【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。
月が綺麗ですね。(55)
「俺が高校生の時、たまたま帰りの電車が一緒になって、俺たち仲良くなったんだよね。
別にクラスも部活も違って共通点って言ったら、学校が嫌いってことしかなかったんだけど。
なんかたまたま話して、たまたま仲良くなって。
それでいつからか、藤岡の父さんが、絵をやって時に使ってたこのアトリエで遊ぶようになったんだよね。
2人して、学校サボってさ。
先生達から初めは怒られてたんだけど、途中からもう呆れられて全く怒られなくなったな。」
そして先生は少し笑い、少し椅子の座る位置を整えた。
「そんな問題児で見捨てられかけてた俺達だったけどね、1人だけいたんだ。
ずっと、話を聞いてくれる女の先生が。やる気も、特技もない。
誰からも期待もされなくて学校にも行かない俺のことをね、信じて、真っ直ぐに向き合ってくれた人が。」
そういう先生の顔は、なんだか本当に少年に見えて。
先生の周りの空間だけが、昔にタイムスリップしたように感じた。
「まぁはっきり言っちゃえば、俺その先生のこと好きになったんだ。
で、その先生が本が好きだったから、俺は小説家になりたいって思った。
馬鹿みたいに単純だけどさ、好きな人の好きなものを作る人になりたくて。
そうすれば、先生に少しでも近づける、興味を持ってもらえると思ったから。」
前に先生が言っていた。
“好きな人が本が好きだったから。”
それが、国語科教師になった理由だからと。
その先生の言っていた好きな人が、先生にとっての先生だったんだ。
好きな人の好きなものを好きになる。
そして少しでも近づきたい。
その気持ちが、私には痛いほどわかる。
私も、そう考えていたから。
「俺が初めて先生に小説になりたいって言った時、それが俺の、初めて人に想いを伝えた時になるかな。
今思えば何考えてんだって思うけど、あの時の俺はすごい期待してたんだ。
もし断られたとしても、卒業してからとか、そんなこと言われるんじゃないかって考えて。
だけど、全然そんなことにはならなくて。
普通に無理だった。迷ってすらくれなかったな」
分かってても期待をしてしまう。普通なら無理なことでも、自分は違うかもしれない。
そんな風に、恋は盲目になってしまうものなんだ。
「こうなることちょっと考えれば分かったんだから、今までの関係を続けるためにも告白なんてしなきゃよかった。俺はそう、めちゃめちゃ後悔した。
そう思いながら、何となくここに1人で座って。
そろそろ藤岡も来るし、帰ろうかなって思った時、伏せて置いてあった絵を1枚落っことしちゃって。
拾って元に戻そうと思った時、なんでか知らないけどたまたまひっくり返してその絵を見たんだ。
そん時、初めて知った。」
そして先生は席を立ち、部屋の奥の壁に裏返して立てかけてある、一枚の絵を覗き込んだ。
「まだここにあった。これがね俺があることに気がついたきっかけの絵。」
そう言って見せられたその絵に描いてあったのは、文化祭前日のあの日、藤岡が久々に描いたと言っていた女の子に似ている少女が描かれていた。
あの日私が失敗し藤岡が笑顔に描き直した少女に、とても似ていた。
「この女の人」
「そう。学校のアトリエで見た、あの絵の人と似てるでしょ。これが、俺が好きだった先生」
先生が好きだった先生を藤岡先生が描いていた。
その人を、今もなお描いている。
まさか、藤岡先生は...
