家庭訪問は恋のはじまり【完】

くっきぃ♪コミカライズ配信中

第52話 帰宅

3日、私は高校時代の友人とランチに行く。

行き先は、私の希望で隣の市にあるAccueilアクィーユ

「ここはやっぱり、女子会よりデートで来たいよね」

美香が言う。

「だよね。
 夕凪、なんでここに来たかったの?」

友美が不思議そうに私を見る。

なんでって、瀬崎さんの会社だから…とは言えない。

「この前、連れてきてもらったら、おいしかったから」

私が無難に答えると、2人は目を輝かせた。

「誰?  彼氏できたの?」

「違う、違う。ただの上司」

「ただの上司は、こんな店には連れて来ないよねぇ?」

と美香と友美は顔を見合わせる。

「はいはい。正直に言います。
 告白はされました。でも、断ったの。
 だから、今もただの上司」

「ええ!?  なんで?
 好みのタイプじゃなかったの?」

と美香。

「好みのタイプだよ。
 イケメンで優しくて大人で。
 でも、好きな人じゃないから」

そう言うと、友美が身を乗り出す。

「夕凪、好きな人ができたんだ?」

「……うん」

「付き合ってるの?」

「それは、まだ」

「まだって何?」

「それは… 」

私は言い淀む。

「まさか、不倫?」

ふぅ…

ここでもそう疑われるんだ。

「違うよ。でも、今はダメなの。
 春になったら、ちゃんと言うし、紹介もするよ。
 それより、美香は?
 来月だっけ?  予定日」

私は妊婦の美香に話をすり替えた。

私の気の置けない友人たちだけど、何かを察してくれたようで、それ以上の追及はして来なかった。

私たちは、おいしいランチをいただき、のんびりとお茶をして、デザートも食べ、店を後にした。

一度、実家に戻り、両親に挨拶をしてから、白菜や大根など、大量の野菜を車に積まれて家を出る。

こんなにたくさん、ひとりで食べきれる訳ないじゃない。

全く、何を考えてるんだか。

私は、のんびり車を走らせて、アパートへ戻った。

野菜を片付けて、瀬崎さんにメールする。

『無事、帰宅しました』

すると、すぐに電話が鳴る。

「はい」

『夕凪?  おかえり』

「ふふっ
 ただいま」

『晩ご飯、食べた?』

「まだ。
 お昼にAccueil(アクィーユ)でお腹いっぱい食べたから、あまりお腹空いてなくて」

Accueilアクィーユ行ってくれたんだ?
 あそこからだと、国道沿いの店かな?』

「うん。
 今日もすっごくおいしかった」

『それは良かった。
 夕凪、今から行ってもいい?』

「嘉人くんは?」

『明日から仕事だから、実家に預けてきた。
 夕凪、会いたい』

会いたい…その台詞にキュンとする。

私も…会いたい。

「待ってます」

『じゃ、また後で』


瀬崎さんは、15分程でやってきた。

玄関を入るなり、抱きしめられる。

「夕凪、会いたかった」

私も…

言えない言葉を飲み込んで、私は瀬崎さんの背に腕を回す。

だけど、すぐに瀬崎さんの腕が緩み、柔らかな温もりが唇に落とされた。

くちづけは一気に深くなり、性急に息を乱される。

瀬崎さんはくちづけながら、履いたままだった靴を脱ぎ、部屋に上がる。

そのまま私を壁に押し付けると、くちづけは首元へと下りていく。

思わず、甘い声を上げそうになり、私は慌てて指を噛んだ。

すると、今度は、瀬崎さんの手が、私の体のラインをなぞるように動き、胸で止まった。

優しく胸を撫でたかと思うと、ニットの下から手を差し入れられた。

瀬崎さんに求められていると思うと、正直、嬉しかった。

このまま、流されてしまいたいとも思った。

だけど…

「ダメ…です。
 それ以上は… 」

私がそう言うと、一瞬、瀬崎さんの手が止まった。

瀬崎さんは、首筋に唇を寄せたまま尋ねる。

「ほんとに?
 夕凪の心はいやって言ってないと思うけど」

一言話すたび、吐息が首元にかかってゾクゾクする。

私が、答えられずにいると、瀬崎さんの手が、また動き始めた。

指を噛んでても抑えきれない声が喉元から漏れる。

私も瀬崎さんが欲しい。

それでも…

「ダメ…です。
 ダメ…なんです。
 ごめんなさい」

私がそう言うと、瀬崎さんはようやく私を解放して、乱れた服を直してくれた。

「ごめん。
 ダメな事は分かってるのに」

私はブンブンと首を横に振る。

「ううん。
 私こそ、融通が利かなくてごめんなさい」

私がそう言うと、瀬崎さんは、もう一度、ギュッと抱きしめてくれた。


「早く結婚したい。
 夕凪と毎日、一緒に暮らしたい」

嬉しい…
私も。

私は言えない言葉を飲み込んで、瀬崎さんの胸に顔を埋める。

こうしてる今が、すごく幸せ。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品