【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(51) 特別授業


「先生、遅くなってごめんさい」
「すごい息あがってる。走った?」
「もちろんです。だって、少しでも早く先生に会いたかったですもん。」
そして先生は、可愛いこと言うねぇと言いながら少しハニカムんだ。
「じゃあ、授業を始めようかな」
その言葉を合図に、あの時のような特別授業が始まった。
「ではこれから、いくつか質問をします。はいかいいえで、答えて下さい。良いですか?」
「はい」
「じゃあ初めに、あなたな、菊池華さんですか?」
「はい」
「今屋上までは、走ってきましたか?」
「はい」
「その屋上は、あなたにとって思い出の場所ですか?」
少し心臓が、ドキッとした。
「はい」
「それはあなたにとって、良い思い出ですか?」
良い思い出かどうか、これはすぐに答えを言えなかった。だって、辛い思いを、悲しい言葉を、沢山経験したから。でも、それが悪い思い出ではない。これも大切な、先生との思い出だから。
「______はい」
「俺にとってここは、後悔の場所です」
突然の先生の告白に、また心臓がドキッとした。
「先生...」
「あの時、何であんな言葉を言ったのか。そればかり考えます。傷つけて、ごめん」
先生が私にかけた言葉に、私は何度も涙を流した。でもきっと、先生は大人としてそうした。
私のためを思って、そうしたんだ。
「あの時俺は、菊池の人生に自分がいるのは良くないことだと思っていた。だから、国語科教師になったと知って、正直驚いた。もうとっくに、忘れていると思ってたから」
「そんなこと「 
喋ろうとする私に向かって、先生は左手の人差し指を唇に当てて、シーと小さな声で言った。
まるでその姿は、あの学生時代に見ていた姿と、あの時の輝きと同じように、私の目には映った。
「はいかいいえだけで答えて下さい。いいですか?」
「...はい」
そして先生は、またさっきの話の続きを始めた。
「本当に教師になって、後悔はしてませんか?」
きっと先生は、私が選んだ道が本当に私にとって幸せな道だったのかを聞きたいんだと思った。きっと先生は、まだ責任を感じている。
「はい」
私の自信に溢れた返事を聞き、先生は少し口角を上げた。少しだけ、安心したように見えた。
「そしたら、少しだけ俺の話しても良いですか?」
「はい」
そして先生は、少し笑って私にこう話を始めた。
「高校生の時から、こうやってまっすぐ俺を見てくれるその瞳を見て、気にならなかったって言ったら嘘になる。
でも、やっぱり許されることじゃないから。
教師と生徒は上手くいかないとか、そいうこと以前これはお互いを潰し合う行為なんだって思い込んじゃってたから。
だから今思えば、俺は自分の気持ちに蓋をしてた。
これ以上いかないように制御したんだと思う。」
お互いを潰し合う行為。きっと昔、先生は何か辛いことを経験したんだ。
だから、私に同じ経験をさせないようにと思ったんだ。
「俺は誰にでも特別授業をしたりはしない。菊池だから、やったんだよ。」
すると先生は、ゆっくりとゆっくりと私との間の距離を詰めた。どんどん、先生が近くなった。
「教師になって再会して、ちょっと見ない間に信じられないくらい綺麗になってるし。
お互いの関係に制限がなくなったから、別に問題もないのに。でも、やっぱり不安になったんだ。
もしも俺といて菊池が傷つくようなことになったらって考えたら、すごく申し訳なくなった。
だから、こんな歳の離れたおじさんよりも、もっと良い人がいるよ。
そう、思ったから、今度こそ本当に身を引こうと思った。」
先生はそう言うけど、さっき栗原さんが邪魔するなって言ったと言っていた。
きっとそれもあったから、先生は身を引いたんだ。
「多分、栗原から聞いてるんでしょ?何言ったとかどうだとか」
「はい」
「ちなみにだけど、手加減とかそんな話、も聞いた?」
「はいっ」
少し恥ずかしそうな顔をしてる先生。思わず、少し照れ笑いをしながら私は返事をした。
すると先生は、マジかよあいつと頭をきながら照れ隠しをしていた。
そんな先生も、可愛い。
「笑うなよ!」
そんな風に焦るところも、素敵だ。ますます笑顔になる私を見て、ふざけんなと言いながら先生は、私の両頬に両手で挟み、自分の方に無理やり向けた。
じっと顔を見つめられる。
その恥ずかしさに、顔が熱くなる。

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