家庭訪問は恋のはじまり【完】

くっきぃ♪コミカライズ配信中

第85話 仲良く

「夕凪、もっと俺を頼れよ。
 夕凪が頑張ってるのに、力になれないのは俺が歯痒いよ」

瀬崎さんは私の頬に手を添えると、そのままそっと口づける。

「夕凪、愛してる……」

瀬崎さんの唇が何度も重なる。

やらなければいけない事はたくさんあるのに、つい流されそうになる。

私は、瀬崎さんの胸を押し返した。

「瀬崎さん!  ダメです!
 これを片付けないと、嘉人くんにお出かけしてもらった意味がないじゃないですか」

私が抗議すると、

「意味はあるだろ。
 夕凪が、毎週、嘉人を預けて泊まりに来るなって言うなら、俺が夕凪をかわいがるタイミングは、今しかないだろ」

と瀬崎さんは私から離れようとしないばかりか、そのまま首筋から鎖骨へとキスが下りてくる。
  
確かにそう言ったけど。

だって瀬崎さんは、男である前に、嘉人くんのお父さんだし。


だけど…

やっぱり、好きな人と触れ合いたいのは、私も同じで…


結局、私たちはたっぷり仲良くした後で、さらに仲良く準備を進めた。


「ちなみに、この結婚式が終わったら、夕凪も瀬崎さんになるんだけど、いつまで俺の事、瀬崎さんって呼ぶつもり?」

席次を決めるための名前を書いた付箋を並べながら、瀬崎さんは言う。

「えっと、だって、他になんて呼べば… 」

いきなり名前で呼ぶのも、恥ずかしいし。

「幸人でも、ユキでも好きなように呼んでいいよ。
 でも、今日から瀬崎さんは禁止」

「ええ〜!?」

好きなようにって、それが一番困る。

「んー、じゃあ、ひとつだけ聞いていい?」

「なに?」

「前の奥さんはなんて呼んでたの?」

瀬崎さんが一瞬で固まった。

「あ、だって、同じ呼び方は、お互いに嫌かなぁと思って」

私が言うと、

「大丈夫。名前じゃないから、名前ならどう呼んでも一緒にはならないよ」

と、視線を逸らす。

「名前じゃないって?」

「……… 」

瀬崎さんの様子がいつもと違う。

「分かった。嘉人くんに聞くからいいよ」

私が言うと、「はぁ… 」と瀬崎さんはため息を吐く。

「てんちゃん」

「えっ?」

「もともと、店長って呼んでたんだ。
 それが、店長じゃなくなったから、『てんちゃん』になった。
 だから、夕凪は普通に名前で呼んで」

ふふっ
かわいい。
だから、恥ずかしくて言いたくなかったのかな。

私は、なんて呼ぼうかなぁ。

「んー、幸人さん、ユキさん、ユキちゃん……
 やっぱり、ちゃん付けはやめよ。
 ユキ、ユキくんは言いにくいなぁ。
 ゆっくん。
 うん、ゆっくんがいい。
 ゆっくんでいい?」

私が聞くと、瀬崎さんは照れたように笑った。

「いいよ。夕凪がそれがいいなら」

「ふふっ
 ゆっくん」

私が呼ぶと、また瀬崎さんの手が腰に回った。



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