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冬薔薇姫

茄子

005 勇者一行の任命式

 最近魔物が活発化しており、街道にも魔物が多数出現し、輸出や輸入している品物が襲われるという事件が多発しているようなのでございます。
 商人も冒険者を雇い対処しているようなのでございますが、それでも被害が大きいようです。
 そこで各国は、自薦他薦問わず、勇者と聖女、そしてお付きの者を用意して、魔物討伐、そして最悪邪悪なるモノが復活していた場合ソレを倒す旅に出す事になりました。
 ルスハイム王国からは、能力の高いわたくしとハーロルト兄様、そしてそのお付きの侍従やメイドを旅に出してはどうかと言う推薦があったのですが、(表向き)わたくしが病弱な事と、エーフィー様、ランツェル様、そしてその友人達が立候補したことにより、ルスハイムの勇者・聖女・お付き人は小説の通りその五人が勇者一行となることが決定いたしました。
 そして七月の任命式が行われることになりました。
 小説の中では、もっと遅く、年末に任命式がございまして、旅に出るのですが、小説と現実では違うという事なのでしょうか?
 任命式には、わたくしも出なくてはいけませんので、朝から着飾り、わたくしはハーロルト兄様と並んで、国王陛下の一段下に用意された椅子に座って、任命される五人を眺めておりました。

「ここに、ルスハイム王国の勇者一行を任命することにする!」

 国王陛下の宣言に会場から拍手が沸き起こります。
 そうして拍手が収まるのを待っていたかのように、ランツェル様が膝をついていた格好から立ち上がりますと、くるりと後ろを振り返り、ペトラ様を指差しますと、こう仰ったのでございます。

「ペトラ、お前の悪行は聞くに堪えがたい! 聖女となったエーフィーに対する嫌がらせの数々、淑女としてだけではなく俺の婚約者に相応しい行いとは思えない! 丁度いい機会だ、お前との婚約を破棄し、俺はこの聖女エーフィーと婚約をする!」

 指を差されたペトラ様は蒼白になっていらっしゃいます。

「私はそのようなことしておりません」
「嘘です。あたしの事を男爵家の庶子だって馬鹿にして、酷い時は足をかけて転ばせたり、階段から突き飛ばしてきたり……。ぐすん」

 わざとらしいほど涙を流して言うエーフィー様に、周囲は冷たい視線を送ります。
 この三ヶ月、エーフィー様が王宮に出入りをしているのは誰もが知っている事で、つまるところ、ランツェル様は婚約者がいる身でありながら堂々と浮気をなさっていたことは周知の事実なのでございます。
 しかも、嫌がらせを受けたとエーフィー様は仰っていますが、ペトラ様が王宮にいらっしゃるのは厳しい王族教育を受けに来る場合か、月に一度婚約者の義務としてランツェル様に会いに来るときだけでございます。
 そのような状態でどうやってペトラ様がエーフィー様を嫌がらせをしあまつさえ危害を加えることが出来ると言うのでしょうか。
 明らかに虚言でございますのに、そんな言葉を信じているランツェル様達にも冷たい視線が向けられていますが、五人は気にした様子もなく、自分達の世界に酔っているようでございます。
 今回の事で一番怒っているのは、ハーフェン侯爵でございましょう、愛娘がどれほど努力しているかを目の当たりにしていたのでございますから。
 国王陛下も、呆れた顔をしてランツェル様達を見ております。

「ランツェル、本気でペトラ嬢と婚約破棄をして、エーフィー嬢と婚約をするというのだな?」
「そうです、父上! 俺はもうペトラのおもりには飽き飽きなんです!」
「ランツェル様っ」

 ペトラ様は今にも倒れてしまいそうで、それを兄君に支えられている状態でございます。

「……ハーフェン侯爵、どう思う?」
「娘を馬鹿にされてまで、婚約を続けさせたいとは思いません。その婚約破棄、お受けいたしましょう!」
「そうか、婚約破棄の違約金などに関しては追って知らせることとする」
「かしこまりました。とにかく娘を休ませたいので、我々家族はこれにて失礼いたします」

