家庭訪問は恋のはじまり【完】

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第82話 神山家へ

その夜、私は、実家に電話をした。

明日、話があるから帰宅する事。
瀬崎さんと嘉人くんも一緒に連れて行く事。

それだけで、母は、何の話か察したらしい。

何も言う事なく、電話を切った。

翌日、私は、迎えに来てくれた瀬崎さんの車で、実家に向かう。

片道一時間のドライブ。
嘉人くんは、後ろの席で楽しそうにずっとおしゃべりをしていた。


実家に到着し、私たちは居間ではなく、仏間に通された。

座卓の前、上座に父と兄、下座に瀬崎さん、嘉人くん、私。

母は、お茶を入れて来て、間に座る。

「先日は、お正月にも拘らず押しかけて、申し訳ありませんでした。
 今日は、改めて、お願いに上がりました」

私は、姿勢を正した。

「夕凪さんと結婚させてください。
 お願いします」

瀬崎さんが頭を下げ、私もそれに習う。

すると、キョロキョロと左右の私たちを見た嘉人くんも、ぺこりと頭を下げた。

「頭を上げてください」

兄が言う。

「夕凪は、それでいいんだな?」

兄に問われて、私は「はい」と頷いた。

すると、父が、

「覚悟はできてるんだな」

と確認する。

覚悟……

妻になる覚悟。
母になる覚悟。
醜聞に晒される覚悟。

「はい」

私が答えると、父は瀬崎さんに向かって言う。

「こんな至らない娘ですが、私にとっては、
 誰よりもかわいい娘です。
 どうか幸せにしてやってください」

「はい!」

瀬崎さんは迷いなく、返事をしてくれた。

その直後。

「夕凪先生は、僕が幸せにする!」

「えっ!?」

嘉人くんのかわいい宣言に、全員が一瞬息をのんで、その後、笑みをこぼした。

「ありがとう。
 嘉人くんが幸せにしてくれるの?」

私が尋ねると、

「うん!  僕、夕凪先生にいっぱい優しくしてもらったから、今度は僕が優しくしてあげる」

と真っ直ぐに見上げて言われた。

「ふふっ
 ありがとう。期待してるね」

そこへ美晴が駆け込んで来た。

「ああ!  嘉人くんだぁ!」

「こら、美晴!  お客様だぞ!」

兄が美晴をたしなめる。

「ごめんなさい……」

しょんぼりうなだれる美晴の姿は、なんだかかわいい。

「美晴ちゃん、こんにちは!」

嘉人くんが嬉しそうに挨拶する。

「あのね、あのね、美晴ちゃん!」

嘉人くんは立ち上がって、美晴の所へ行き、手招きして耳元で内緒話を始めた。

「ええ!  ほんと?  やったぁ!」

美晴は小躍りせんばかりに喜んでいる。

「嘉人、何、言ったんだ?」

瀬崎さんが尋ねると、

「僕がね、美晴ちゃんの従兄弟になるよって、教えてあげたの」

と嬉しそうに答えた。

瀬崎さんの妹さん夫婦には、新婚だという事もあり、まだ子供はいない。

つまり、どちらも従兄弟がいなかったのに、突然同級生の従兄弟が出来ることになったんだから、嬉しいのは当たり前かもしれない。

「みぃちゃん、嘉人くんとお庭で遊んでおいで」

私が言うと、

「行こ!」

と2人で外に出て行った。

子供たちがいなくなるのを見計らって、兄が言う。

「夕凪の新しい学校は同じ市内なんだろ?
 人の目を考えたら、少し離れたほうがいいんじゃないか?」

私は瀬崎さんと顔を見合わせる。

「実は、私、東京の採用試験を受けようと思ってるの」

瀬崎さんが事情を説明してくれる。

「夕凪、東京で子育てするの?」

母が心配そうに言う。

「うん。
 瀬崎さんがそうしたいなら、私はそれを叶えてあげたいと思う。
 私には何もできないけど、せめて、足枷にはなりたくないから」

私がそう言うと、父は、

「幸人くんは大変な事に立ち向かおうとしてるんだ。
 お前は精一杯支えてやりなさい」

と言ってくれた。

母は、まだ納得してはいなさそうだったけど、それ以上は何も言わなかった。


私たちは、お昼にお寿司と母の手料理を食べて、実家を後にした。

嘉人くんと美晴は、名残惜しそうだったが、従兄弟になるんだから、またすぐに会えると言うと、それでようやく納得してくれた。


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