わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

37. 落ちる_2


「はっ! 一分たりとも時間を無駄にしたくないのに!!」

 意識を取り戻した瞬間、私が叫んだから、すぐ横にいた宮燈さんが少しだけ眉を下げた。

「急に大声を出さないで欲しい……」

 上半身を起こして、前髪をかきあげてそう言ったから、覚醒直後なのにまた私は気を失いそうになっていた。なんて格好いいんだ、私の旦那様。

「ごめんなさい。また眠ってしまって」
「いや、ちょうど休ませたかったから」

 宮燈さんは浴衣を羽織って、私のために水を差しだしてきた。磨かれた綺麗なグラスで、冷たいお水が美味しかった。そろそろ夕飯の時間だからと、一度浴衣を着る。帯を結んでいると呼び鈴が鳴り、「台所に食卓があるから、そちらで」と言い残して宮燈さんが部屋を出て行った。



 台所へ行くと、同時に重箱を持った宮燈さんが戻ってきた。相変わらず無表情だったけど、どこか戸惑いを感じているみたいだった。どうしたのかと聞くと、ぽつりと呟くように言った。

「大量の赤飯をもらった……」

 困ってる宮燈さんが面白くて私が笑ってると、また呼び鈴が鳴った。今度は何だろう!わくわくする!
「ごま塩を忘れてもうて」とのお母様の声が聞こえて、私は声を殺して笑っていた。


 持ってきて頂いたのは、勿論お赤飯だけじゃなかった。
 食卓に並べてもらった料亭の仕出しを見ても、貧乏人は「お節みたい!」という貧弱な感想しか出てこなかった。お節に花麩は入ってないよね。


 海老や帆立はアルバイト先のまかないでたまに食べるけれど、食感や味わいが全然違う。

「美味しいです~凄いです!食べたことないけど、きっと高級旅館の懐石料理もこんな感じですよね!旅行してるみたい」

 私が笑っていると、宮燈さんが無表情のまま言った。

「旅行……新婚旅行を忘れていた」
「とりあえず、入社式までは無理ですよね。来年のゴールデンウィークとか?」

 来年、私たちはどうなってるんだろう? 同じ会社で働くことになるのだけど、宮燈さんはそんなに変わらない気がする。

 鰈の西京焼きや合鴨ローストも美味しくて、お赤飯と一緒にぱくぱく食べた。六方に飾り切りされた里芋も綺麗で美味しい。
出汁巻き玉子を食べたとき、宮燈さんが作ってくれた玉子焼きに似てると思った。
 きっとこれはお母様のご実家からなんだろうな……。




 美味しいご飯に満たされて、感謝して両手を合わせていると、残ったお赤飯(※大量)を片付けながら宮燈さんが言った。

「趣向を変えようか」

 意味がわからなかった。でも、その場で下着だけを脱がされて、後ろから大きな手で乳房を包まれて、胸の先端を弄ばれ、自分の置かれた状況がわかった。

「ここで?! 変態!どすけべ部長!!エロ常務!!!」
「変な肩書きがひとつ増えたな……」
「やだぁ! いやあっ」

 抵抗したけど首に口づけされて力が入らなくなる。宮燈さんの手が腹から下へとおりていく。顔が真っ赤になるくらい恥ずかしかった。



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