 そう言って、今にも倒れそうなペトラ様を兄君が支えながら、ハーフェン侯爵家の方々は会場から出て行きました。

「ランツェル、ペトラ嬢に支払う違約金は、お前の個人資産から出すように」
「は? 何故そんな真似をしなければならないのですか。悪いのはペトラです!」
「お前はペトラ嬢が居ながら、そこのエーフィー嬢と堂々と浮気を繰り返していたことは多くの者が目撃して居る! そもそも、王子たるお前の婚約者であったペトラには常に王家から監視の者が付いており、エーフィー嬢に嫌がらせを行っていたなどと言う事実がないことは明らかだ。この婚約破棄は、間違いなくエーフィー嬢の虚言に騙されたお前のわがままによるもの。違約金はお前の個人資産から出すのが道理であろう!」
「国王陛下! 信じてください、あたし本当にペトラ様に嫌がらせを受け続けていたんです!」

 そう言ったエーフィー様の目がわずかに光を帯びていらっしゃいました。

「……エーフィー嬢、其方、魅了の魔眼の持ち主だな」
「え!?」
「私の付けている護身魔道具が反応した。私に魅了の魔眼を使おうとしたな」
「そんなっ」
「衛兵! 今すぐにエーフィー嬢を取り押さえよ! 魔法師に連絡をして魅了の魔眼封じの腕輪を付けさせろ!」
「なっ! あたしはそんなものは持っていません」
「偽証は罪になる。聖女として立候補した故、魅了の魔眼封じの腕輪で許してやっているのだ。本来であれば目をつぶしている所だ」
「ひっ」

 衛兵に連れてこられた王宮付きの魔法師が、衛兵に抑え込まれたエーフィー様の腕に魔石の付いた腕輪を付けました。

「何をするんですかっ! こんなの横暴です!」

 エーフィー様が必死に腕輪を取ろうとしていますが、魔道具ですのでそう簡単に外れる物ではございません。

「魅了の魔眼を持っていなければただの装飾品だ。問題なかろう」
「っ……」
「エーフィー、魅了の魔眼を持っているなんて、嘘だろう?」
「嘘に決まっているじゃないですか。あたしを信じてください、ランツェルっくぅぅ」
「エーフィー!?」

 エーフィー様が腕輪をはめられた腕を押さえて、苦しみ始めました。

「な、なんでもありません」

 いえ、何でもなくはないでしょう、明らかに魔石が反応しておりますわよね、魅了の魔眼を使おうとした証拠なのではないでしょうか?
 ただ、魅了の魔眼の最悪な点は、その効果が永続的に続くことなのでございます。
 もちろん、解呪の方法はございますが、それには解呪を受ける者がとても苦しむと書物に書いてありました。
 少なくとも、数か月かけて解呪するという事でございますので、勇者となったランツェル様やそのお付きの方々を今すぐ解呪するのは現実的ではありませんし、魅了された状態で旅をしていただくしかないのではないでしょうか。
 それに、時期は早いですが小説の通りにランツェル様はエーフィー様に惹かれているわけですし、これも世界の強制力と言うわけなのでしょうか。
 あ、ちなみにですが、国王陛下やハーロルト兄様は様々な護身魔道具を身に着けていらっしゃいます。
 本来ならランツェル様も身に付けなければいけないのですが、ご本人がそのような物はいらないと言って身に着けていなかったのでございます。
 もし身に着けておりましたら、魅了の魔眼に囚われることなどなかったでしょうに……。
 ペトラ様には気の毒な事を致しましたわね、あとで慰めるためにお茶に誘う事に致しましょうか?
 あんなに王族教育を頑張っていらっしゃったのに、お気の毒でございますわね。
 転生して想い人と結ばれるはずでございましたのに、ヒロインであるエーフィー様に見事に邪魔をされたといった感じでしょうか。

