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冬薔薇姫

茄子

001 プロローグ その1

 わたくしには産まれたその瞬間から、前世の記憶がございました
 そして、今この生きている世界が、前世で読んだ小説の世界だという事を理解したのは齢二歳の時でした。
 パウラ=ノルドヴィヒ、それは、乙女ゲームを基にした小説、『アーレア・ヤクタ・エスト~ヒーロース~』に出てくる悪役令嬢の名前だったのでございます。
 その小説は、ヒロインが聖女となり、ヒーローである勇者と恋に落ちていくと言う、なんともありきたりな小説だったのでございますけれども、その小説を読み終わったその瞬間、前世のわたくしはトラックのわき見運転であえなく死亡してしまったようなのです。
 はじめ、何も言葉がしゃべれない、思うように動かない体にイラつきもしましたが、乳母がせっせと世話を焼いてくださいましたので、次第に慣れていきました。
 ええ、おむつを交換されるのにも初めは羞恥心でいっぱいでしたが、一ヶ月もすると不思議なもので慣れてしまったのでございます。
 わたくしの両親は、父は現国王の弟で、魔人種の血が流れ、龍人種のハーフの父親とエルフの母親を持つ方でございます。そして母親は妖精種でございます。
 つまり、わたくしは魔人種・龍人種・エルフ種そして妖精種の血を持つハイブリットと言うわけでございます。
 もっと遡れば、多種多様な亜人の血が混じっているのですが、両親はとりあえずそのような種族なのです。
 けれどもこの国は一応人間の国となっておりまして、王族以外は基本的に純血の人間種となっております。
 もちろん、姫が降嫁することもございますので、純血の貴族がどれだけ残っているかは私にはわかりません。
 亜人種から見たら、繁殖力の高い人間種は重宝されているのでございますよ、それに、人間種の血をいれると、稀にたぐいまれなる才能を持った子供が産まれる、いわば突然変異を起こすこともございますので、そういう意味でも人間種は大切にされているのでございます。
 そして、わたくしの父親は、わたくしを母親が身籠ったと分かった時から、国王に依頼されていた北の未開の土地の開発に赴き、数年に一度の報告の際にしか王都に帰ってきては居りませんし、母親も、わたくしを産んで役目は終わったと言わんばかりに、産後の体力が回復してすぐに、お茶会やパーティー、夜会などに毎日積極的に参加すると言う、まさに育児放棄の両親の下で育ったのでございます。
 けれども、それはわたくしにとって都合がよい事でございました。
 そう、わたくしは前世からの生粋のビブリオフィリアでございまして、二歳を過ぎたころには、乳母が読み聞かせてくれる絵本では飽き足らず、主が不在なことをいいことに父親の書斎に潜り込み、書物を読み漁っていたのでございます。
 異国語や古代語で書かれた書物もございましたが、まるで暗号を解くようにわたくしは文字を解読して書斎にある書物を読み漁りました。
 そうして、五歳になる時に、離宮にある書物を全て読み終わってしまったわたくしは、国王陛下に本宮にある図書館の本を読みたいと嘆願書を出したのでございます。
 最初は取り合ってくださいませんでしたが、すでに離宮の本を読み終えた事、そして異国語も古代語も解読できているという事を必死に嘆願書に書きだし続けたところ、国王陛下自らがわたくしの住まう離宮にいらっしゃって、わたくしの様子を見に来たのでございます。
 その時、国王陛下はわたくしの置かれた状況を見て、天を仰いでいらっしゃいました。
 乳母や使用人に大切にされていたとはいえ、わたくしの読書への欲求は人間の三大欲求にも勝っておりましたので、普通の五歳児よりも発育が遅く、見た目は三歳ほどだったと言われてしまいました。
 その後、このままではいけないと判断した国王陛下は、わたくしを本宮に移し、お付きの使用人を三人与え、わたくしの衣食住を管理させたのでございます。
 そのおかげか、十五歳になった今、平均よりは小柄ではありますが、健康的な肉体を手に入れることが出来ました。
 ただ、わたくしは社交がどうも苦手でございまして、人前に出ることもせずに、本宮の図書館に籠っていたせいか、いつの間にか貴族の間では、わたくしは病弱で、表に出ることのない深窓の姫君などと言う噂が広まっていたようなのでございます。
 事実を知らないって恐ろしいですわね。
