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冬薔薇姫

茄子

006 誰にものを言っていますの? その1

 勇者一行が決定して一か月が経った八月のある日の事でございます。
 本日は王妃様のお茶会に呼ばれてしまっているため、図書塔に行くことが出来ず、イライラしておりましたところ、同じお茶会に呼ばれましたエーフィー様に絡まれてイライラ度が急上昇しております。

「だからぁ、聖女であるあたしに嫌がらせするのを止めてくれませんか? おかげで聖女教育も進まないじゃないですか」
「覚えがありませんわね」
「そんな事言って、陰で悪口を言ったり、令嬢達を誘導してあたしに嫌がらせをしているのは知っているんですよぉ、あたし達がなかなか討伐の旅に出られないのは、パウラ様のせいじゃないですか、なのにどうして毎回講義であたしが責められなくちゃいけないんですかぁ?」

 イラっとしますわねえ。
 そもそも、わたくしがエーフィー様に正式にお会いするのは今日が初めてなのですが、初対面から絡んでくるとか、本当にヒロインですの? 品性の欠片もあったものではございませんわね。

「聖女の力って、すっごく繊細なんですよ、精神が不安定になると、上手く操れないんですよね。だから、あたしの精神を不安にするような真似、やめてくれませんか?」

 聖女の力が繊細だとは、どの文献にも書物にも書かれてはおりませんでしたわね。
 ええ、これは聖女教育がうまくいかない只の言い訳でしかないでしょうけれども、どうしてわたくしに絡んでくるのでしょうね。
 ……そんなに嫌がらせを受けたり陰口を言われるのがお望みなら、その通りにして差し上げてもよろしいのですけども?
 わたくし、普段は病弱という事になっておりまして図書塔に籠っておりますが、友人が全くいないと言うわけではございませんのよ? その友人方を使えば、聖女として覚醒もしていない、ただの男爵令嬢をつぶすことなど、造作もない事ですのよ?

「大体、パウラ様って無表情で何を考えているかわからなくって気味が悪いんですよね。それでよくハーロルト殿下を誑かしましたよね。あ、もしかしてその体を使って篭絡したとか? やだぁ、大公姫とか言われてちやほやされてるくせにやってることは下町の娼婦じゃないですか」

 よし、つぶしましょう。
 聖女とかもう関係ありませんわよね、王族に対する侮辱もいいところですわ。
 そもそも、体を使って勇者一行を篭絡したのはエーフィー様の方ではありませんか。
 報告は聞いておりますわよ、魅了の魔眼が使えなくなったので、処女こそランツェル様に捧げたそうですが、それ以降は他の方ともただれた関係を持っていらっしゃるとか。
 聖女の力に処女性は問われませんので、どなたと関係を持とうと無視するつもりでございましたが、わたくしを同じように扱うなんて、冗談じゃございませんわ。

