わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

43. 橘部長に閉じ込められる_1


 ずっとキスされて、いつものよう力が入らなくなったから、私は抗うのをやめた。
 内定式で宮燈さんの姿を見てから、ずっと触れたかった。触れて欲しかった。言葉すら交わさずにいた一週間が辛かった。
好きって思いながら私からも舌を絡めると、宮燈さんが私の手を解放して、髪を撫でてくれた。

「……、まだお仕事中でしょ?」
「そうだな。君の言う通りだ」

 宮燈さんが体を離した。私はベッドに横たわったまま、夫を見上げて言った。

「ごめんなさい」

 宮燈さんは無表情のまま、一度ジャケットを脱いで、シャツとネクタイを整えていた。さっきまでと違う人みたいになる。
クールなエリートに擬態した宮燈さんが、まるで部下に命令するかのように言った。

「悪いと思ってるなら、私が戻ってくるまでここにいろ」

 私が頷くと、「仕事を終わらせてくる」とだけ言って部屋を出て行った。


 さっきは、訳が分からないままに連れ込まれたけど、見覚えのある荷物が置いてあったから、ここが宮燈さんが泊まる部屋なんだと思う。ツインで広い。
内定者研修が終わって、宿泊希望者は宿泊棟に移動したけど、そのとき私達内定者は全員、別階のシングルだったから、こちらは役職者向けなんだろうなと思った。

 暗い部屋に一人残されて、しばらくベッドの上でぼんやりしていた。
 やっと直接話が出来て嬉しかった。キスしてもらって嬉しかった。何故かひん剥かれていたから、(これはシャワーを浴びておくべきでは)と思ってバスルームを使わせてもらった。

 ドアはオートロックで、カードキーを持たずに外に出ると部屋に入れなくなる。私はこの部屋のキーを持っていないから、自分の部屋へ行ってここへ戻ってくる事が出来ない。着の身着のままで閉じ込められた状態だから、着替えが無くて困った。
 素っ裸で出迎えたら完全に痴女じゃん!と思ったので、備え付けのルームウエアを勝手に使わせてもらった。

 ポットでお湯を沸かしていると、宮燈さんが戻ってきた。無表情だったけれど、部屋に私がいるのを確認して少しだけ視線が和らぐのを感じた。

「おかえりなさい、宮燈さん。お仕事お疲れ様でした。お話してもいいですか?」
「その前に、もう少しだけ君に触れてもいいか?」
「え?」

 なんで?と思っていたら抱き締められた。まだ濡れてる髪を撫でてる。怒ってるんじゃないの?なんでこんなに優しく扱われてるんだろう。抱き締められたまま、私は質問した。

「宮燈さん、怒ってる?」
「怒っている」

「ごめんなさい。来てくれたのに、ありがとうも言わずにごめんなさい。治りましたって連絡忘れて、心配かけてごめんなさい」

「君がもう回復していたのは知っていた」
「そうなの?」

 びっくりしたから体を離すと、宮燈さんは真っすぐ私を見下ろしていた。


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