 確かに、図書塔に籠ってばかりいるわたくしの肌は青白く、一見すれば病弱な姫君に見える事でしょう。
 けれども、一部の方々は知っているのでございます、わたくしは異常なまでのビブリオフィリア変人だという事を。
 さて、異世界に転生したわたくしですが、実は異世界に転生、もしくは転移するという事は、この世界では稀にあることなのだそうです。
 界渡りと呼ばれまして、異世界から魂、もしくは肉体ごとこの世界にやってくる者が稀に居るのです。
 その者達は、この世界にはない知識を与えたり、時に勇者や聖女となって邪悪なるモノと戦ったりしております。
 わたくしも、前世で便利だった道具や食べ物を開発したりして、界渡りだという事は早々に国王陛下にバレてしまいましたが、今のところそれ以外の事は穏便に済まされております。
 そしてわたくしの両親の事でわかるように、この世界には人間種以外にも亜人種と言われる方々が存在しております。
 それぞれ国を形成し、同盟を結んだり敵対していたりしておりますが、我が国は妖精種の国とエルフの国、そして龍人種の国、魔人種の国と同盟を結んでいる状態なのでございます。
 わたくしの母親が父親に嫁いできたのは、同盟を強化するためなのでございましょう。
 そんな中、わたくしは両親の血のなせる業なのか、それとも先祖返りなのか、生まれつき膨大な魔力を保有しておりました。
 それは、この国で一番の魔力の持ち主なのではないかと言われるほどでございます。
 多くの人は、そんなわたくしの事を畏れ、遠巻きに見ておりますが、二歳年上の従兄弟のハーロルト兄様は、ご自身も龍人種の血を引いて膨大な魔力を持っているせいか、わたくしが五歳になって本宮に移された時から親しく接してくださっております。
 逆に、わたくしと同い年のランツェル様は、魔人の血を引いているにもかかわらず、それほど強い魔力を持っているわけではなく、膨大な魔力を持っているわたくしやハーロルト兄様を避けていらっしゃるような節がございます。
 別にとって食べたり致しませんのに、何を畏れていらっしゃるのでしょうね。
 けれども、ランツェル様は小説の中では勇者になるヒーロー役でございましたので、これから魔力が開花していくのかもしれません。
 ヒロインは今の所わたくしの周囲にはおりませんが、小説の中では、十五歳になる子息令嬢を集めた夜会の席で出会うという事になっているのでございます。
 出会いも、人に酔ったヒロインがバルコニーで涼んでいると、ランツェル様がいらっしゃいまして、二人は一目で惹かれ合うと言う、なんともありきたりな物語でございました。
 けれども、そこでどうしてわたくし、パウラ=ノルドヴィヒが悪役令嬢になっているのかと申しますと、小説の中ではパウラ=ノルドヴィヒはランツェル様の婚約者になっているのでございます。
 もちろん、今生きているこの現実世界ではわたくしはランツェル様の婚約者ではございませんので、悪役令嬢になるはずもないのですが、読んだ小説の中には、世界の強制力というものがございまして、いくらわたくしが悪役令嬢の役割をまっとうしなくとも、ヒロインがわたくしを悪役令嬢に仕立て上げるというものがいくつもございました。
 そう言った小説の中には、逆にヒロインが論破されて、ざまぁを受ける小説もございましたが、この世界がどのような結末を迎えるのかは今の段階ではわかりません。
 そもそも、ランツェル様には、わたくしではなく、ペトラ=ハーフェン様という侯爵令嬢が婚約者になっているのでございます。
 ペトラ様はわたくしにだけだと言って告白して下さったのですが、所謂転生者で、小説の元になった乙女ゲームの中でもランツェル様が最推しだったらしく、折角この世界に生まれたのだから、ランツェル様の婚約者になりたいと仰っておいでだったのです。
 もちろん、わたくしはその考えに賛成し、出来る限りお二人の時間を作ることに協力したりして、お二人は昨年無事に婚約をすることになったのでございます。
 兄君であるハーロルト兄様よりも先に婚約者を決めてよいものかと、周囲は思ったようですが、肝心のハーロルト兄様は所詮長い人生を生きるのだから、数年弟に婚約者を先に決められたところで何の支障もないと仰り、事なきを得ました。
 現国王は魔人種のハーフでございますし、ハーロルト兄様のお母様は龍人種でいらっしゃいますので、ハーロルト兄様も長命になるのは自明の理でございましょう。

