家庭訪問は恋のはじまり【完】

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第22話 武先生の片思い

「鈍くありませんよ。
 武先生、私の事なんて知らないじゃありませんか」

私がふくれると、坪井先生の矛先が武先生に向く。

「神山先生より、木村先生でしょ?
 いいお相手いないの?」

「残念な事に… 」

「ええ!?
 木村先生、かっこいいのに。
 好きな人はいないんですか?」

と森先生。

「いますよ。
 でも、いくら口説いてもなびいてくれないんですよ」

「ええ!?
 武先生でもそんな事、あるんですか?」

びっくり。
武先生なら、選り取り見取りだと思ってたのに。

「どんな人なんですか?」

森先生は興味深々。

「どんなって、そうですねぇ。
 一生懸命でかわいくて、でも、ちょっと鈍い人ですね」

「へぇ。
 木村先生のそういう話、初めて聞きました。
 ずっと浮いた話なんてなかったでしょ?」

と坪井先生。

「ずっと片思いしてますから、噂になりようがありませんよ」

武先生は、飄々と答える。

「そうなんですか?
 いつから、思ってるんです?」

と森先生は、机に身を乗り出して聞く。

「んー、僕がまだ30歳の頃からですよ」

「え!?  武先生、今、おいくつですか?」

「先週、37になりました」

え!?

「武先生、お誕生日だったんですか?」

「はい」

「言ってくださいよ〜
 そしたら、お祝いくらいしたのに」

私が言うと、

「もうめでたい歳でもありませんから。
 でも、夕凪先生が祝ってくれるなら、明日でも大歓迎ですよ?」

とまたふざける。

「休日に私に祝われても嬉しくないでしょ?
 その好きな方は誘わないんですか?」

「誘ってるのに、気付いてもらえないんですよ」

「どういう事です?」

森先生はさっきから目が輝いてる。

恋バナが1番楽しい年頃だもんね。

「僕が勇気を出して誘っても、いつも冗談だと思われて本気にしてもらえないんですよ」

「ええ!!
 かわいそう。
 なんでなんですか?」

「それは、僕が聞きたいです。
 超鈍いだけかもしれませんけど」

木村先生でも、想いが通じなくて切ない思いをする事があるんだ。

モテモテで、女に困らない人生だと思ってたのに。

「それって、同業者?
 なんなら、お世話しましょうか?」

と坪井先生のお世話好きの血が騒ぎ始める。

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。
 嫌われてはいないと思いますから、気長にいきますよ」

「デートには誘ったんですか?」

と坪井先生は迫る。

「誘ってますが、デートだと思われてないんです。
 きっとただの飲み会とか食事会だと思ってますね」

「ええ!?
 武先生に誘われてるのに?
 ほんとに鈍いんですね、その人」

と私が言うと、武先生は笑い始めた。

「くくっ
 そうなんです。超鈍いんですよ。
 でも、そこもかわいいんですけどね」

と惚気る。

「やだ。木村先生、ベタ惚れですね」

と森先生が冷やかす。

「そりゃ、いい大人が、伊達に6年以上、片思いしてませんから」

「それは余程、素敵な方なんでしょうね」

と坪井先生。

「はい、とても」

武先生にそんな風に思ってもらえるなんて、幸せな人だなぁ。


そのあとは、森先生の彼氏の話や、坪井先生の馴れ初めなどを楽しく聞きながら、過ごした。


そうして、9時過ぎ、坪井先生のご主人が迎えにいらして、坪井先生が帰り、その後、森先生はお母さんじゃなくて、彼氏が迎えに来た。

どうも行きはお母さんで帰りは彼氏にお願いしてたらしい。

今から、彼氏とデート。いいなぁ。

そんな森先生を見送って、私は代行を呼んだ武先生に送ってもらう。

今日は、楽しくて少し飲み過ぎたみたい。

ちょっと、足元がふらつく。

それにすぐに気付いた武先生が、肩を抱いて支えてくれた。

「すみません。
 大丈夫ですから」

私はやんわりと武先生を断って自分で歩こうとするけど、まるでケーキの上を歩いているように、地面がふわふわする。

「心配ですから、これくらいさせてください」

武先生は、しっかりと私の肩を抱いた。

申し訳ない。

武先生には、ちゃんと想う人がいるのに。

私たちは、後部座席に乗り込んで、私のアパートに向かう。

武先生は、車を降りて、私の部屋まで連れてきてくれた。

「本当にありがとうございました」

私が玄関でお礼を言うと、

「じゃあ、お礼に、明日付き合ってください」

と言われた。

ん?  どういう事?

「俺の誕生日デートです。
 いいですよね?」

は!?  武先生、好きな人は?

「あの、そういうのは、好きな人を誘った方がいいと思いますよ。
 私なんかとじゃ、行く意味がないでしょ?」

私は酔った頭で一生懸命、答える。

「だから、好きな人を誘ってます。
 いい加減、そろそろ、気付いて欲しいんですが」

武先生は、私の肩を抱いたまま言う。

「またまたぁ。
 武先生、私をおもちゃにして遊ぶのは、やめてくださいよ」

笑いながら、私はバッグの中の鍵を探す。

武先生は、その手をやんわりと抑えて、バッグを覗き込んで俯いている私の額にキスを落とした。

え!?

驚いた私が顔を上げると、そこには優しく微笑む武先生がいた。

「俺はずっと本気ですよ。
 夕凪先生が好きです。
 明日、10時に迎えに来ます」

武先生は、そう言い残して、車へと戻っていった。


どういう事?


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