家庭訪問は恋のはじまり【完】

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第56話 4回目の家庭訪問

その後、6時半まで仕事をして、嘉人くん家に向かう。

玄関のチャイムを押すと、インターホンから瀬崎さんの声が聞こえる。

『はい。今、開けるよ』

すると、すぐに玄関が開き、また嘉人くんが顔を覗かせる。

「夕凪先生、パパが『どうぞ上がってください』だって」

嘉人くんはそう言うけれど、やっぱりこの時間に家に上り込むわけにはいかない。

「ううん。先生、嘉人さんのノートを届けに来ただけだから。嘉人さん、もう忘れ物しないでね」

「うん。でも、パパ、先生の分もご飯作ってるよ。先生、また一緒にご飯、食べよ」

うーん、でもなぁ…

私が返事に困ってると、エプロンで手を拭きながら、瀬崎さんが現れた。

「遠慮しないで、上がって」

「え、でも… 」

「ムニエル、焼けたから食べるよ。ほら!」

と、瀬崎さんに手を取られ、引っ張られるので、私は床を汚さないように慌てて靴を脱いだ。

そのまま、手を引かれ、ダイニングに連れて来られると、

「はい、座って」

とまた座らされてしまった。

「ほら、嘉人、運べ」

瀬崎さんは、嘉人くんに、食器を手渡す。

私だけが座っているのもいたたまれなくて、

「あ、じゃあ、手伝います」

と私は立ち上がった。

「じゃあ、これ運んで」

瀬崎さんにスープ皿を手渡され、私はテーブルに運ぶ。

全てを運び終えて、席に着こうとしたら、瀬崎さんが言った。

「嘉人ぉ、なんでお前が夕凪先生の隣なんだ?
 パパが夕凪先生の隣だろ?」

は!?
瀬崎さん?

「なんで?
 パパいつもママの前だったでしょ?」

「ママはな。でも、夕凪先生は、パパの隣」

「なんで?」

「そんなの夕凪先生のそばがいいからに決まってるだろ? 嘉人、パパに協力するんじゃなかったのか?」

せ、瀬崎さん!

この状況、どうすればいいの!?

「ええ!?
 そうだけどぉ…
 僕、給食、いつも夕凪先生の前だもん。
 たまには隣がよかったのに」

ふふっ
嘉人くん、そんな事考えてたの?

「ほら、嘉人は毎日学校で夕凪先生と一緒なんだから、家ではパパ優先な」

もう!  子供みたい。
いつもの大人な瀬崎さんはどこへ行ったの?
ふふふ

2人のやり取りを聞いてると、自然に顔が綻んでくる。

「嘉人さん、こういう時、どうすればいいんだった?」

ちょっと前までの嘉人くんは、お友達とこうして揉めるたびに喧嘩してたけど、今は手を出すことはほとんどない。

「じゃんけん!!
 パパ、じゃんけんしよ!」

嘉人くんはにっこり笑ってグーにした手を顔の前に掲げた。

「ええっ!?  マジかぁ」

瀬崎さんは不平を口にしながらも、楽しそうに手を出す。

「じゃんけん、ぽい!」

嘉人くんの掛け声に合わせて両者が手を出す。

嘉人くんがパーで瀬崎さんがチョキ。

「ちぇっ!  じゃあ、パパ代わってあげる」

瀬崎さんと嘉人くんの席は決まっているようで、2人は入れ替わる事なく、私の食事だけが嘉人くんの隣から瀬崎さんの隣へと移された。

「嘉人さん、上手にじゃんけんできたね。学校でもいつも上手に譲り合えるようになったから、喧嘩もほとんどしなくなったもんね。2年生より2年生っぽいよね」

私は嘉人くんを褒めて頭を撫でる。

嘉人くんは、「へへっ」と照れ笑いを浮かべて、席に座る。

私は、そのまま移動して瀬崎さんの隣に座った。


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