので、反対派は少数だったのですよね、しかも理由が次期国王と正妃を危険な目に合わせるわけにはいかない、でしたし。
 しかし、先日のガルムの大量発生を受け、王都でも安全ではないかもしれないという風に発想が変わり、逆に率先して動こうとするわたくし達を讃えると言うように考えが動いたようなのでございます。
 任命式は無事に終わり、さあ、門出を祝おうと言ったところで、やはりというか、ランツェル様達が騒ぎ始めました。

「勇者は俺だ! 兄上じゃない! 今更勇者の変更? 父上、何を考えているんですか!」
「悪役令嬢が聖女? ふざけないでください! 聖女はあたしなんですよ! 横からしゃしゃり出て来て来ないで下さい!」
「そうだ! 聖女に相応しいのはエーフィー以外に有り得ない! 教育も受けていないただの大公姫が聖女になんてなれるはずがない! いますぐ撤回しろ! こんな任命式なんて無効だ!」
「ランツェルの言う通りです! 国王陛下、あたしは勉強だってがんばってやっています、あとちょっとなんです、だから替わりの聖女なんて必要ありません!」

 予想通りの喚き方ですわね、もう少し喚き方をひねることは出来ないのでしょうか? ランツェル様達は動けないように衛兵に押さえつけられております、つまり、ほぼ罪人扱いをされている感じでございますわね。
 まあ、任命されてから何もせずだらだらとただれた関係を続けていただけですし、講義を頑張っていると言いながらも未だに魔法の一つも習得できておりませんし、税金泥棒と言われても仕方がございませんわよね。

「……新たなる聖女として、皆様に祝福がありますように、祝福あれベネディクトゥス

 わたくしが呪文を唱えますと、天井からきらきらとした光が降り注いで来て、集まっている貴族の皆様に吸い込まれて行きました。
 途端に貴族の間から、「聖女様の祝福だ」と声が上がり、再び拍手が沸き起こりました。

「皆の者、見ての通り、パウラはすでに聖女としての能力を十分に持っている。よって、我々は明日にでも王都を出立し、魔物の討伐に向かう。留守の間、王都の守護は貴殿達に任せることとする。我々が無事に帰ってくるまで、皆無事でいるように」

 ハーロルト兄様の言葉に、「ハーロルト殿下万歳! パウラ姫万歳!」と声が上がります。

「冗談じゃありません! こんなの間違っています! パウラ様こそ悪の手先なんです! 皆様騙されないで下さい! あたしが本物の聖女です!」
「では、自分が本物だと言うのであれば、パウラのように皆が納得する魔法を実行して見よ」
「あ、あたしは……そ、そうです、パウラ様達があたしに嫌がらせをしてきて講義の邪魔をするから、まだ魔法を習得できていないんです」
「話にならないな」
「嫌がらせさえなければ、もうとっくに魔法を習得できていました! 嫌がらせをしてきたパウラ様達が悪いんです!」

 エーフィー様の言葉に、主に貴族令嬢達から嘲笑が沸き起こります。

「そんなに講義に集中なさりたいなら、パウラ様が仰ったようにお部屋から出なければよろしかったのに」
「ええ、男爵令嬢の分際で、偉そうに王宮内を歩いているから、いけませんのにね」
「あら、普通の男爵令嬢と同じにしては、他の男爵令嬢が可哀そうですわ。彼女は庶子なんですもの、他の男爵令嬢よりも劣っている存在ですわ」
「まったく、わたくし達にとって目障りになりますので、本当に部屋で大人しくなさっていれば、わたくし達だって何もしませんでしたのにね」

 報告は受けておりましたが、クスクスと笑い声と共に聞こえて来る令嬢達の会話に、正しくエーフィー様に嫌がらせが実行されていたと分かり、わたくしは満足致しました。

「エーフィー様、よかったですわね。これで虚言を吹聴している聖女なんて言われずに済みましたわね」
「なっ!」
「ランツェル、確かに私達は勇者一行となったが、お前達が勇者一行を降ろされたわけではない。悔しかったら一日でも早く勇者一行として魔物討伐に出るのだな」
「何を勝手な!」
「勝手? 勝手はお前達だろう。任命されてから今まで何をしてきた? 兵士に混ざって訓練をするわけでもなく、勇者一行に与えられた部屋で、だらだらと過ごしていただけではないか」
「それは……」

