わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

84. 二人のルール_2


 私が入社の手続きをしたその日の夜、帰宅した夫から「異動する」と告げられた。

「あはは、内定者に手を出したのがバレて左遷ですか?」

 私が笑ってそう言うと、相変わらずの無表情で宮燈さんが答えてくれた。

「身を固めるなら邁進しろと父に言われた。一般的に言えば昇進した」
「そーですか、よかった。おめでとうございます~!さすが私の旦那様」

 そう言って私が笑うと、宮燈さんは「忙しくなるかもしれない。でも休日は確保するから」と少し笑いながら言ってくれた。え、好きー!!



 私がお夕飯を温めなおして食卓に並べていると、バスルームから戻ってきた宮燈さんが咎めるような声で言った。

「……桜、リビングに物を放置するなと何度も言ったはずだ」

 リビングを見ると、確かにソファの上に私が脱いだジャケットとスカートとストッキングが置きっぱなしになっている。

「帰宅後に脱ぎ散らかしていたようだが?」

 図星だったので、何も言えなかった。宮燈さんの無表情のお小言が始まる。リビングは共有スペースである事、洗濯物はすぐに洗面所へ持って行って欲しいと言う事、ソファに物が置いてある状態は好きではない事。
 私が「いま片付けようと思ってましたー」と下手な言い訳をすると、無表情の宮燈さんが冷ややかに言った。

「今? 本当に?」

 ヤバイ、怒らせた。
 完全に自分が悪かったので、慌てて「ごめんなさい」と謝ったけど、宮燈さんは無表情のまま近づいてくる。後退りしたら背に冷蔵庫があたって、宮燈さんが手をついて逃げられなくなった。(れ、冷蔵庫ドンだあ~)と考えていたら、宮燈さんの指が頬に触れた。

「君はやっぱりお仕置きされたくて、わざと約束ルールを破っているのか?」
「違います! ついうっかり……」
「次からは君の物が放置してあったら私がもらうことにする」
「ド変態っ!ストーカー!!片付けますからっ……ん!」

 無理矢理キスされて、私の舌に宮燈さんの舌が絡まって息が出来なくなる。
 私を見下ろしてる夫は、少し嗜虐的な表情に変わっていて、頭がぼんやりしていた私はその視線に欲情した。抱き寄せられてるから触れ合ってる体温が気持ちいい。

「……や、もう……ごめんなさい……あの……」
「何?」
「えっちな気分になりました」

 私がそう言ったら、ひょいと抱えられて寝室に連れていかれた。ベッドに押し倒されて、期待して待ってたけど、宮燈さんは黙ったまま見下ろすだけだった。

「……宮燈さん、触ってくれないの?」
「ルールを破ったらどうすると決めた?」
「あ、相手のいうことをひとつ何でもきく……」
「そうだな。じゃあ桜に自分で脱いでもらおうかな。そういう気分なんだろう?」

 なんか意地悪したいんだろうけど、逆に挑発してやれと思って起き上がってゆっくり脱いだ。下着だけになったとき、宮燈さんの表情が揺らいだ気がする。今日の下着は白のベビードール。
 ふふん、宮燈さんの好みは、もう把握したのだ!
 宮燈さんは濃いめの色より淡い色が好きみたいで、こういう可愛い系の繊細なレースに弱いのを知っている。引き裂かないようにそーっと脱がせるのがお好みだということも。フロントホックを外して、少し前かがみになって見上げて言った。

「はぁ……宮燈さんも……えっちな気分になりましたか?」
「……なった」

 自分でやっときながら、胸だけはだけてるのは、おっぱいが強調されてるみたいで卑猥だなと思った。夫が性急に求めてくる。
 また夕飯が遅くなってしまった。「夕飯の前にえっちしない」というルールを増やそうと思う。


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