「パウラ様、そろそろドレスに着替えてくださいませ」
「待って、ゾフィ、あとちょっとで読み終わりますので」
「いけません。夜会に遅れてはハーロルト殿下にご迷惑が掛かってしまいますよ」
「う……わかりましたわ。けれども、ドレスを着替えている間も読書が出来るように、カチヤに本を持っていてもらうことは可能でございましょう?」
「そうでございますね、それでパウラ様が大人しくドレスを着て下さるのでしたら、そのように致しましょう」
「ありがとう」

 そう言うと、わたくしは早速と言わんばかりに衣裳部屋に連れ込まれ、今まで着ていたドレスを脱がされると、夜会用なのでしょう、いつもよりもスラッシュが多く施された豪奢なドレスに着替えさせられ、いつもよりも丁寧に髪を梳かれ後ろに垂らされると、虹色の宝石の付いたヘッドドレスを被せられ、準備が整ったところで、丁度本も読み終わりました。

「パウラ様、ハーロルト殿下がお見えでございます」
「お通ししてください」

 衣裳部屋に入ってこなかった侍従のフートは扉越しにそう言ってきましたので、わたくしはハーロルト様の入室を許可いたしました。
 わたくしの部屋の前には兵士の方が見張りをしておりまして、不審な人物が不用意に部屋に入り込まないように見張っていてくださるのですが、ハーロルト兄様は不審な人物ではございませんので、問題なくお通しいたしました。
 衣裳部屋を出まして、応接室に参りますと、正装に身を包んだハーロルト兄様がソファーに座っていらっしゃいました。

「お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした、ハーロルト兄様」
「構わないよ。私としては、また読書に夢中になって着替えすらしていないのではないかと思っていたぐらいだからね」
「そうしたかったのは山々だったのですが、ゾフィとカチヤに衣裳部屋に連行されてドレスを着替えさせられましたのよ」
「はは、そうなんだ。でも、そのドレスとても似合っているよ。贈った甲斐があると言うもだ」
「いくら本日のエスコート役とはいえ、ドレスまで贈って下さらなくてもよかったのですよ? わたくし、これでも数々の発明品のおかげで個人資産は潤沢にございますし、大公家の私財も十分にございますわ」
「うん、そんな現実的なパウラも好きだけど、ここはエスコート役の兄様に頼りなさい」
「もうっ、こんな時だけお兄様面しますのね」
「はは、まあいいじゃないか。普段は従兄妹として過ごしているのだし、私には弟は何人かいるけれども妹はいないからね、パウラの事がかわいくて仕方がないんだよ」
「国王陛下も魔人の血を引く身、まだまだお若いのですから、今後妹が出来る可能性はございますでしょう?」
「でも今はいないよね」
「それはそうですけれども……」
「だから、パウラは私に身を任せていればそれでいいのだよ。ちゃんと今夜もエスコートしてあげるからね」

 そう言ってハーロルト兄様はウインクをなさってきます。
 美少年なだけあって様になりますわね。
 小説の中では、ハーロルト兄様はランツェル様がコンプレックスを抱く方でございまして、復活した邪悪なるものを倒しに行く旅の途中、ヒロインに色々と励まされたり喝をいれられたりして、そのコンプレックスを克服していくのでございます。
 乙女ゲームが元になっているおかげで、舞台設定は面白かったのですが、ストーリー自体はありふれた恋愛小説でございましたわね。
 帯に書かれた謳い文句『ミリオンセラー突破の乙女ゲーム、アーレア・ヤクタ・エストがついに小説化! あの胸キュンの瞬間をもう一度貴女は目撃する!』と言うのに惹かれて読みましたが、確かに面白くはありましたが、よくあるストーリーだったのですよね。
 ええ、乙女ゲームをしていないわたくしが言うのもなんですけれども、実際の乙女ゲームはかなりRPG要素があるそうでございまして、恋愛に重点を置いた小説では、その肝心のRPG要素がほとんどなかったのが、ありきたりなストーリーになってしまった要因なのではないでしょうか?

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