【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(56)

「この絵を見た瞬間、すぐに気がついた。あ、俺の好きなあの人だって。
その時はまさか付き合ってるとは思わなかったけど、好きなのかなとは思った。
だから藤岡が来るの待って、思い切って聞いてみた。
そしたら、まさかの付き合ってるって返事が来たもんだから、驚いたよ。」
少し笑いながら話している先生だけど、もし自分がそうだったら、私はどうなっていたんだろうと置き換えてしまう。
小川先生を想っている最中に、柚木と先生が付き合っていると知ったら。
私はその2人の恋を、応援できるだろうか。
私はそれで先生のことを、諦められるのだろうか。
「俺は反対した。うまく行くわけない、バレたら終わりだって。
まぁ、そう口では言ったけど実際はそんなことやり、俺の生きる希望だった人がいなくなった虚無感っていうか、苛立ち?でね、俺の先生を返せって気持ちだった。もともと俺の人でも無いのにね。
だから本当に最低だけど、藤岡と先生が別れれば良いと思った。それから俺は、藤岡を避けるようになった」
先生は自分が悪いと、すごく自分を責めている。
でも、誰だってそうなる。
そんな、すぐに諦めて次に行けるような気持ちは好きではないもん。
「誰だってそうなります。それが、好きってことですもん。」
「ありがとう。でもね、俺がそうやって願ってしまったことが、現実になっちゃったんだよ」
その言葉に、よく無い未来が私の頭の中に浮かんだ。もうどうにもならないのに、無意識にそうならないでくれと、心の中で願ってしまう。
「放課後、忘れ物取りに教室に戻ったらそこに藤岡がいてさ。
久々にあいつの顔見て、俺は何を思ったのか、その関係いつまで続ける気だって言ったんだ。
多分この時話聞いてて、その先生か藤岡のこと好きな人が学校中の噂に流したんだと思う。
気づいた時にはもう遅くて、隠すとか弁解とかそういうレベルじゃなくて。
教育委員会とかそういう話にまで発展しちゃって。
先生も藤岡も、他人の目を気にしてすごく辛そうにしてた。
結局、先生は教員免許剥奪されて学校を辞めさそられた。
藤岡は厳重注意で終わったんだけど、もう生きたまま死んでるって感じになっちゃって、そのまま不登校になった。」
私が思っていた以上に残酷な結末だった。
そして思わず、涙が流れた。
「タイミング的にも、俺が藤岡にした話が原因だったから、きっと2人とも俺のことを恨んでる。
そう考えたら、俺はあいつになんの言葉もかけられなかった。
確かにそうなれと願ってしまったけど、本当にそうなって欲しいとはこれっぽっちも思ってはなかった。
俺はただ、自分を責めることしかできなかった。
だから、自分は幸せになれない。
人を不幸にした人間は、幸せになんてなっちゃいけない。夢なんて、見てはいけない。
それからは俺も何も手につかなくなって、受験も小説も全部やめた。
もともと目指した理由も理由だったから、それが無くなって目指す意味も無くなった。
それから俺は、落ちるとこまで、落ちた。」
だから先生は、私はあんなに強く振り払ったんだ。
だから先生は、私に教師になって欲しくなかったんだ。
同じ道を辿らせまいと、必死に考えてくれていたんだ。
「ごめんなさい、そんなこと知らなくて私は先生に」 
「謝ることじゃ無い。逆に、ありがとうって言いたいから」
私は何もしてない。迷惑しかかけてない。 
「結局俺は受験になんて集中できず浪人して、藤岡は出席日数が足りずに卒業できなかった。
だけど卒業式の日に、藤岡が俺んとこに走って来たんだ。それでね、」
「あれはケイちゃんのせいじゃ無いよ。
先生のこと好きだった他のやつに先生と俺がいるところ見られたんだ。それが原因だから、ケイちゃんは気にせず夢を追って。俺も、遅れて追いかけるから」
「藤岡は笑顔で俺にそう言った。それが、俺にとっては救いになった。
だからその後の時間は、藤岡が戻ってこれるまで支えるって決めた。」
「前に言ってた、小説家にはなれなかったって」
「そう。多分この前、なれなかったって言ったと思うんだけど、あれは少し嘘ついた。
教師に流れ着いたっていう表現も違うか。
正確には、夢が変わったから。
正しい道に導く、希望を与えられる人になりたい。
だから俺は、教師を目指した。初めて自分で道を決めた。
まぁ結局、目指し始めが遅すぎて同学年とは2年遅れを取ったけどね。」
きっと沢山、辛い想いをした。胸が、苦しい。
先生の顔も、苦しそうに見える。
もう、そんな思いさせたく無い。私が、守ってあげたい。
そう思った私は、そのまま一直線に先生のもとに駆け寄り、先生の頭をギュッと抱きしめた。
「これからは、私が先生を守りますから。私が先生を信じますから。私が先生の夢を叶えますから。」
その瞬間、先生の身体が小刻みに震え始めたのが分かる。
そして私も、先生と一緒に涙をそっと流した。



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