わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

06. 橘部長には愛が足りない_1


 企業の採用選考解禁日、この日に大企業はこぞって内々定を出すわけだから、他社にも行ってそこで複数の内々定をもらわないように、学生の身体を拘束して自社に囲い込む。

その為に、食事会なり懇親会なりがあるのだが、双葉の場合は、本社近くのホテルでのお食事会だった。普段、バイト先のまかないか、もやしで生きてる貧乏学生には夢のような豪華なご飯だった。牛肉なんて何年ぶりに食べただろうか……。めちゃくちゃ美味しい。

 総合職はどうしても女子の割合が少ないからか、同じテーブルの他の内々定者は皆、男子だった。やたらと興味を持たれてしまい、段々会話が面倒になった私は、途中から橘部長の観察をしていた。橘部長は三つほど離れたテーブルにいる。

 今日も無表情だ。こんな美味しいご飯を食べているのに、何故頬が緩まないのか不思議だ。

 でも、食べ方は上品だったから、きっと育ちがいいんだろうなあと思っていた。母にいつも「あんた口が破れてるの?!」と言われるほど何故がぽろぽろこぼしてしまう私とは大違いだ。口が破れてるというより、多分口が小さいのだと思う。

 ずっと見ていたからか橘部長と目が合った。
 わお!美人だ!
 ついへらっと笑ったが無視された。本当に愛想笑いすら出来ないらしい。


 研修という名目の時間拘束のあと解散したが、橘部長から「髪を切ったお詫びをするから、来なさい」と言われて私はホイホイついていった。杉岡さんが私を睨み付けていたのが怖かった。杉岡さんは橘部長の秘書だそうで、きっと第一印象最悪の私が嫌いなんだろう。



 なんだかよくわかんないけど入口が狭い、見るからに高そうな一見さんお断りっぽいお店に連れていかれて「はぁー東京はハイカラじゃのう」とババくさい感想を述べていると、入口で店員さんに止められた。

「お連れ様の身分証を確認させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、すみません。橘部長、少し待っててくださいね」

 背が低くて童顔の私が未成年に間違えられるのはよくある事。ただ、この店は本当の意味で高級なのだろう。店員さんの言い方も態度も、まったく嫌味を感じなかった。私は素直に免許証を出して確認してもらった。成人した花の21歳ですからね!



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