ゴット・オブ・ロゴス

神港 零

ショッピングモール②

ショッピングモールに来ただけなのになんでカメラを向けられているんだ?
「匠くん!表情が硬くなっているわよ」
「あっ、はい」
そう言っても表情を柔らかくするやり方を知らないし。
なんか空気感に飲み込まれ、モデルをするんじゃなかった。
そんな事を考えていると今回一緒に撮影をしているモデルの女の子…………小湊紗夜さんが笑顔で励ましてくれた。
「匠さん、初めはみんなそんな風に緊張するものなので、気にしないで大丈夫ですよ」
「そういうもんですか……」
「(主殿の場合はただ単に笑顔が苦手なだけな気がするが)」
「(少し黙って)」
俺は深呼吸をして自分の格好を見る。
今の俺は、シンプルのワイシャツに黒いズボンから、カーディガンを羽織っている。
ファッション雑誌に載っても、可笑しくない風貌で少し緊張する。
結局、表情が硬いのが変わらなかったため、1度休憩をもらった。
「ふぅ…………」
「お疲れ様です」
「あっ、お疲れ様です」
「隣、いいですか?」
「………大丈夫です」
ショッピングモールにあるベンチに腰をかけていると、紗夜さんが話しかけてきた。
紗夜さんが俺の隣に座ると、俺は率直に思ったことを口にした。
「紗夜さんって凄いですよね」
「えっ?」
俺の突然の賛辞に、紗夜さんが驚く。
「自分はあまりファッションに興味がなく、雑誌なんかで写ってるモデルさんを見ても何とも思ったことはなかったんですが…………今日一日、それも短い時間を体験してみただけでどれだけ大変なのか分かりました」
「そんな………慣れですよ。初めは私も色々と怒られてましたし」
「そうだとしても、俺には難しいことだと思います。ポーズはまだしも表情まで要求されるとは思いませんでした」
「あははは………薫さんは、モデル業界の中でも表情にこだわる方ですからね」
薫さんとはショッピングモールで怒鳴り声を荒らげている女性で、カメラマンの事である。
「そう言えば、紗夜さんはなぜこの業界に?」
純粋な質問として、そう訊くと紗夜さんは真面目な表情で答えた。
「たぶん………憧れていたんだと思います」
「憧れた?」
紗夜さんはどこか困り気味な笑顔で続けた。
「匠さん、私には有名な姉がいるって事をご存じですか?」
「…………知らないです」
「そうだと思いました。匠さんって何か世間に疎い感じがします」
うふふと笑いながら紗夜さんが言った。
「(そうなのか?)」
「(まぁ、主殿自体。テレビをあまり見ないし、芸能界に興味がないだろう)」
「私の姉は女優をやっていてそんな姉に私は憧れ、追いかけようと思い、女優になろうと思いました。ですが、何度もオーディションを受けたのですが一度も合格出来ませんでした。諦めかけてた時にモデルのスカウトを受けたのです。スカウトを受けたのは一つの運命なんじゃないかと思い、モデルになりました。最近になって、テレビに出させていただけるようになり、有名になったのですが姉には遠く及ばなかったです」
紗夜さんは悔しそうな表情を浮かべた。
「でも、もういいです!こうしてモデルの仕事をしていくうちに、姉に憧れた気持ちから始めた事で、少しでもファッションに興味を持って.…………私みたいなモデルを目指してくれる人が現れたらいいなって、思っています」
そういう紗夜さんの表情は誇らしげで輝いて見えた。
思わず彼女のその表情に見惚れていると、紗夜さんは照れたように笑った。
「あはははは…………す、すいません……一人で勝手に話し込んでしまって」
「そんな事ないですよ。紗夜さんがどれだけこの仕事が大好きで、誇りに思っているのかって分かりましたし」
紗夜さんにとってモデルという仕事は掛け替えのない大切な仕事なんだろう。
将来は自分は何をしているのだろう?
まだ、悪魔と戦っているのだろうか?
又は親の仕事を継いでいるか?
そんな事を考えるとだんだん不安になってくる。
不安そうな表情をした俺を見た紗夜さんは優しく言ってくれた。
「匠さん。焦る必要はないと思います。ゆっくりと自分のペースで。だから、今はその瞬間を全力で楽しめばいいと思います」
「その瞬間を楽しむ………か………」
そうだな。今の俺が考えても仕方ないことだ。
今の行動が未来へと繋ぐ道になる。
今、俺の欲しい明日みらいを掴むしかないよな。
「俺も…なりたい自分になれますかね」
「ええ、必ず」
優しい笑顔を向けてくれる紗夜さんを見て気づけば自然と笑顔になっていた。
「シャッターチャーンス」
なんか、遠くの方で変な声が聞こえた、俺には結局分からなかった。

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