 ハーロルト兄様の言葉に、ランツェル様は黙りこくってしまいます。
 コンプレックスは健在のようでございますわね、本来ならヒロインがそのコンプレックスを癒やすのですが、エーフィー様はまだ癒やしていらっしゃらないのでしょうか? その割にはランツェル様は随分エーフィー様に傾倒して……ああ、魅了の魔眼を使われていたのでしたっけ。
 今は魅了の魔眼封じの腕輪のせいで使えませんが、一度魅了の魔眼を使われてしまえば、解呪するまで効果は永続的に続きますものね、お気の毒に、としか言えませんわね。

「ハーロルト殿下! 聖女はあたししかいないんです! そんな魔女に騙されないで下さい! ハーロルト殿下のお心を癒やす事が出来るのは、あたしだけなんです!」
「私はたとえエーフィー嬢が聖女として目覚めても、側妃にもエーフィー嬢をしたいとは思わないな」
「それって、恋人にしてくれるってことですか?」
「はっ馬鹿か? 歯牙にもかけられていないとなぜ気が付かないのだ?」
「ハーロルト様にふさわしいのはあたしです! そんな魔女なんかじゃありません!」
「私の聖女を魔女呼ばわりとは良い度胸だな。よし、こうしよう。二組同時に出立し、どちらが早く功績を収めることが出来るか競い合おうではないか、いいだろう? ランツェル」
「そんな、エーフィーはまだ魔法を習得していないんですよ」
「それがなんだ? 聖女に立候補しておきながら約二か月間、講義もろくに受けず、勇者一行の男たちとただれた関係を続けていたから習得できなかったのだろう? 安心しろ、聖女の教育をする講師は同行させてやる。実技で学ぶのが一番だからな」
「あたしに死ねって言っているんですか!? いきなり魔物の前に放り出されるなんて、そんなの酷過ぎます!」
「約二か月間の猶予があった。過去、聖女として立候補した貴族・王族、そして平民に関わらず、それだけの期間があれば皆聖女としての力を開花させていた。もっとも、魔法の才能がない平民が立候補したのは神の啓示を受けたからだがな。男爵家の庶子であるエーフィー嬢が立候補したのだ、魔法の才能があるか、神の啓示を受けたのだろう? でなければ、場違いに立候補などするわけがない」
「そ、それはっ」
「エーフィー嬢の才能が開花するのを楽しみにしているよ」

 ハーロルト兄様の言葉に、エーフィー様が黙りこくりました。
 まあ、ヒロインとして転生したから聖女に立候補なさったのでしょうけれども、小説の中では、ヒロインに邪悪なるモノが目覚めかけていると啓示があって聖女に立候補するのですよね。それも年末ごろに。
 まだ啓示が無いから魔法の才能が開花していないのでしょうか? それとも時期が早いから?
 まあ、いいですわ。
 とにかくわたくし達は明日、この王都を出立して、遠い地にある湿地を目指さなければならないのですもの、エーフィー様達に構っている暇などありませんわよね。
 邪悪なるモノを封印もしくは浄化してしまえば、魔物の活発化も抑えることが出来ますので、それさえ済んでしまえば、今発生している魔物を討伐していくだけですわ。
 わたくし達は任命式の会場となっている大広間をでますと、それぞれ支度をするために私室に戻ります。
 わたくしも支度があるのですが、カチヤ達がしてくれますので、わたくしはフートを連れて図書塔に向かいました。

「しばらく魔物退治の旅に出ることになりましたので、大量の本の貸し出しを希望したいのですが、よろしいでしょうか?」
「パウラ様にでしたら構いませんよ。流石に禁書は無理ですが、通常閲覧が可能な本は好きなだけお持ちください」
「ありがとうございます」

