ゴット・オブ・ロゴス

神港 零

組織

俺が今、向かっている天界には使徒を束ねる組織があり、その組織のことを『ゴッド・オブ・ロゴス』、通称GORの本拠地が存在している。
『オシャント』、『スカイ』、『ランド』の三つの派閥に分かれており、この三つの派閥を総称して『ゴット・オブ・ロゴス』と言う。この組織の頂点に立つ人こそゼウス様と呼ばれる人だ。
俺は雲を通り抜けたところで朱雀に一度、止まるように指示をする。
神力を込めて、天界に続く道を生み出した。
すると、ある街みたいなのが見えてきた。
あれが天界だ。
朱雀が天界に続く道をどんどん進み足場があるところまで、俺を連れて行く。
匠は朱雀の頭を撫でながらお礼を言った。 嬉しそうな顔をして朱雀はどこかに飛び去った。
匠はある建物の中に入った。
建物の中に居る使徒たちが一斉に俺の方を向き、敬礼した。
「風神さま、ご無沙汰しております」
堅苦かたくるしいのはいいから道を開けてくれ」
「「「りょ、了解です」」」
匠がそう言うと使徒たちはもう一度敬礼をして散っていった。
匠は居心地が悪そうに自分の上司に当たる小鳥遊たかなし卯月うづきの元に向かう。その間に色々な人に尊敬の目で見られる。
この視線を感じていると学校の方が居心地が良いとさえ、思う。
学校が居心地がいいってわけじゃないけど。
(早く帰りたい)
匠は心の中でそう思った。
しばらくすると卯月がいるとされている部屋の前に着いたのでドアをノックした。
神楽坂かぐらざか匠です」
「…………………入りたまえ」
「失礼します」
匠はドアを開き、部屋に入った。
そこには黒い髪が特徴で取っ付きやすそうな女の子とスーツ姿の女性がいた。
早く終わらせたい匠は呼び出した理由を聞いた。
「ご用件は何ですか?」
「その前に……………匠くん、昔みたいにタメ口でお願いと言っているよね?……」 
少し拗ねたような表情で匠を睨む。それに対して匠はため息を吐いた。隣の女性も呆れたような表情で彼女を見つめる。そう、この人こそ『オシャント』と言う派閥の頂点に立っている小鳥遊たかなし卯月うづき、その人だ。
匠は少し呆れ混じりで卯月に言う。
「一応、上司という立ち位置ですよね?」
「いや、上司の前に同期だし、友達だよね?それなら普通、友達ならタメ口だよね!?」
俺の説得になってるかどうか分からない説得も虚しく敗れてしまった。俺は隣にいる女性こと大天使ガブリエルに助けを求める。
しかし、ガブリエルの口から予想外な言葉が出る。
「別に人前じゃなければ別にタメ口でも良いじゃないですかね。卯月さまも息抜き出来る時間があるのは悪いことじゃないですし。そうですよね、匠さん?」
「まぁ、そうですけど………」
「そんなに抵抗あるなら上司命令として人前以外ならタメ口で会話をする」
「………そんな横暴な……」
「匠くんは真面目だから上司命令を守ってくれるよね」
「うん、分かった。俺もこっちの方が楽だしね」
匠は少し前のようにタメ口で返事をする。
この話が一段落すると、卯月が軽い口調で本題に入ろうとする。
「…今回要件について匠くんだけではなく、スサちゃんの意見も聞きたいから。スサちゃん、姿を現して」
「我をスサちゃんと呼ぶでない」
その声が部屋中に響き渡るとたくみの中から黒髪に鎧を纏った小柄な少女が出てきた。
それがスサノオの実態化した姿だ。
神は人界では実体化することが極めて困難で人界にいる時は契約者の身体の中に常に居ることになる。
「おい、卯月。お主、スサちゃんって呼ぶなと何度言えば分かるのだ」
「えっと……………どう見てもスサノオってイメージじゃないんだもん」
卯月がスサノオの容姿を見て呟く。
その言葉に激怒する。
「好きでこんな容姿などではない。お主、喧嘩を売っているのか?」
