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冬薔薇姫

茄子

008 堪忍袋の緒が切れる

 八月の終わり頃、王都の周辺にガルムが大量発生し、多くの兵士や魔術師が討伐に赴きました。
 そんな中、勇者一行はと言うと、まだ聖女であるエーフィー様の教育が終わっていないからと言って、出陣なさいませんでした。
 大量の重軽傷者が発生し、回復魔法を使える者は魔術師でなくとも駆り出されることになりました。

「わたくしは重症者への回復魔法を行います、ペトラ様は軽症者の回復をお願い致しますわ」
「わかりました、お気をつけて」
「そちらこそ」

 もちろんわたくしは回復魔法が使えるわけですが、ランツェル様の婚約者として自分を磨いていたペトラ様も回復魔法を使えるのでございます。
 魔術師に加わり、わたくし達は重軽症者をどんどんと回復していきます。

「あ、あたし、聖女なんですよ? 勇者一行を癒やすのが仕事なんです、なんで一般の兵士や魔術師の回復なんてしなくちゃいけないんですか! そもそも、回復魔法なんてまだ使えません!」

 回復作業をしていると、そんな喚き声が聞こえてきました。
 討伐に参加しなかったので、せめて回復作業をしろと連れてこられたのでしょうけれども、喚くばかりで全く役に立ちません。
 そもそも、回復魔法が未だに覚えられないなんて、本気で聖女としての講義をサボっているのではありませんか?

「ただ喚くだけの聖女がいても邪魔なだけです、早くこの場から追い出してください」

 わたくしの言葉に、エーフィー様を連れて来た衛兵が一瞬躊躇った様子ではありましたが、わたくしの言葉に納得をしたのか、エーフィー様を連れ出そうとその腕を引いた時、エーフィー様はその腕を振り払ってわたくしの方に駆けて来ました。

「追い出すってなんですか! あたしは聖女なんですよ!」
「だったら回復魔法の一つでも発動なさってください。無駄なおしゃべりに付き合うほどわたくしは暇ではございませんの」

 わたくしはそう言うと次の重傷者に回復魔法をかけていきます。

「ちょっと! 悪役令嬢がなんで回復魔法を使えるのよ! おかしいじゃない!」

 うるさいですわね。

「衛兵、このうるさい人を早く連れ出してください」

 未だにギャーギャーと喚くエーフィー様を、半ば強引に衛兵が腕を引いて、怪我人が収容されている広間から連れ出して行ってくれました。
 まったく、喚く前に回復魔法の一つでも覚えて来ていただきたいものですわね。
 その後、重傷者全員に回復魔法をかけ、軽傷者の方も処置が終わったという事を聞き、わたくしは一息吐き出しました。

「パウラ様、魔力の方は大丈夫ですか?」
「ええ、わたくしは幸い保有魔力量が多いので、このぐらいでしたら問題ございませんわ、ペトラ様。そちらこそ、魔力は大丈夫ですか?」
「少し厳しいですが、何とか大丈夫ですわ」

 魔力は枯渇してしまいますと気絶して、魔力が回復するまで高熱を出す事もございますので、皆様魔力の残量には気を付けなければならないのですよね。
 わたくしは亜人種の血が多いので、普通の人間種の方々よりも桁違いで魔力保有量が多いので、それほど気を付けることは無いのですけれども、それでも今回のような事が立て続けに起きれば、魔力が回復量よりも使用量が上回ってしまう可能性がございますわね。
 まったく、本当に何のための勇者一行なのでしょうね、魔物の大量発生の討伐に参加せずに、王宮でのんびり過ごしているなんて、意味がないではありませんか。
 このような被害が出る度に、わたくしの読書の時間を削られてしまうのは大問題ですわね。
 わたくしは広間に居る討伐隊に参加していたハーロルト兄様の元に向かいました。