 そう言ってわたくしは、早速迷路のような階段を上りながら、本を選んでいきます。
 主に、途中で通る亜人種の国の事について書かれている本や、まだ読んだことのない魔法に関する本を中心に集めていきます。
 邪悪なるモノの生態について書かれた本があればよかったのですが、生憎通常閲覧できる本の中にはございませんでしたので、あるとしたら禁書の中にあるのでございましょう。
 どんどんとアイテムボックスの中に本を収容していきまして、大体千冊ほど選んだところで階段を下りて行き、次々と貸し出しの手続きをしていきます。
 貸し出しの手続きを終えますと、ヒートが旅の準備があるので早めに私室に戻るように言ってきましたので、長年付き合いのある司書にしばしの別れを告げ、私室に戻りました。
 私室に戻りますと、わたくしのドレス等が纏めて取り出されており、綺麗に並べられております、衣裳部屋にあるドレスを全て出しているかのような量になっておりますわね。

「パウラ様、申し訳ありませんが、このドレス類をアイテムボックスに収納していただけますか? 私共のアイテムボックスには私物と食料品などを詰め込みますので、容量が足りなくなってしまう可能性がございますので」
「わかりましたわ」

 わたくしは言われるがままにドレス等をアイテムボックスに収納していきます。
 わたくしのアイテムボックスは、とても容量が多く、前世でその量を例えるのでしたら、東京ドーム十個分ほどだと思います。
 まあ、年々増えて言っておりますので、これも正確な値ではないかと思うのですが、大体そのぐらいだと思いますわ。
 まあ、この王宮でしたらすっぽりと入ってしまう程度の容量があると思っていただければと思います。
 ハーロルト兄様のアイテムボックスの容量も、わたくしほどではありませんが、相当あるとお聞きしますわ。
 フート達もアイテムボックスを使えるのですが、その容量はわたくしの予想ですと、サッカーフィールド二個分ぐらいでしょうか? それでもかなり大きい方なのですが、いつまでかかるかわからない旅に出る分の食料を詰め込むとなると、足りなくなる可能性があると考えてしまうのも仕方がないのかもしれませんわね。
 その時、扉がノックされまして、部屋を護衛している衛兵の間から、久しぶりに見るお母様が顔を出していらっしゃいました。

「パウラ、もし妖精種の国、といいますか、わたくしの祖国によるようでしたら、この手紙をお父様にお渡ししてくれないかしら? それと、こっちの手紙は旦那様のお母様の祖国の龍人種の国宛て、こちらは貴女のひいお婆様の祖国の魔人種の国宛ての手紙になりますわ。貴女の事を良くしていただくようお願いした内容になっておりますので、必ず渡してくださいね」

 そう言って渡されたのは、季節外れですが、鈴蘭の香りがする手紙達でした。
 わたくしは頷いて手紙達をアイテムボックスに収納いたしますと、それを見て満足したのか、お母様はにっこりと可憐に笑って、わたくしを抱きしめていらっしゃいました。
 何気に、お母様に抱きしめられるなんて初めての体験なのではないでしょうか?

「パウラ、気を付けて行くのですよ」
「分かっておりますわ、お母様」
「……国の事は任せておきなさい、正妃様と協力して上手く貴族をまとめ上げておきます」
「よろしくお願いいたします」
「それから、それから……ああ、何と言ったらいいのでしょうね、わたくしは親らしい親ではありませんけれども、それでも貴女の無事を祈っておりますわよ」
「ありがとうございます、お母様」

 わたくしの言葉に、お母様は満足したのか私から腕を離しますと、そのまま蝶のようにひらりと手を振って、わたくしの部屋を出て行ってしまいました。
 本当に掴めない方ですわね、妖精種と言うのは皆様あのような性格をなさっているのでしょうか?
 けれども、紹介状のような物を頂けたのは僥倖ですわね、血が流れておりますので冷遇されることは無いとは思っておりましたが、紹介状があれば考えていたよりもましな待遇になるかもしれませんわ。
 湿地に行く途中には、今紹介状を頂いた国を通っていく事になりますので、本当に丁度良かったですわ。

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