「勇者一行を今すぐ専用の部屋に連れて行け!」

 勇者一行の専用の部屋とは、監視しやすいように工夫された部屋でございまして、出立前に勇者一行が怖気づいて逃げ出さないように監禁するための部屋でございます。
 小説の中ではそのような事は書かれておらず、勇者一行が出立前までにあてがわれる特別な部屋とだけございましたが、書物で見た限りでは監禁部屋でございますわよね。
 任命式はざわざわと騒がしいまま終了し、わたくしは部屋にハーロルト兄様と戻ることになりました。

「ハーロルト兄様、ペトラ様は今後どうなってしまうのでしょうか?」
「そうだな、まず王家からの詫びとしてランツェルの個人資産から違約金を支払うのはもちろんだが、新しい婚約者を王家から紹介するという事もあるだろうな、なんと言っても今回の婚約破棄は明らかにランツェルの過失だからな」
「そうですか、では魅了の魔眼に篭絡されてしまったランツェル様方はどうなりますの? 魅了の効果が続いたまま魔物退治の旅に出ることになるのでしょうか?」
「ああ、下手に亀裂が入って旅がうまくいかなくなるよりは、魅了された状態で旅に出ていた方が都合が良いからな。まあ、旅から戻ってきたら魅了の解呪をされることになるだろうけどな」
「魅了の解呪は苦しみを伴うと書物に書いてありました」
「仕方がない、必要ないと言って護身魔道具を身に着けていなかったランツェルが悪いのだからな」

 そういう物なのでしょうか? なんだかしっくりきませんわね。
 小説の中ではヒロインは魅了の魔眼なんて持っておりませんでしたし、健気で清楚で、そして凛として魔物、そして邪悪なるモノと対峙していっておりましたのに、エーフィー様が小説のヒロインのようになれるとは思えませんわね。
 やはり現実と小説では違うのでしょうか? それとも、原作となっている乙女ゲームではまた違っていたのでしょうか? そこの所はペトラ様に聞かないとわかりませんわね。

「では、わたくしは着替えまして図書塔に行こうと思うのですが、ハーロルト兄様はどうなさいますか?」
「父上と今後の事について話し合わなければならないから、父上の執務室に行こうと思っているよ。夕食の時間になったら迎えに行くから、良い子で待っているんだよ」
「もうっ、わたくしは子供ではございませんのよ。これでも成人した大人でございますわ」

 わたくしがそう言いますと、ハーロルト兄様は笑いながらわたくしの部屋から出て行ってしまいました。

「さあ、パウラ様。お着替えを致しましょう」
「わかりましたわ」

 わたくしは、いつものようにゾフィとカチヤに衣裳部屋に連れ込まれまして、式典用のドレスから普段着のドレスに着替えました。
 そのまま、図書塔に向かいますと、迷路のように複雑な階段をのぼりながら、これから読むための本を選んでいきます。
 今日選んだ本は、ほとんどが勇者や聖女に関する本になってしまいました。
 古の昔、人間種の勇者や聖女は界渡り、つまり異世界からの転移者がほとんどだったようなのですが、異世界からの召喚術は今では禁術になっておりまして、その方法は禁書に掲載されているとの事でございます。
 その為、今では各国から自薦他薦で勇者一行を選び活発化した魔物を退治するようになっているそうなのです。
 邪悪なるモノは今から約千年前に聖女の力によって封印されたとあります。
 絵本で読んだ物語では退治されたとありましたが、実際は封印止まりだったのでございますね。
 書物には、亜人種の勇者一行の活躍はよく書かれていますが、界渡りでない人間種の勇者一行の活躍はあまり出てきません。
 やはり、亜人種に比べて基本的に能力の低い人間種はあまり活躍できないのでしょうか?
 けれども、邪悪なるモノを封印したのは界渡りであったとはいえ、人間種なのですよね、そう考えますと、活躍することも不可能ではないと思うのですが、ランツェル様達は小説のように活躍できるのでしょうか?
 こう言っては何ですが、エーフィー様に聖女としての能力がそんなにあるかと言われましたら、それほどあるようにはお見受けできませんでしたし、ランツェル様も能力的にはわたくし達より劣っております。
 まあ、小説の元ネタの乙女ゲームはRPG要素のある育成ゲームでもあったと聞きますし、レベルを上げて魔王を再度封印するのかもしれませんわね。

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