「藤岡先生は、その先生のことが...」
「そう、藤岡は先生のことが好きだった。
そして、その先生も藤岡のことが好きだった。」
「え?」
思ってもいなかった関係に、思わず声が漏れた。お互いがお互いに好き。
でもその2人は教師と生徒。
「それは、」
「付き合ってたんだよ、2人。多分、俺が想うよりずっと前から。」
そして先生は、その絵を表向きに直して壁に立てかけた。
そしてもう一度、私の前の椅子に戻ってゆっくりと腰を掛ける。
別にクラスも部活も違って共通点って言ったら、学校が嫌いってことしかなかったんだけど。
なんかたまたま話して、たまたま仲良くなって。
それでいつからか、藤岡の父さんが、絵をやって時に使ってたこのアトリエで遊ぶようになったんだよね。
2人して、学校サボってさ。
先生達から初めは怒られてたんだけど、途中からもう呆れられて全く怒られなくなったな。」
そして先生は少し笑い、少し椅子の座る位置を整えた。
「そんな問題児で見捨てられかけてた俺達だったけどね、1人だけいたんだ。
ずっと、話を聞いてくれる女の先生が。やる気も、特技もない。
誰からも期待もされなくて学校にも行かない俺のことをね、信じて、真っ直ぐに向き合ってくれた人が。」
そういう先生の顔は、なんだか本当に少年に見えて。
先生の周りの空間だけが、昔にタイムスリップしたように感じた。
「まぁはっきり言っちゃえば、俺その先生のこと好きになったんだ。
で、その先生が本が好きだったから、俺は小説家になりたいって思った。
馬鹿みたいに単純だけどさ、好きな人の好きなものを作る人になりたくて。
そうすれば、先生に少しでも近づける、興味を持ってもらえると思ったから。」
前に先生が言っていた。
“好きな人が本が好きだったから。”
それが、国語科教師になった理由だからと。
その先生の言っていた好きな人が、先生にとっての先生だったんだ。
好きな人の好きなものを好きになる。
そして少しでも近づきたい。
その気持ちが、私には痛いほどわかる。
私も、そう考えていたから。
「俺が初めて先生に小説になりたいって言った時、それが俺の、初めて人に想いを伝えた時になるかな。
今思えば何考えてんだって思うけど、あの時の俺はすごい期待してたんだ。
もし断られたとしても、卒業してからとか、そんなこと言われるんじゃないかって考えて。
だけど、全然そんなことにはならなくて。
普通に無理だった。迷ってすらくれなかったな」
分かってても期待をしてしまう。普通なら無理なことでも、自分は違うかもしれない。
そんな風に、恋は盲目になってしまうものなんだ。
「こうなることちょっと考えれば分かったんだから、今までの関係を続けるためにも告白なんてしなきゃよかった。俺はそう、めちゃめちゃ後悔した。
そう思いながら、何となくここに1人で座って。
そろそろ藤岡も来るし、帰ろうかなって思った時、伏せて置いてあった絵を1枚落っことしちゃって。
拾って元に戻そうと思った時、なんでか知らないけどたまたまひっくり返してその絵を見たんだ。
そん時、初めて知った。」
そして先生は席を立ち、部屋の奥の壁に裏返して立てかけてある、一枚の絵を覗き込んだ。
「まだここにあった。これがね俺があることに気がついたきっかけの絵。」
そう言って見せられたその絵に描いてあったのは、文化祭前日のあの日、藤岡が久々に描いたと言っていた女の子に似ている少女が描かれていた。
あの日私が失敗し藤岡が笑顔に描き直した少女に、とても似ていた。
「この女の人」
「そう。学校のアトリエで見た、あの絵の人と似てるでしょ。これが、俺が好きだった先生」
先生が好きだった先生を藤岡先生が描いていた。
その人を、今もなお描いている。
まさか、藤岡先生は...
「藤岡先生は、その先生のことが...」
「そう、藤岡は先生のことが好きだった。
そして、その先生も藤岡のことが好きだった。」
「え?」
思ってもいなかった関係に、思わず声が漏れた。お互いがお互いに好き。
でもその2人は教師と生徒。
「それは、」
「付き合ってたんだよ、2人。多分、俺が想うよりずっと前から。」
そして先生は、その絵を表向きに直して壁に立てかけた。
そしてもう一度、私の前の椅子に戻ってゆっくりと腰を掛ける。
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