「ハーロルト兄様、わたくしもう我慢が出来ませんわ」
「なにかな?」
「働かない勇者一行など無意味ですわ。わたくし、国王陛下に直訴致したいと思いますの。ハーロルト兄様も着いて来てはいただけないでしょうか?」
「それは、パウラが聖女に立候補するっていう意味かい?」
「ええ、いつまでもずるずると魔物討伐への出立を先延ばしにされるぐらいでしたら、図書塔で大量の本を借りて、わたくし自身が魔物討伐に赴いたほうが余程精神的に楽ですもの。それに、各国を回るのでしたら、その国でしか読めない書物が読めるかもしれませんでしょう?」
「あー、やっぱり本関係か。まあ、私も今回の事でいい加減ケリをつける気でいたし、パウラがその気になってくれたのはありがたいな」

 わたくしとハーロルト兄様は目を合わせて頷き合いますと、そのまま国王陛下の執務室に向かいました。
 国王陛下の執務室につき、護衛をしている衛兵に面会の希望を伝えますと、衛兵の一人が中に入って行き、しばらくすると「お入りください」と言って出てきました。

「父上、お邪魔いたします」
「失礼いたします、国王陛下」
「ああ、二人とも今回の魔物討伐はご苦労だった。それで、用事があるとの事だが、魔物討伐もしくは回復作業で何かあったか?」
「いえ、父上。それ以前の話でございます。今回の討伐に、ランツェル達は全く参加の意志すら見せませんでした。せめて回復役だけでもと連れてこられたエーフィー嬢は回復魔法などまだ覚えていないと言って喚く始末。使えない勇者一行をいつまで置いている気ですか? 私とパウラは父上の許可さえいただければ、今すぐにでも魔物討伐の旅に出る心構えがあります」
「ふむ……。確かに、働きもしない勇者一行に疑惑の声が上がっているのは事実だ。しかし、お前達はこの国の次の国王と正妃なのだぞ、言われてはいそうですか、と送り出すわけにはいかん」
「国王陛下、お言葉ですが、今のままでは被害が大きくなるばかりでございます。邪悪なるモノが復活していると考え、まだ力の弱い今のうちに倒すもしくは封印するのが最善の策かと思いますわ。無駄に死人が増える前に実行すべきです」
ビブリオフィリア変人のパウラの言葉とは思えないな、討伐の旅に出れば、読書の時間が減ってしまうのだぞ?」
「それに関しては、アイテムボックスに図書塔から大量の本を借り出して収納するので問題ございません。それに各国を回った際に、その国の本を読めるかもしれませんので、わたくしにとっても利点がございます」
「なるほど、流石はビブリオフィリア変人の思考だな」

 そう言うと、国王陛下は何かを考えるかのように顎に手を置き、しばらくするとその手を離し、真新しい羊皮紙を取り出しますと、そこに特殊な魔法のインクで何かを書き始めました。
 何かを書き終わると、「ふぅ」と息を吹きかけインクを乾かして、わたくしとハーロルト兄様にその羊皮紙を差し出して来ました。

「これは勇者・聖女、そしてお付きの者になるための誓約書だ。本気で旅に出ると言うのなら、サインをしなさい」
「わかりました」
「もちろんですわ」

 まずハーロルト兄様がサインをし、続いてわたくしもサインを致しました。

「お付きの者はどうする気だ?」
「まだ了承は得ていませんが、お付きの侍従とメイド達を連れて行こうと思っています。まあ、彼らも素直にサインしてくれるでしょう」
「そうか、では至急お前たちのお付きの侍従とメイドをここに呼び出そう」

 国王陛下がそう言って傍に居た侍従に指示を出しますと、侍従が執務室を出て行って、しばらくすると、フート達が執務室に入ってきました。

「呼び出したのは他でもない。お前たちの主は勇者、そして聖女になることをこの羊皮紙に誓った。お付きの者として、お前達の随行を希望している。もし随行しても良いと思うのなら、この羊皮紙にサインをするのだ」
「では、私から」

 そういってハーロルト兄様の侍従のヘルムがサインを致しました。
 ヘルムは伯爵家出身の者なのですが、家を継ぎたくないからと長子なのにもかかわらず王宮勤めをしている変わり者でございます。
 続いてサインをしたのは同じくハーロルト様の侍従のヨルクです。
 ヨルクは侯爵家の三男として産まれまして、幼い頃から早々に家を出たいと考えていたらしく、成人してすぐに王宮に務め始めたそうです。
 次にサインをしたのはハーロルト様付きのメイドのビーネです。
 公爵家の末娘であり大層可愛がられて育ったのだそうですが、それが嫌で王宮勤めを開始した変わり者でもあります。
 ハーロルト様付きの侍従やメイドだけあり、能力は皆様ピカイチなのでございますよ。
 その後、フート、ゾフィ、カチヤがサインをして、この場にいる者達が新たなる勇者一行となることが決定したのでございます。

