わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

28. 橘部長は朝から_1



 真夜中に目が覚めた。ふかふかの上質なベッドで熟睡したのか、なぜかぱっちりと目覚めた。
ただ、意識は覚醒しているけれど、しばらく体が動かなかった。何度も何度も絶頂させられて、体中が痛い。特に腹筋と腰が痛い。

 アルバイト中はずっと立ちっぱなしだし、清掃等で結構筋肉はついていると思う。それでも橘部長に抱かれた後は、何だか全身が怠いから、えっちする時は日常生活で使うのとは違う部分の筋肉をつかってるんだろうなあと考えていた。
 そーっと体を起こしたら、橘部長は隣で静かに眠っている。
 やべっ。寝顔も美しい。やべっ。何これ。この造形は神の所業だわ。
 写真撮っとこうかなと思って、もしかして橘部長も、私が寝てる間になんか変な写真とか撮ってないかなと心配になった。起きたら確認しておこうと思う。

 明日、橘部長のご実家へ行って、今度は私がご挨拶をする立場なのだけど、一体どんなお母様なんだろうか。男の子は女親に似るって言うから、顔とかそっくりなのかな。橘社長も、私のために東京から京都に戻って来てくださってるそうなので、ちょっと緊張する。
 改めて、眠ってる橘部長の顔を見て、やっぱり社長とは似てないよねえと思う。
 以前、自分の名前について「唯一、父から貰ったもの」と言っていた。短時間しか話していないけれど、社長はそんな冷たい人には見えなかった。むしろ優しそうで素敵な人だなと思った。

 考え事をしていると、おなかがすいてますます眠れなくなってしまった。
 私はベッドからおりて、ガウンを羽織り、隣室にある荷物をごそごそと漁っていた。私のバッグにおやつがあったはず。



「……さくら……?」

 声を掛けられたので寝室の方を振り返ると橘部長が半身を起こしているのが見えた。灯りはつけてなかったけど、私の気配に気づいたのかと思って謝った。

「うるさくしてごめんなさい! 寝ててください」
「何を……食べている……?」
「……メロンパンです。うちの近所のパン屋さんの。私が好きだから、妹が買っといてくれたんです。美味しいですよ」

 質問以上の事を私は答えた。
 暗闇の中、スイートルームの贅沢なソファに座って、メロンパンを頬張ってる貧相な私は、かなり間抜けだったと思う。でも橘部長も結構間抜けな事を言った。

「私も食べたい……」
「半分どーぞ」

 半分千切って差し出した。
 橘部長がベッドからおりてガウンを羽織るとソファの方へ歩いてきた。私は細っ!と思って見ていた。無駄のない肢体だが、もう少し筋肉がある方が好みだなぁとも思っていた。

 二人でソファに並んでメロンパン食べてるのが楽しくて笑ってると、橘部長が無表情のまま「桜は可愛いな」と言った。ぽわっと顔が熱くなるのを感じた。赤面してる、私。

「あ、あ、ありがとうございます」

 戸惑いながらお礼を言ったら橘部長が額にキスをした。愛おしいものに対するキスだなぁと伝わったから、私のドキドキがさらに高まる。

 セックス中の嗜虐的な橘部長と、今みたいな穏やかな橘部長と、どっちが本性なんだろう。

 ……結局、メロンパンが呼び水になり、本格的におなかがすいたので、シャワーを浴びて着替えて食事に出掛けた。
駅前にある24時間営業の居酒屋で飲むことにした。


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