家庭訪問は恋のはじまり【完】
第42話 長い片思い
「俺もずっと、夕凪先生が好きって伝えてたつもりなんだけど、何が違ったの?」
こんな話をしてるのに、武先生は変わらずに穏やかな笑みを浮かべてる。
「瀬崎さんは、とても真剣に仰ってたから、冗談だとは思えなくて… 」
「そう。
俺は、仕事が一緒だから、後の事を考えると、あまり追い詰めるような事は出来なくて、つい冗談とも本気ともつかない態度を取ってたのかもしれないな。
もっと、真剣に伝えればよかった」
そう言う武先生は、いつしか顔から笑みが消えていた。
「夕凪先生、聞いてくれる?
俺の長ぁーい片思い」
私は、返事もできずに、ただ、こくんと頷いた。
「俺、この学校に来る前は、秋川中学にいたんだ」
「えっ?」
それって、私が教育実習に行った?
「そこにね、とても熱心で一生懸命な教育実習生が来てね。
すごくかわいくて、気づいたら、いつも目で追ってた。
だけど、その子には大好きな彼氏がいてね。
時々、学校まで迎えに来てたんだ。
だから、俺は何も言わず、諦めた。
まぁ、言ったら、パワハラとかセクハラとか言われかねないしね」
武先生の6年前からの片思いって、本当に私だったの?
「ところが、去年、この学校に赴任して来たら、その彼女が相変わらずの一生懸命さで働いてた。
俺は、彼女にもう一度恋をしたんだ。
いい年してって思うかもしれないけど、好きだからこそ、なかなか想いを伝えられなくて…
でも、今年は、同じ学年の担任になったし、彼氏もいなさそうだし、頑張ってみようと思ったんだけど、やっぱり、自信がないから、ついつい冗談でごまかせるような逃げ道を作ってたのかもしれない。
でも、本気なんだ。
夕凪先生、君の気持ちが俺にない事はよく分かってる。
それでも、君を諦めたくない。
俺と付き合ってくれないか?
絶対に大切にするし、幸せにしてみせる」
武先生は、いつになく真剣な口調で言って、真っ直ぐ私の目を見つめる。
私は、目を逸らしたいのに逸らせなくて落ち着かない。
「夕凪先生も分かってるとは思うけど、人の口に戸は立てられないよ。
保護者との結婚は、教員を続けるなら、誰に聞いても反対されると思う。
もちろん、ADHDの子を養育するのも並大抵の苦労じゃないのは分かってるよね?
俺なら、そんな苦労は絶対にさせない。
だから夕凪先生、俺と付き合おう。
絶対に夕凪先生の気持ちを俺に向かせてみせるから」
いつもの冗談めかした所は、少しもなくて、武先生が本気なのは、痛いほど伝わってきた。
「あの…
ありがとうございます。
私なんかの事を、そんな風に思っていただいて。
でも、私、武先生が好きだからこそ、そんな条件で選ぶような事はしたくないんです。
武先生の事は、人として、教員として、尊敬してますし、大好きです。
でも、それ以上には思えないんです。
ごめんなさい」
私は、武先生に頭を下げた。
なのに…
「俺は諦めませんよ。
夕凪先生は、春まで瀬崎さんには返事をしないつもりなんでしょ?
だったら、あと3ヶ月、俺にもチャンスはある。
3ヶ月の間に、夕凪先生を振り向かせます。
もう、冗談でごまかしませんから、覚悟しておいてくださいね」
ええ〜!?
覚悟って、どうすればいいの?
「とりあえず、料理教室は終了してください。
俺が校長に告げ口しなくても、瀬崎さんの車は目立ちますから、他の保護者の目に留まって、変な醜聞を流されないとも限りません。
それで瀬崎さんや夕凪先生が傷つくのは自業自得ですが、瀬崎嘉人が傷つくのは可哀想です。
そう思いませんか?」
「……はい」
武先生の言う事は、的を射ていて、反論のしようがなかった。
「それから、俺とはこれまで通りに。
仕事に悪影響が出るのは、子供たちのためになりませんから、避けたり逃げたりしないで、極力、普通にね」
「はい」
武先生の言う事は、いちいちもっともで、肯定以外の選択肢がない。
「はぁ…
それにしても、瀬崎さんがライバルかぁ。
厳しいなぁ。
俺がいつまでも様子を伺ってないで、去年のうちに動いてたら、結果は変わってた?」
瀬崎さんと出会う前って事?
そしたら…
「結果は分かりませんが、もし武先生が本気だと分かってたら、とりあえず、お付き合いはしたかもしれません。
だって、私、武先生の事、ずっとかっこいいと思ってましたから」
「くくっ
それは、ありがとう。
でも、それでも、今は俺じゃダメなんだよね?」
「……はい。すみません」
「俺となら、今すぐにでもみんなから祝福してもらえるのに」
「……そうですよね」
「ま、俺も、そういう融通が効かなくて真っ直ぐな夕凪先生が好きなんだから、しょうがないけどね」
どうしよう。
武先生の視線が色っぽくて、ドキドキする。
断ってるのに、なんでこんなに惑わせられるの?