「新たなる勇者一行の任命式を開かねばならんな」
「そのようなことをしている時間があるのでしたら、早く魔物討伐の旅に出たいですわ」
「しかし、任命式を行わなければ、貴族達に示しがつかないだろう」
「面倒だけど、ランツェル達が役に立たない勇者一行だと知らしめるためにも任命式を行ったほうが良いと思うよ、パウラ」
「ハーロルト兄様がそう仰るのでしたら……」

 邪悪なるモノが眠っている場所も小説の通りでしたら、この国からはだいぶ距離がございますので、一日でも早く出立したいのですけれども、仕方がございませんわね。
 まあ、エーフィー様達が役立たずだと周知できるのですから、丁度良いのかもしれませんわ、所謂ざまぁでしょうか?
 転生した悪役令嬢が転生したヒロインの役目を乗っ取るという小説も数多くございましたし、定石と言えば定石なのでしょうか?
 わたくし達は国王陛下の執務室を出ますと、旅の打ち合わせをするために、ハーロルト兄様のお部屋に移動いたしました。
 応接室のような場所で、世界地図を広げて、現在魔物が活性化している場所に印をつけていきます。
 その中で、わたくしはこの国からかなり離れた場所にある湿原地帯に髑髏マークを描きました。

「多くの文献や書物を読んだ結果、邪悪なるモノが復活していた場合、この地で復活している可能性が限りなく高いと思われますので、まずこの地を目指すべきだと思いますわ」
「かなり遠いな、いくつもの亜人種の国を経由しないといけなくなるな。パウラ、本当にこの地に邪悪なるモノが居る可能性が高いのだな?」
「ええ、ハーロルト兄様。知恵の泉は裏切りませんもの」

 まあ、前世で読んだ本の知識なのですけれども、古代語で書かれていた文献にあった封印された地もこの湿地の近くだとございましたし、この場所に邪悪なるモノが居る可能性は高いでしょう。

「まあ、私達の体には各種亜人種の血が流れているし、そう簡単に排除や冷遇されるっていう事はないだろうけど、亜人種の国に行く時は攫われないように注意しないといけないな」
「人間種は生殖の格好の餌食ですものね」
「まあ、そういうこと。ただでさえパウラは無表情がデフォルトだけど、これでもかってぐらいに美少女なんだから、欲しがる国も出てくるかもしれないな」
「あら、わたくしはハーロルト兄様と正式に婚約しておりますわよ? なんでしたら、ハーロルト兄様以外と性行為をした場合、相手が死ぬという魔法をわたくしに付与いたしましょうか?」
「そんな魔法があるのか?」
「ええ、古代魔法でございますし、本来であれば、高貴な血を守るために女性が浮気をしたら女性自身が死ぬという魔法なのですが、その応用で性行為を行ってきた相手に死を与える魔法に変換することが可能ですわ」
「それって、つまりパウラのオリジナル魔法になるって事かな?」
「まあ、応用ではありますが、そうなりますわね」
「そっかー。私の婚約者は本当に有能でたまに恐ろしく感じられるね」
「あら、わたくしの方こそハーロルト兄様の底が知れなくて、わからなくなることがございますわよ?」
「男には秘密の一つや二つあったほうが魅力的だろう?」
「さぁ? どうでしょうか」

 その後、わたくしはぜひ魔法を目の前で実行して欲しいと言うハーロルト兄様の要望に応えまして、ハーロルト兄様の協力を得まして、ハーロルト兄様以外と性行為を行った場合、相手が死亡する魔法を自分にかけました。
 まあ、侍従やメイドが見ている前でこの魔法を実行するのは多少どころかかなりの羞恥プレイでございましたが、我が身を守るためでもございますし、仕方がありませんわよね。

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