わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

64. 橘部長から逃げ出して_3


 私はゆっくりとホテルの朝食を楽しんだあと、近くの商業施設で買い物をして着替えた。
 路面電車に乗ってグラバー園を目指す。修学旅行で行った時、私は興味があったから色々見て回りたかったけど、同じ班の子が「つまんない」と言って駆け足で見たから、ずっと、もう一度訪れたいと思っていた。

 世界遺産にもなった国宝・大浦天主堂の下で「写真撮ろっかなー!」とスマホに電源を入れてカメラに切り替えて手に持ったとたん、着信して思わず画面を触ってしまった。

「すっ、杉岡さん?! おはようございます!」
『小娘……生きてたのか……』

 電話から聞こえてくる声には、凄まじく怒りがこもっていたので、思わずひええと耳から離してしまった。

『今どこにいる?』
「言えません」
『橘部長は一緒なのか?』
「はい? 一緒なわけないじゃないですか。橘部長から逃げてるのに」

 杉岡さんが『はーーーーっ』と四秒位の長いため息をついた。

『橘部長が行方不明なんだよ! 多分君を探してる! どうするんだ小娘! 自分の旦那を無職にする気か?!』

 土曜日だけど、出社予定だったそう。
 迎えの運転手さんから杉岡さんに「常務から『今日は出社しない』と連絡があったのですが……」と問い合わせがあり、慌てて連絡をとったけれど社用も私用も電話が繋がらないらしい。
 急病だと誤魔化したらしいが、杉岡さんは「女を追いかけるなんて」と怒り心頭だった。

『小娘、いま初めて電源を入れたのか?』
「いいえ。昨日の夜、博多駅で一度電源を入れました」
『では、福岡空港までは行ってるな……』

 それを聞いて私の背筋は寒くなった。でも、あの人ストーカーだからやりかねない。

「え……スマホで位置情報バレてます?」
『君は自分の旦那を甘く見るなよ。当たり前だろ』

 なんで私が恫喝されてるんだろうか。
 どうやら、いま通話してることで、この位置もバレそうなので、私は覚悟して夫と向き合うことにした。


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