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冬薔薇姫

茄子

007 誰にものを言っていますの? その2

 お茶会が終わった後、ドレスを着替えまして、やっと図書塔に向かい、複雑な迷路のような階段を上り、今日読む本を選んで最上階の植物園に辿り着いて早速本を広げていますと、魔法で動くエレベーターが動いて、その中からエーフィー様を連れたランツェル様がいらっしゃるのが見えました。
 早速文句を言いに来たのでしょうか?

「パウラ、エーフィーから話は聞いた。エーフィーを侮辱したそうじゃないか! エーフィーはこの国の聖女だぞ! 侮辱するなんて何を考えているんだ! 自分の立場を弁えたらどうだ?」

 せっかくの読書の時間を邪魔しないで頂きたいですわね。
 そう思って、わたくしはランツェル様の言葉を無視して読書に集中しておりましたら、ランツェル様が近づいて来る気配がいたしましたが、カチヤによって、一定の距離以上近づくのを止められているようです。

「聞いているのかパウラ! 親に捨てられたお前は父上の慈悲によってこの本宮に居ることが出来ているのだぞ! そこの所を良く弁えて行動するんだな!」
「……そうですわねえ、確かにわたくしの両親は育児放棄をしておりますし、国王陛下の慈悲によってわたくしは本宮に居るのは事実でございますが、それで立場を弁えろ? では逆に聞きますが、勇者に立候補した割には、未だに旅に出ることもせず、勇者一行専用の部屋で只日々を過ごしているだけの勇者に何の価値があると言うのでしょうね? ランツェル様こそ立場を弁えたらいかがです? わたくしは大公姫であり、ハーロルト兄様の婚約者。立場的には何の功績も上げていない勇者で第二王子のランツェル様よりもずっと上でございますのよ? 文句を言うのでしたら、誰に向かって言っているのかを良く弁えて言うべきですわね。それに、エーフィー様を侮辱した、でしたかしら? それでしたら先にわたくしの事を侮辱してきたのはエーフィー様ですわよ。あろうことかわたくしを下町の娼婦だなんて言ったのですよ。あんな侮辱を受けたのは初めてですわ。そもそも、ランツェル様はご存じないかもしれませんが、娼婦のようなまねごとをなさっているのはエーフィー様の方ですわよ。婚約もしていない子息と体を重ねるなんて、わたくしには想像も出来ませんわ」
「なっ! パウラ、それ以上エーフィーを侮辱したらただじゃ置かないぞ!」
「まあ、どうただでは置かないと仰るのでしょうか? 先ほども言いましたように、実績のない勇者でただの第二王子であるランツェル様より、わたくしの方が立場は上でございますのよ? それともなんでしょうか、ランツェル様までわたくしに喧嘩を売ると仰いますの? ええ、売ると仰るのでしたら買いますわよ? 今なら高値で買って差し上げますわよ? ほら、何か仰ったら如何? わたくしに思うところがあるのでございましょう? 聞くだけなら聞いて差し上げますわよ? さあ、誰に向かって何を言うのかよく考えてから仰って下さいませな」
「俺はこの国の勇者であり第二王子だ! エーフィーはその婚約者であり聖女なんだぞ!」
「ですから、それがなにか? 功績も上げていない、ただ口だけの勇者や聖女に何の価値があると言うのですか? 文句があるのでしたら、王宮でダラダラとせずに、とっとと魔物退治の旅にでればよろしいのですわよ。きちんと功績を上げたのであれば、わたくしも態度を改めることも考えますわよ?」
「旅に出られないのは、パウラ様達があたしの聖女教育の邪魔をするからじゃないですか! 責任転換しないで下さい!」
「その言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ。お茶会でも言ったように、そんなに聖女教育の邪魔をされたくないのでしたら、部屋から一歩も出ずにお勉強なさっていればよろしいではありませんか。浄化と封印、それに回復や結界の魔法はそんなに難しいものではございませんでしょう? それを邪魔されているからできない、聖女の力は繊細だから出来ないなんて、ただの言い訳でしかございませんわね」
「あたしは、皆から期待されて尊敬される聖女なんですよ! そのあたしに嫌がらせをするなんて、正気ですか?」
「期待はともかく、尊敬ですか? 何度も言っておりますが何の功績も上げていない口だけの聖女を誰が尊敬すると言うのですか?」
「なっ! そうやってあたしの事を馬鹿にするんですね! ランツェル、聞きましたか? あたしはこうやっていつもパウラ様に嫌がらせを受けているんです!」
「パウラ、聖女であるエーフィーに対する嫌がらせを止めるんだ!」
「お断りいたしますわ。だって、してもいないのに嫌がらせを受けたと、今日が初対面でしたのに言われましたのよ? まさか聖女が虚言を吹聴していると言いふらすわけにもいきませんでしょう? ですので、聖女であるエーフィー様の仰る通りに、わたくしはエーフィー様に嫌がらせをすることに決めましたの。文句があるのでしたら、虚言を吹聴なさったエーフィー様に仰って下さいませ。ところで、いつまでわたくしの大切な読書の時間を邪魔すれば気が済みますの? わたくしがここで読書をして過ごすのは、国王陛下に認められた権利でございますのよ? それを邪魔するという事は、国王陛下に逆らうも同義。お分かりになったらさっさとこの場から立ち去っていただけますか?」
「くっ……、今に見てろよ。行こう、エーフィー」
「わかりました、ランツェル」