「そこまで仰るのでしたら、わたくしからも聞きたいのですが、婚約者であるランツェル様はともかくとして、ヨルン様、ドゥオ様、アウェス様とも肉体関係をお持ちと言うのは、聖女として、いいえ、淑女として如何なものかと思いますのよ? 皆様令嬢には人気の方々、わたくしが指図しなくとも、エーフィー様が嫌がらせを受けるのは自明の理ではございませんか? けれども、エーフィー様はどうやらわたくしを首謀者とした嫌がらせをご希望のようでございますし、今後は聖女であるエーフィー様のお望み通り、わたくしが率先して嫌がらせをさせていただきたいと思いますわ。それでよろしいのですわよね? ええ、反論は聞きませんわ、王族であるこのわたくしを愚弄したのですもの、その罪は贖っていただかなければなりませんものね。王妃様、お聞きになりまして? わたくし、本日より、エーフィー様のお望み通り、嫌がらせを開始しようと思いますの。ええ、大丈夫ですわ、それでもし聖女としての成長が見込めないと言った場合は、勇者一行の再考をすればよいだけですもの。皆様もよろしいですわよね? なんといってもエーフィー様自らが嫌がらせをされたいとお望みなんですもの、思う存分陰口を言ったり、嫌がらせをして差し上げなくては失礼にあたりますわ」
「なにをっ! あたしは嫌がらせを止めて下さいって言ってるんです!」
「してもいないことをやっていると言われているのですから、実際にして差し上げなくては、聖女であるエーフィー様が虚言を吹聴していることになってしまいますでしょう? そのようなことが無いように、わたくし精一杯嫌がらせを実行させていただきますわね」
「なっ……」
「早速でございますが、エーフィー様。今日はお茶を楽しむお茶会でございまして、身に着ける香水の香りを楽しむ会ではございませんのよ? その鼻が曲がりそうなほどにきつい臭いの香水をつけてお茶会に出席なさるなんて、何を考えていらっしゃいますの? 場を弁えないのでしたら、お部屋にお戻りになって一日も早く旅に出ることが出来るよう、聖女教育に精を出しては如何ですか? 聖女の力とは繊細なものなのでございましょう? でしたら、このような場に出て不快な思いをなさるよりも、部屋に閉じこもって聖女教育に取り組んだほうが余程堅実的なのではございませんか? それとも、エーフィー様は人から嫌がらせをあえて受けたいと言う特殊な性癖でもお持ちなのですか? そのような方が聖女だなんて、我が国の品位が疑われますわね。聖女教育も進んでいないようですし、本当に国王陛下に進言いたしまして、聖女はおろか、勇者一行の再考をしていただくように致しましょうか? ああ、それがいいかもしれませんわね。やはり、男爵家の庶子には、聖女なんて任務、荷が重すぎるのかもしれませんもの、男爵令嬢は男爵令嬢らしく、大人しくしていればよろしいのでありませんか? わたくしの言っている事が理解できましたら、今すぐにでもこの場から出て行って、お部屋で聖女教育に精を出しては如何?」
「なっな……」

 顔を真っ赤にするエーフィー様を無視すると、わたくしは若干ぬるくなったアイスティーでのどを潤します。
 はあ、久しぶりに一気に沢山話したせいで顎がだるいですわね。
 アイスティーでのどを潤したわたくしは、相変わらず顔を真っ赤にしたまま、わたくしを指さして、口をパクパクさせているエーフィー様を冷たい目で見ます。

「あら、まだこの場にいらっしゃいましたの? 聖女として立候補なさったのですし、とっととそのお役目を果たすためにお部屋に戻って教育を受けたらいかが? 外に出なければ、余計な陰口を聞くことも、嫌がらせを受ける事もございませんでしょう? ランツェル様達に存分に甘やかされて、ただれた関係でも続けたらいかがです? それとも、この場にいて貴女が何か役に立つことがございますの? 話を盛り上げることもなく、むしろこのような騒ぎを起こしていらっしゃいますし、居るだけで迷惑ですのよ。それとも、ただの男爵令嬢には過ぎた場でございますので、気分が高揚してこの場から離れたくないとでも思っていらっしゃるのでしょうか? 王妃様が本日エーフィー様をお茶会にご招待なさったのは、聖女教育がうまくいっていないからと言うのを聞いて、気分転換にとお誘いになったのであって、このような騒ぎを起こすためではございませんのよ? そんな事も理解できないとは、流石男爵令嬢ですわね。ああ、でも普通の男爵令嬢でしたたら、自分の身分を弁えて、今回のお茶会も遠慮したかもしれませんわね。そんな気も回らないという事は、所詮は庶子だということでしょうか」
「ひっ酷い! そうやってあたしの事を侮辱するんですね」
「まあ、最初にわたくしを侮辱なさったのはエーフィー様でいらっしゃいますわよ? そんな事も覚えていない鳥頭でいらっしゃいますの? そもそも、誰に対してものを言っているのかわかっておりますの? 聖女とはいえ、貴女はまだ何の功績も上げていないただの男爵令嬢、しかも庶子でしかございませんのよ? わたくしを娼婦のようだなんてよくも言えたものですわね、ご自分が娼婦の真似事をなさっているからって、わたくしを巻き込まないでいただけますか? ああ、今更謝っていただいても遅いですわよ。一度口に出したことを戻すことは出来ませんの、まさにアーレア・ヤクタ・エスト《賽は投げられた》でございます。わたくしに認められたいのなら、聖女としての功績を積む以外にはございませんわよ。ご自分から立候補なさったのですもの、さぞかし自信がございますのでしょう? 早くその自信の元とやらをわたくし達に見せていただけませんでしょうか? それとも、まだ聖女の力は繊細で、わたくし達が邪魔をしているとまだ仰いますの? でしたら、先ほども申し上げましたが、部屋から一歩も出ることなくお過ごしになればよろしいのですよ。それから、誰を敵に回しているのか、いま一度よく考えることですわね。わたくしは大公姫、貴女とは格が違いますのよ」
「やっぱり、多少の誤差はあってもパウラ様は悪役令嬢ですね、こうやってあたしに嫌がらせをしてくるんです! もうランツェル様にいいつけてやりますから! 覚悟してくださいね!」