もともと武先生の事は、嫌いじゃないんだもん。
そんな風に言われると、ついふらっと行きそうになるよ。
結局、武先生とは、2時間程、お酒を飲みながら、軽く食事をして別れた。
こんな話をしてるのに、武先生は変わらずに穏やかな笑みを浮かべてる。
「瀬崎さんは、とても真剣に仰ってたから、冗談だとは思えなくて… 」
「そう。
俺は、仕事が一緒だから、後の事を考えると、あまり追い詰めるような事は出来なくて、つい冗談とも本気ともつかない態度を取ってたのかもしれないな。
もっと、真剣に伝えればよかった」
そう言う武先生は、いつしか顔から笑みが消えていた。
「夕凪先生、聞いてくれる?
俺の長ぁーい片思い」
私は、返事もできずに、ただ、こくんと頷いた。
「俺、この学校に来る前は、秋川中学にいたんだ」
「えっ?」
それって、私が教育実習に行った?
「そこにね、とても熱心で一生懸命な教育実習生が来てね。
すごくかわいくて、気づいたら、いつも目で追ってた。
だけど、その子には大好きな彼氏がいてね。
時々、学校まで迎えに来てたんだ。
だから、俺は何も言わず、諦めた。
まぁ、言ったら、パワハラとかセクハラとか言われかねないしね」
武先生の6年前からの片思いって、本当に私だったの?
「ところが、去年、この学校に赴任して来たら、その彼女が相変わらずの一生懸命さで働いてた。
俺は、彼女にもう一度恋をしたんだ。
いい年してって思うかもしれないけど、好きだからこそ、なかなか想いを伝えられなくて…
でも、今年は、同じ学年の担任になったし、彼氏もいなさそうだし、頑張ってみようと思ったんだけど、やっぱり、自信がないから、ついつい冗談でごまかせるような逃げ道を作ってたのかもしれない。
でも、本気なんだ。
夕凪先生、君の気持ちが俺にない事はよく分かってる。
それでも、君を諦めたくない。
俺と付き合ってくれないか?
絶対に大切にするし、幸せにしてみせる」
武先生は、いつになく真剣な口調で言って、真っ直ぐ私の目を見つめる。
私は、目を逸らしたいのに逸らせなくて落ち着かない。
「夕凪先生も分かってるとは思うけど、人の口に戸は立てられないよ。
保護者との結婚は、教員を続けるなら、誰に聞いても反対されると思う。
もちろん、ADHDの子を養育するのも並大抵の苦労じゃないのは分かってるよね?
俺なら、そんな苦労は絶対にさせない。
だから夕凪先生、俺と付き合おう。
絶対に夕凪先生の気持ちを俺に向かせてみせるから」
いつもの冗談めかした所は、少しもなくて、武先生が本気なのは、痛いほど伝わってきた。
「あの…
ありがとうございます。
私なんかの事を、そんな風に思っていただいて。
でも、私、武先生が好きだからこそ、そんな条件で選ぶような事はしたくないんです。
武先生の事は、人として、教員として、尊敬してますし、大好きです。
でも、それ以上には思えないんです。
ごめんなさい」
私は、武先生に頭を下げた。
なのに…
「俺は諦めませんよ。
夕凪先生は、春まで瀬崎さんには返事をしないつもりなんでしょ?
だったら、あと3ヶ月、俺にもチャンスはある。
3ヶ月の間に、夕凪先生を振り向かせます。
もう、冗談でごまかしませんから、覚悟しておいてくださいね」
ええ〜!?
覚悟って、どうすればいいの?
「とりあえず、料理教室は終了してください。
俺が校長に告げ口しなくても、瀬崎さんの車は目立ちますから、他の保護者の目に留まって、変な醜聞を流されないとも限りません。
それで瀬崎さんや夕凪先生が傷つくのは自業自得ですが、瀬崎嘉人が傷つくのは可哀想です。
そう思いませんか?」
「……はい」
武先生の言う事は、的を射ていて、反論のしようがなかった。
「それから、俺とはこれまで通りに。
仕事に悪影響が出るのは、子供たちのためになりませんから、避けたり逃げたりしないで、極力、普通にね」
「はい」
武先生の言う事は、いちいちもっともで、肯定以外の選択肢がない。
「はぁ…
それにしても、瀬崎さんがライバルかぁ。
厳しいなぁ。
俺がいつまでも様子を伺ってないで、去年のうちに動いてたら、結果は変わってた?」
瀬崎さんと出会う前って事?
そしたら…
「結果は分かりませんが、もし武先生が本気だと分かってたら、とりあえず、お付き合いはしたかもしれません。
だって、私、武先生の事、ずっとかっこいいと思ってましたから」
「くくっ
それは、ありがとう。
でも、それでも、今は俺じゃダメなんだよね?」
「……はい。すみません」
「俺となら、今すぐにでもみんなから祝福してもらえるのに」
「……そうですよね」
「ま、俺も、そういう融通が効かなくて真っ直ぐな夕凪先生が好きなんだから、しょうがないけどね」
どうしよう。
武先生の視線が色っぽくて、ドキドキする。
断ってるのに、なんでこんなに惑わせられるの?
もともと武先生の事は、嫌いじゃないんだもん。
そんな風に言われると、ついふらっと行きそうになるよ。
結局、武先生とは、2時間程、お酒を飲みながら、軽く食事をして別れた。
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