 魔法を使用したエレベーターに乗って図書塔の最上階の植物園からやっと姿を消したランツェル様達を確認して、わたくしはカチヤが差し出してくれた果実水でのどを潤すと、読書を再開することにいたしました。
 それにしても、今日はたくさん喋りましたわね、本当に顎がだるいですわ。
 全く、どうしてわたくしがこんな目に合わなければいけないのでしょうか? 小説の中のヒロインはもっと健気で凛としていて、悪役令嬢の嫌がらせにも負けない立派な娘でしたのに、やはりエーフィー様は転生者で、中身が本物のヒロインではないのでこのような事になっているのでしょうか。
 まったく、厄介この上ありませんわね。
 わたくしはもやもやした気持ちのまま、読書を続けることで、本の世界に没頭していきました。
 文献や本の世界は素晴らしいですわ。
 もやもやした気持ちも、本を読んでいるとどこか遠くに消えて行ってしまうのですもの。
 今読んでおりますのは、聖女の必要能力の一つ、結界を張る方法について掲載されている本でございます。
 所謂経典なのでございますが、強い結界を張るには、魔法のようにイメージだけではなく、呪文も必要なようでございます。
 もっとも、イメージと魔力量ではその呪文も簡素化できるようなのですが、読んでみたからには試してみたいと思ってしまうのは仕方がない事でございますわよね?
 ああ、どこかでこの結界魔法を試す場所はございませんでしょうか?
 そんな事を考えながら、聖女の使う回復・浄化・封印・結界に関する書籍や文献を読み漁っていきます。
 そろそろこの図書塔にある聖女関連の文献や書物は読み終わったのではないでしょうか?
 後は実技だけなのですが、生憎わたくしは外には出ませんので、魔物に遭遇することもなく、かといって病弱設定なので兵士が訓練する場所に赴いて魔法を連発するわけにもいかないのですよね。
 うーん、勝手に病弱だとイメージ付けられてしまい、それが便利で今まで利用してきましたが、ここにきて実技が行えないと言う不自由が発生するとは思いませんでしたわ。
 いえ、小さな魔法でしたら使っていますのよ? 例えば『ルーメン』のように明かりを灯す魔法などは夜寝室で本を読む際に大活躍しておりますもの。
 書物を読み漁っておりますので、魔法にもかなり造詣が深くなりまして、大魔法も使おうと思えば使えるのですが、生憎使う機会がないのですよね。
 まあ、身体能力強化の魔法はよく使っておりますし、と言いますか、そうでもなければ、この図書塔の最上階まで、迷路のような階段を上って来る事など出来ませんわ。
 帰るときは魔法で動くエレベーターを使用して、本の返却箱に本を返せば、この図書塔の司書が定位置に本を戻して下さるのです。
 ここにある本の所在を全て把握しているとか、幼い頃からその為に教育を受けている専用の司書とはいえ、すごいですわよね。
 まあ、わたくしも読んだ本の位置や内容でしたら把握しておりますけれども、まだ全ての本を読み終わってはおりませんので、全体を把握できていないのですよね。
 この図書塔には、新刊が発行される度に随時原本が陳列されますので、飽きるという事がございませんのよ。
 本当に素晴らしい知恵の図書塔ですわね。

