【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(50)

先生がいなくなり、栗原さんと2人きりになる。
外で生徒達が騒がしく動き回っているのは対照的な静かな時間が私たちの間に流れる。
しかし、私の中はドキドキで何も考えられなかった。
頭が、ちゃんと回らなかった。
「ごめん。お昼の時に華ちゃんのデスクに置いてあった。これ、俺が見つけてわざと隠した。」
そう言いながら、栗原さんはポケットから1枚の紙を取り出し、私に渡した。
受け取ったその紙切れを開き、私は急いで中に書いてある文字を確認した。
“特別授業をします。18:00〜 場所は屋上にて”
それは紛れもなく、先生の文字だった。
「これ、なんで」
「本当ごめん。小川先生に変なこと言ったのも、俺なんだ。」
「どういう、ことですか」
「正直、めちゃめちゃ腹立ってた。華ちゃんの気持ち弄ぶように優しくしだけして、責任は取らないで、ふざけんなって。
俺はこんなに華ちゃんを思ってるのに、大切にしようとしてるのに、ふざけるなって。」
そして栗原さんは、横に並んでいた私の前に立ち、真っ直ぐ顔が見える位置に立ち直した。
「小川先生、急に冷たくなったでしょ。
あれ、華ちゃんのこと大切にする気ないなら離れて下さいって俺が言ったの。
というか、ここまで中途半端にしといて、小川先生に華ちゃんを幸せにする資格はない。俺の邪魔、しないで下さいって。」
そう話す栗原さんの目に、少し涙が溜まっているのが見えた。
その涙に嘘は感じられなく、とても綺麗なものだった。
「本当に、隠しててごめんね。ずるかったよ、俺は。
何としても俺が守るって思ってたのに、俺のしてることが1番華ちゃんを苦しめてた。
毎日空元気で辛い顔を隠してる2人を見て、何やってんだって、気づいた。」
栗原さんこそ、何もないかのようにいつも元気で私に声をかけてくれた。
いつも、私に寄り添ってくれた。
小川先生に言った言葉だって、きっと私を1番に考えてくれたからこそだったんだ。
「もともと今日、華ちゃんに謝ろうと思ってたんだ。でもその前に、最後の悪あがき。
そう思って、ちょっと小川先生に意地悪してみたら、もう手加減はしないなんて言われたよ」
栗原さんはそう言いながら、私に笑顔を見せた。
でもその目には、どんどん涙が溜まっていくのが見えた。きっとそれを隠すために、わざと笑っているように見えた。
「栗原さん「
「待って」
そして栗原さんは、私の両肩を持ちくるっと反対向きにひっくり返した。
「振り返らないでよ。追いかけたくなるから。」
するとその時、ちょうど空からドンッという大きな音が聞こえ、その少し後に夜空には大きく輝綺麗なく花が咲いていた。
「好きにならせてくれて、ありがとう。ほら、行っといで!」
栗原さんは、私の背中を優しく押し出した。
私は自然と一歩前にポンと押し出される。
「ほら、早くいきな。花火、始まったから。」
きっと、栗原さんは泣いている。それは、声だけでも十分伝わってきた。
「栗原さん、私も最後に良いですか」
「ダメだよ。振り返るのは無しだから」
分かってる。今振り返るのは、すごく失礼だし無責任になる。だから私は、両手を後ろに伸ばし、栗原さんの手を探して掴んだ。
「本当に、ありがとうございました」
その私の言葉に、栗原さんは笑った。早くいきなと、もう一度私の背中を押して。
そして私は、無我夢中で走った。先生のいる屋上へと、必死で走った。だって先生に早く会いたいから。やっぱりその答えを、教えて欲しいから。
苦しくっても、息が出来なくても良い。
早く、1秒でも早く先生に会いたい。
そんな気持ちで、私は屋上の扉を勢いよく開けた。
「先生!」
私の大きな声に、出入り口に背を向けて腕を組んでいた先生がゆっくりと振り返る。
そんな先生の元へ、私は息を整えることもせずにそのまま走った。


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