わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

45. 橘部長が声を出して笑う_1


 宮燈さんが本当にバスルームへ行ってしまったから、火照った体を持て余してる状態の私は悶々としていた。
 うう、鬼のようだ。もう怒らせないようにしよう。「次は絶対許さない」って言われたけど、許されなかったら何をされるんだろう。

 足の腱を切られて監禁されるやつ……?

 いや! それ普通に痛いし不便だから! やらないよね。やらないと思う、多分。
財力あるし、やりかねないから怖い。

 バッドエンド妄想をしていたら頭と体が冷えてきたので、私はベッドからおりて、扉近くの姿見で自分の全身を見た。痣だらけだった。以前、電車の中で、襟ぐりの広い服から胸元の痣が見えている女性がいて、私は(痛そう。怪我したのかな、かわいそう)と思ったことがあるが、あれはキスマークをわざと見せていたのか。
 私も見える場所に痕がついている。どうしたらいいのこれ。私には見せびらかす趣味はない。
 ネットで検索したら、冷やすか、ファンデーションやコンシーラーで隠すように書いてあった。

 布団に潜り込んでスマホを見ていたら、宮燈さんが部屋に戻ってくる気配がした。私はその時『見える位置にキスマークを付ける男は独占欲が強い』というネットの記事を読んでいた。そこに『背中は浮気防止』と書いてあった。
 布団を捲られて「何をしている?」と聞かれたので、画面を見せた。
 綺麗な顔でそれを凝視して「君が浮気……」と呟いた。

「また想像で落ち込んでませんか?私より宮燈さんの方が心配です。私も宮燈さんの背中につけちゃおうかな」
「何故?私は君以外に全く興味ないのに?」

 そう言われて嬉しくてドキドキしつつ、同時に胸がもやもやした。私はそのもやもやした気持ちを、ストレートに宮燈さんにぶつけた。

「じゃあ、さっきのあれ、何ですか?」
「あれ、とは?」
「中庭で」
「ああ、アレか」

 あれ――吉岡と二人で中庭にいたことについて――宮燈さんは特に表情を変えないまま言った。

「彼女から、ちょっと相談があるからと言われて連れていかれた。中身が無かったから、相談は口実なんだなと思って戻ろうとした所だった」
「ふーん……」

 納得出来なくて、私はうつむいて黙った。そんなの、わかりそうなものなのに。何でついて行っちゃうの。現に吉岡は、私に向かって「橘部長と自分が、二人きりでここにいた事」をわざわざ強調してきたのに。彼女は美人で、ちんちくりんの私より遥かにスタイルもよくて、きっとモテるんだろうなと思う女の子だった。あの光景を思い出すと、物凄く嫌な気持ちになる。

 沈黙を破ったのは、宮燈さんの笑い声だった。
 笑い声? 宮燈さんが笑ってる?


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