「……障壁バリア

 小さく簡単な結界魔法を呟きますと、わたくしの周囲が一瞬光り、わたくしの体を幕のような物が包み込んだような感じがいたしました。

解除アペリエンス

 そう言って解除しますと、幕のような物が消えていくのを感じました。
 ふむ、このぐらい小さなものでしたら、呪文も短くて済みますし、手軽に使えますわね。
 こんな簡単な魔法ですのに、聖女に立候補したエーフィー様はまだ習得できないとか、本当に何をしているのでしょう? 講義をサボっているとしか思えませんわね。
 こんなことでは、いつになっても旅に出るなど出来ないでしょうに、これは真剣に国王陛下に勇者一行の再考をしていただく必要があるかもしれませんわ。
 他国の勇者一行の中には、もうすでに魔物退治を始めている一行もいるとハーロルト兄様から聞きましたもの、このままでは所詮人間種の勇者一行などあてにならない、などと言われかねませんわ。
 まあ、わたくしは純血の人間種ではございませんけれども、といいますかほとんど人間種の血より亜人種の血の方が多いですけれども、気持ちの上では人間種でございますので、人間種を馬鹿にされるのは面白くありませんのよね。
 ……あ、この魔法面白いですわね、浄化魔法を応用して洗浄魔法にするのですね、洗浄魔法は生活魔法に分類されておりますけれども、浄化魔法からの派生でも出来るのですか。
 まあ、生活魔法は一通り扱えますので、知識として蓄えるだけにとどめておきましょう。
 ちなみに、この国は人間種の国という事もあって、誰もが魔法を使えるというわけではございません、むしろ使えない者の方が大半を占めております。
 けれども、わたくしのように亜人種の血が混ざっているような者、王族や貴族には魔法を使える者もそれなりの数が居ます。
 魔法を使える者の多くは、魔法師ギルドに入りまして、冒険者に随行したり致します。
 その他ですと、魔法師団に入団いたしまして、兵士のように国に仕えるのが基本でございますわね。
 まあ、中には己の中の魔法を極めんとして、賢者になる方もいらっしゃいますが、それは本当に稀な事でございますわ。

「パウラ、そろそろ夕食の時間だよ」

 本の世界に没頭していると、不意に本に影が差し込みましてそのように声をかけられました。

「まあ、もうそんな時間ですの? ハーロルト兄様」
「うん、ほら、今夜読む本を選んで部屋に戻って夕食にしよう」
「そうですわね。カチヤ、読み終わった本を返却箱に返してきて下さい」
「かしこまりました」
「えっと、今夜読む本は……」

 わたくしはそう言いながら積み上げられた本の山から数冊の本を引き抜いて行きます。

「そう言えば、ランツェルから文句を言われたよ」
「まあ、なんと?」
「婚約者の管理ぐらいしっかりしてくれってね。このままじゃエーフィー嬢の聖女教育が進まなくていつまでたっても旅に出られないとか言われてしまったよ」
「あらまあ、わたくしに口で勝てなかったから、ハーロルト兄様の所に言いに行きましたのね。どうせハーロルト兄様も口で追い返したのでございましょう?」
「もちろん。お茶会の事は母上からも聞いていたしね、私の愛する婚約者に対する侮辱は、私も許せないし、きっちり口で言い負かしてお帰り頂いたよ」
「流石はハーロルト兄様ですわ」

 わたくしは私室に持って帰る本を選びますと、魔法のアイテムボックスを開きましてその中に仕舞っていきます。

「それにしても、本気でエーフィー嬢に嫌がらせを解禁する気なのかい? パウラのお許しが出たとあって、令嬢達がやる気満々みたいじゃないか」
「ええ、わたくしに対する侮辱の対価ですわ。それに、虚言を吹聴する聖女とあっては外聞も悪いでしょう? ですので、真実にして差し上げることにいたしましたのよ」
「ふーん、まあパウラがそれで満足するならいいんじゃないかな。それよりも、最近読んでいる本は聖女に関する本が多いようだけど、聖女に立候補でもするつもりなのかい?」
「今はまだそのように考えてはおりませんが、いずれそうなるかもしれませんわね。このままずるずるとランツェル様達が旅に出ないようでは、他国の方々から我が国が舐められてしまいますもの。いくら人間種が繁殖力が高く突然変異を起こしやすいため重宝されているとはいえ、一歩間違えれば奴隷扱いをされてもおかしくありませんのよ? そうならないためにも人間種の勇者一行には活躍していただかなくてはいけませんわ」
「そうだね」

 わたくしはそう言いますと、ハーロルト兄様と一緒に魔法で動くエレベーターに乗り込み一階まで下りると、司書に本の貸し出し手続きをしてもらい、私室に帰りました。

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