異世界最強の強さを隠すために弱いふりをするのは間違っているだろうか

木ノ葉丸

目立ちたくない少年


僕は異世界に転生した

なぜ転生したのがわかったのかというと、自分の姿が前世と異なっていて、記憶を引き継いでいる。

さらに、ここは剣と魔法がある異世界ファンタジーであったからだ

これはもう、異世界に転生したと認めざるを得なかった



前世の俺は高校生をやっていた

特になんの取り得もなく、凡人の生活を謳歌していた

中高生になると、自分は何か特別に眠っている潜在的な力があると信じてしまう時期なのかもしれないが

僕は特に才能が欲しいとかは一切、思わなかった

僕は陰でひっそりと目立たない生活ができることを至高としていたのだ



だが、僕の前世での過ちがあるとするなら、人を助けるために自動車に突っ込んでいってしまったということだ。

帰り道は一人で帰るのは当たり前、他の人からみれば寂しいと感じるかもしれないが

僕には寂しいという気持ちは一切なかったし、自らそれを望んでいた

自分のことなんて気にかけて欲しくないと、いつもそう思っていた。



いつも通りの帰り道、横断歩道にて信号待ちをしていた。

僕の隣には同じ年齢くらいの女子高生が立っていた

信号が青になり、少女は先に歩きだした。

だが、このときの僕は何かが妙だと感じだ。

横断歩道前に車が近づいてくるが、減速して停車する気配がない

彼女は異変に気付いていない。

「危ない」と僅かに声がでたが、少女はイヤホンをしていて届かない。

考えるよりも体が先に動いていた。

彼女が歩いている後ろまで走り、少女を後ろから突き飛ばした

倒れる前に、彼女が後ろを振り返って目が合ったときのことを今でもよく覚えている

その子は同じ学校の別のクラスの人だった

ロクに話したことはなかったけどね

名前は知らない



あのとき、彼女を引き留めるよりも、突き飛ばして正解だったと思っている

転んで怪我をしても、恨まれることはないだろう

彼女を車の衝突から遠ざけることができたと確信した僕は、自分が絶望的に詰んでいることを理解した

窮地の瞬間は時間がゆっくりに流れると聞いていたが、今がその瞬間だった

ああ、僕の人生ここまでか

目立つことせずに生きて行くのが俺の生き方だったのに、まさかこんな終わり方になるなんてな

まぁ、でも僕の行動に後悔はしていない

彼女があのような境地に立っていた瞬間に僕が出くわしたことが不運だったのだ

もし、人生をやり直せるなら、漫画で読んだ異世界に転生して、のんびりとした普通の生活をしてみたいものだ

あっ、でも、異世界に転生したら最強のチートスキルを持っているのがお決まりで、目立ってしまうんじゃなかったっけ・・・

そうこう考えているうちに、俺は自動車にぶつかり、鈍い音が辺りに響いた



そのあとのことはあまり憶えていない。

憶えているのは地面に大量に流れている血が自分のものであるということ

これはさすがに死んだなと実感したこと

「大丈夫・・・君、返事して・・君」

最後に、同じ学校で別のクラスの人が僕の名前を呼び続けている声だけが聞こえた

彼女が無事であることを把握できただけでも、無駄ではなくて良かったと思えた。

君と話したことがないのに、どうして僕の名前を知っているのだろうかとそれだけが聞けなかった。

僕の意識が途切れていくと共に、彼女の声が小さくなって消えた。

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