 そう言ってエーフィー様はお茶会の会場を出て行きました。
 はあ、本当に今日は沢山お話しましたので顎がだるいですわね。
 それにしても、本当にエーフィー様は誰に喧嘩を売ったのか自覚なさったほうが良いと思いますわ。
 ランツェル様に言いつけるとか仰っていましたけれども、ハーロルト兄様の婚約者であり、大公姫であるわたくしの方が、ランツェル様より立場は上なのですよ?
 それにわたくしに何かございましたら、流石に妖精種の国が黙っていないと思うのですけれども、それと龍人種の国と魔人種の国も口を出して来るでしょうね。
 小説の中では、悪役令嬢であったパウラが父親の居る北の地に幽閉されたとありましたが、その後については書かれておりませんでしたわよね。
 毎年贈られてきます亜人種の親類からの贈り物から見て取れるわたくしへの寵愛ぶりを見ますと、黙っているとは思えないのですけれどもね。
 まあ、いいですわ。
 本当に最悪の場合、先ほども言ったように国王陛下に勇者一行の再考をお願い致しまして、場合によっては推薦の多かったわたくしとハーロルト兄様、そしてそれぞれのお付きの侍従やメイドを連れて旅に出ればいいだけの話ですものね。
 むしろその方が早いのではないでしょうか?
 ハーロルト兄様は武芸にも魔法にも長けていらっしゃいますし、お付きの侍従やメイドはわたくし達の護衛も兼ねておりますので、能力に関しては言うまでもございませんし、聖女としての回復魔法や浄化魔法や封印魔法、結界魔法に関しても、わたくしはその事に関する書物や文献を読み漁って習得しておりますので問題はございませんわよね。
 そう考えますと、早めに国王陛下に勇者一行の再考を提言したほうが良いのではないでしょうか? 確かに、次期国王を危険な旅に向かわせるのには反対の声もあるでしょうけれども、時間をおけば被害は広がっていきますし、邪悪なるモノの力も強くなっていきます。
 小説の知識のあるわたくしが、邪悪なるモノが弱いうちに邪悪なるモノがいる拠点に行きまして、浄化もしくは封印をしてしまったほうが良いのではないでしょうか?
 そう考えていた時、ふと皆様の視線がわたくしに集中していることに気が付きまして、わたくしはとりあえず、無表情を貫きながら、口を開きました。

「正妃様、お騒がせして申し訳ありません、あまりにも侮辱されてしまいましたので我慢できませんでしたの」
「そうですか、パウラさんがあんなに話すのは初めて見ましたので少々驚きましたわ」
「ええ、わたくしも久しぶりにこんなに話しましたので、顎が少し疲れてしまいました」
「あらまあ」

 龍人種の姫君であったブルク様は、そう言って優雅にほほ笑みました。
 わたくしは、正妃様から視線を外しますと、お茶会に招待されている他の令嬢方を見ます。

「皆様、わたくし達の会話は聞いていらっしゃいましたわよね。わたくし、エーフィー様から酷い侮辱を受けましたの。ですので、ご本人のお望み通り、今後嫌がらせを実行したいと思いますのよ。皆様も鬱憤が溜まっていらっしゃいますでしょう? わたくしが許可いたしますわ、存分にその鬱憤を晴らしてくださいませ。わたくしはこのような体でございますので、思うようにいかない時もございますので、そんな時は皆様が動いてくださると助かりますわ」

 わたくしの言葉に、令嬢の皆様は顔を明るくさせました。
 エーフィー様、本当に嫌われていらっしゃるのですわね、これでよく聖女に立候補とかなさいましたわよね。

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