わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

32. 橘部長と結婚しました_1



 京都駅に迎えの車が来ていて、そのまま橘部長のご実家へ連れていかれた。
 左京区下鴨といえば高級住宅地。もうね、空気が全然違う。
 車が門前にいくと、勝手にゲートが開いた。高い塀の向こうには、数寄屋造りの大豪邸。
 う、うちの掘立て小屋の実家は、橘家からみたら、ほんとに小屋だ……。

 敷地が広い。池があるみたいだから、車からは見えないけど、きっとバカ高い錦鯉が泳いでると思う。昨日、岡山の私の実家にいた橘部長に物凄く違和感があったけど、今度は私が異端者だった。

 私はこわごわと車から降りた。そっと足を下ろした所が綺麗な石畳で、靴がみすぼらしいのが殊更目立つ気がした。なんとか服は買ったけれど、下着とか靴を買い揃える時間とお金の余裕が無かった。




 良い香りがする広い玄関で、着物の美女が出迎えてくださる。すっきりした目元が橘部長そっくり。

「おいでやす。よう、来てくださいましたなぁ。母の宮子です」
「お、お姉様かと思いました……」
「まあ、そないな上手じょうずいわはっても、何も出えへんわぁ」

 ころころと笑うとますます若く見える。お母様と話してる私の隣で、橘部長はやっぱり無表情だった。



 案内された応接には、橘社長が待っていた。お母様はその隣に座ると、社長に何か小声で話しかけてはふわふわと笑っていた。年齢不詳だ。物の怪なんだろうか。

「やあ、スーツじゃないと高校生に見えるな」

 橘社長は、相変わらず人好きのする笑顔でにっこり笑っていたが、私は内心(いくら童顔だからって高校生はひどくねえか!)と思っていた。でも、社長は66歳らしいので、どちらかと言えばおじいちゃんの年齢に近い。だから、小娘はみんな高校生くらいに見えてしまうのかもしれない……。ちなみに、うちの父は48歳で祖父は73歳だ。


 改めてご挨拶してお茶を頂いてひと息つくと、橘部長が話し始めた。

「岡山の、桜さんのご実家に行って参りました」
「そうか。どうだった?」
「結婚のお許しを頂きました」

 橘部長が無表情でそう告げると、橘社長がまたにっこりと笑っていた。
 下鴨神社で結婚式をして、下鴨茶寮で披露宴。
 こちらから出せる資金がないから、遠慮したいと何度も言ってあるけれど、橘部長から「私が望むのだから、全て私が負担する」と言われている。親族のみで行うこと、会社関係者は呼ばない事などを話していた。

 社長にとって、実子でなくても結婚は嬉しいようで、ずっとニコニコと笑っている。時折、私にも話しかけてくださるけど(孫を見る目じゃのう……)と感じていた。



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