わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

04. 橘部長を観察したい_1

 
 落ちたな、と開き直ったせいか、それとも面談者が見知った人だったからか、橘部長との面談はいつもより自然に話が出来た。橘部長はずっと無表情だった。

 まあでも、十中八九、お祈りメールだろうなぁとは思う。

 役員専用エレベーターに乗ったあげく、スギオカさんとかいう社員さんに向かって悪態ついたし、面接会場には時間ギリギリに到着するし。苦労して東京まで新幹線で行ったのにな。交通費は出してもらえたから多少助かるけど、宿泊費は自腹だし。


 しかし、落ちたと思っていた私はなぜか受かっていて、採用担当の林さんから電話がきた。

「いよいよ、次は役員との面談ですね」

 役員面談、つまり最終面接。


 私にとって、双葉は第一志望の会社ではない。私の第一志望は財閥系商社。双葉は滑り止めのつもりだった。第一志望の商社の面談も来週予定。
 でも、今回人混みにもみくちゃにされて、東京で働くのが無理な気もしていて、採用選考解禁日以降に仕切り直して、京都か神戸あたりの地場の企業にしようかな、実家のある岡山に帰って県庁勤めとかどうかな、とも考えていた。

 頑張って貯めた預金も残り少ないし、双葉は選考辞退してしまおうか。私の実家は潰れかけた町工場で、多額の借金を抱えている。私は大学の入学金・学費を全額免除してもらっている。勿論、そのために実家の所得証明書も出し、研究内容についても半年ごとに大学に報告している。成績も審査対象だから、常に全力疾走している状態。

 正直に言って、もう疲れた。


 能天気な私が、要は、燃え尽きバーンアウトしかけていた。


 アルバイト先の回転寿司屋で、まかないを食べながら、ぼんやりと東京での面談を思い出していた。あの人、橘部長さんにもう一度会いたいなぁ。型通りの質問内容だったけど、ふとした間が面白くて、話していて楽しかった。無表情だったけど、美人過ぎて目が離せなかった。

 最終面接、受けるだけ受けてみようかな。
 ……そう思って私は、また東京へ行く準備をすることを決めた。



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