やはりと言って良いほど卯月とスサノオは相性が悪い。卯月は悪気はないんだろうけどスサノオがスサちゃん呼びはやめてって言っているのにやめないし、スサノオは冗談が通じないし、どっちが悪いと言ったら卯月なんだろうけど……………それよりも早くスサノオを宥めないと。
「スサノオ、そこまでにして…………」
「おい、お前のせいで話が進まねぇ〜じゃねぇいか?卯月」
その不穏な声が聞こえてから卯月の身体から大柄な男性が出てきて卯月にチョップをお見舞する。
「ポセくん………なにするのよ」
卯月が何か悔しげな表情で自分の契約神を見つめる。
「お前のせいで話が進まないだよ」
「さっさと本題に入れ。すまなかった、スサノオ。我が主君の無礼謝らさせてもらう」
「ポセイドンがそう言うならこのことは今は水に流そう。それで兄上と我に用とはなんだ?」
真剣な眼差しで卯月を見据える。
すると、卯月からふざけた雰囲気が無くなり、この場にいる人を見渡し、口を開く。
「この件は出来るだけ内密にして欲しいだけど……今、人界に派遣した五人の使徒しと行方ゆくえ知れずになっていて、私たちの方で行方を追っている状況なの……」
「使徒が五人も!それは悪魔の仕業なのか!」
俺は驚愕して思わず声を荒らげる。
「いや、まだ断定出来ていないんだよ。十中八九悪魔の仕業だと思うんだけどね」
「何故だ?卯月の情報門ならすぐに原因を特定出来るだろう」
「今回ばかりはよく分からないだよね。使徒たちが失踪した場所を調べたけど痕跡が残ってなかったのだよ」
卯月が少し悔しそうに下唇を噛む。
「だけど、一つだけ気になることがあって………それの事が聞きたくて匠くんを呼び出したんだし」
「じゃあ、その聞きたいこととは?」
「痕跡を残さずに悪魔たちが使徒しとを攫うことは可能だと思う?」
「その言いぶりだと魔力の痕跡すら見つからなかったようだし。……………卯月も知っての通り俺たちが神術を使った場合、多少神力の痕跡は残る。奴らも人界に来る時や魔術を使った時に魔力の痕跡は残る。それを完全には消すことは不可能に近い。状況からすると悪魔の仕業ではないと考える」
「我も不可能と考えている。我たちに出来ないことが悪魔たちに出来るはずがない」
「やっぱりそうだよね。博識の二人がそう言うなら間違えないと思うけど……」
「何か引っかかっるのか?」
「うん。悪魔の仕業じゃないとしたらなんで使徒あの子たちは失踪したのだろう」
俺たちは卯月の言葉を聞いて顔を強ばらせる。
「一つの可能性としては使徒の誰かが裏切ったとか………」
使徒あの子たちはそんな事しない!」
卯月が口調を荒らげて否定する。
俺はその言葉を聞いてすぐ補足する。
「あくまで可能性の話だ。悪魔が俺たちの知らない痕跡を残さない何らかの形で攫ったという可能性は捨てきれないからな」
「そうだぞ。匠どのはあくまで状況からその可能性があると言っただけで本気で裏切り者が出たとは思っていない」
口調を荒らげた卯月を俺とポセイドンは宥めて落ち着かせる。すると、我に返ったのかバツが悪そうに俺に頭を下げた。
「ごめん。匠くん、そういう可能性もあるってだけだもんね」
「別に謝らないでいい。卯月が俺たち、使徒を大切に思っているのは知っているからな。俺の言い方も悪かった」
「ほんと、匠くんって優しい時は優しいよね」
「だけど、もしもの時は覚悟しろよ」
「うん。でも、そうでない事を願うよ」
卯月は少し笑顔で俺に返答した。
こう見えても組織を束ねる一人だし、卯月は感情的になりやすいが必要とあれば冷静に物事を見て判断することが出来る。例えそれが冷酷な事だとしても……………しかし、本当に優しい彼女にとってそれはどれだけ辛いことか。だからこそ、そんな彼女をどんな事があろうと俺たちは支え、共に歩まなければいけないと思う。
