家庭訪問は恋のはじまり【完】

くっきぃ♪コミカライズ配信中

第83話 報告

翌日、私は朝一で校長室に向かう。

「失礼します」

一礼して入室し、席に座って仕事中の校長の元へ歩み寄る。

「あの、ご報告があります」

「はい、何ですか?」

校長は、穏やかな笑みを浮かべて顔を上げる。

「実は、結婚が決まりまして……」

「おお、それはおめでとうございます」

校長はさらに顔を綻ばせた。

「ありがとうございます。
 ただ、相手が……」

私は、言いづらくて、一旦、言葉を切った。

「ん?  お相手がどうされました?
 まさか、結婚退職を望んでらっしゃるとか?」

校長の笑みに警戒の色が滲む。

「いえ、その……」

私は、意を決して言う。

「昨年度、担任した児童の父親なんです。
 同じ市内ですし、こういう噂は広まるのも早いですから、学校にもご迷惑をお掛けする事があるかもしれません。
 大変、申し訳ありません」

私は、思いっきり頭を下げた。

「まあ、神山先生、頭を上げてください。
 もう少し、事情を聞かせていただいてもいいですか?」

「はい」

私は、事の成り行きをざっと説明する。

「要するに、担任してる時に好意を打ち明けられたが、神山先生は担任児童の保護者である事を考えて、返事をしなかった。
 それが、このたび、担任を外れた事で、一気に結婚まで話が進んだという事でいいですか?」

「はい」

「でしたら、問題はないでしょう。
 何か言ってくる保護者がいても、そのように説明すればいいだけですから」

校長はまた穏やかな笑みを向けてくれた。

「それと、もう一つあるんです」

「何ですか?」

「実は、相手が仕事の関係で東京に行く事になったので、今年、東京の採用試験を受けようと思ってます」

今度は、顔を上げて、校長の目を見て話した。

「つまり、来年度は東京で先生をしたいという事ですね?」

「はい」

「それは残念です。
  神山先生は、とても熱心でいい先生だと聞いていたのに、一年しかいらっしゃらないなんて」

そんな風に言っていただけて、とても嬉しい。

「では、試験の日には、年休が取れるように調整しなければいけませんね。
 教務の細川先生とよく相談して、自習監督が不在にならないようにしてください」

「はい。
 ご理解いただき、ありがとうございます」

私は一礼して、校長室を後にする。


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品