「俺の方でも使徒が失踪した原因を探ろう。どこで失踪したんだ?」
「えーと」
卯月が少し言いづらそうにする。
そんな卯月を見かねてガブリエルが言う。
「武蔵ですよ」
「………………………おい、卯月」
「ひゃい!」
俺の怒気どきが含んだ声に素っ頓狂すっとんきょうな声をあげた。
それに対して、スサノオもポセイドンもあわれむように卯月を見る。
「いつ、派遣したの?」
「えっと…………一か月前くらい?」
「なんで武蔵に派遣したの?」
「武蔵は広いから一人じゃ大変かなと思って…………結局、ほとんど匠くんが倒してたけど」
「その心遣いにはお礼を言うが…………」
確かに大変だったからな。
しかし、俺の追求は止まらない。
「なんで俺はその事を知らないのかな?」
「私が言ってなかったです………」
「なんで言わなかったの?」
「匠くんにはこっちの事は気にせず、学校生活を楽しんで欲しかったからです」
「なんでそういう要らない配慮をするかね……」
「はぅ」
「それは言い過ぎではないか」
ポセイドンが縮こまってる卯月を見てフォローした。
「それはそうだが、話してくれれば連携が取れたのに………」
「確かに匠くんに話していればあの子たちは攫われる事はなかったかもね」
沈んだ表情でそう呟く。
俺はこれ以上、卯月に問いただしても意味無いのでさっきとは打って変わって明るい声で言った。
「まぁ、終わった事をくよくよ言ってもしょうがない。その子たちは俺が絶対見つけるよ」
「兄上、間違っているぞ。『俺たち』でしょ」
「そうだな」
スサノオの言葉にこの場にいる人たちは頷いた。その姿を見た卯月は少し目に涙を貯めて笑顔で俺たちにお礼を言う。
「みんなありがとう」
そんな卯月を見て俺たちは笑顔になる。
「この話は一段落ついたところで俺たちは帰るよ」
「もう一つ、話があるの」
スサノオが俺の中に戻ろうとした時、卯月がそう言った。それに対してスサノオは少し不機嫌になる。
「我は少し眠いのだが………まだ、用があるのか」
「スサちゃんは寝てていいよ。匠くんの方に話があるだけだから」
「だから、スサちゃんと………………ふぁ〜、まぁ、いい。我は寝るからな」
そう言い残してスサノオは俺の中へと入った。
そんなスサノオに苦笑いを浮かべ、卯月に向き直る。
「俺に話って?」
「今日、新たな神力持ちを見つけたでしょ。その子、神と契約して使徒になれると思う」
「それは彼女次第だな」
「彼女次第かぁ」
俺の返答に困ったようにつぶやく。
使徒は500人に対して神力持ちは今、観測しているので1000人だ。
使徒になれる確率はおよそ3分の1。3人に1人はなるという計算だ。
500人で数万の悪魔を相手をするのは骨が折れるので少しでも勢力を増やしたいところだ。
「やはり勢力を増やして悪魔を根絶やしにしたいですね。元同族だとしても関係ありません」
ガブリエルは何か決意の籠った表情で言った言葉に卯月は頷く。
「話が終わったなら俺は帰る」
「ちょっと久しぶりに会ったんだから話をしようよ」
俺がこの部屋から出ようとすると卯月が止めてくる。
「また今度な」 
「もうすぐ葉月ちゃんがここに来るよ」
「いや、タイミングが合ったら会いに行くよ」
「そう言って二ヶ月会ってないって聞いたよ。彼氏としてどうなの?」
「そう言われると耳が痛いのだが」
俺には恋人がいる。その名前は小鳥遊葉月はづき。俺の相棒であり、最愛の人だ。最近はタイミング合わなくて会えずじまいだけど。今はどうでもいい。なんで卯月は俺を引き止めているんだ?
何だかやな予感がする。
ガチャ
「どうゆう事ですか?卯月さま!」
俺は突然の訪問者に戸惑いを隠せないのであった。




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