【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(46)

「思いっきり、絵の具を飛ばしちゃって」
もう何も考えない。私の魂を込めて、思いっきり用紙に向かって筆を振った。
出来上がった絵を、恐る恐る確認する。これは、まさか...
「おー」
「ええ、どうしようごめんなさい」
1番最悪な感じになった。 
絵具が飛び散るどころか、一つの場所にぼてっと待って着いてしまった。
そこには女の子の絵が書いてあったのに、もう何も見えない。
「ごめんなさい、本当にどうしよう」
「何言ってんの。めっちゃ良いじゃん」
「え?でも女の子が描いてあったのに」
「俺、これ好きだよ」
「藤岡さんー」
その時、部屋の外から小川先生の声が聞こえた。
私と藤岡先生は、その声に驚き一瞬で振り返った。
 「またどうせここでサボってんだろ」
先生は、ノックをせずにそのまま扉を開けた。先生の目に、私と藤岡先生の2人が映る。一瞬、先生も固まったのか分かった。
「あっ、ごめんお取り込み中か」
「平気だよ。何?」
「いや、また後で来るわ」
「いや私が出ますよ!」
あの日から先生はいつもそうだ。私とは業務連絡以外はしない。私がいる場所には、先生は来ない。
そんな先生の避けるような行動に初めはショックを受けていたが、今はもう何ともなくなった。
むしろ、早く吹っ切れそうで嬉しかった。
「いや、それはいいよ」
「ケイちゃん、また30分後くらいに来てくれる?まだ俺菊池ちゃんと話したいことあるから」
「_____分かった。悪かったな」
そう言って、先生は私達の前から消えた。
「ねぇ菊池ちゃん」
「はい?」
「俺の絵、正直初めどう思った?」
「え?」
「本当に気持ち悪いなって、思わなかった?」
「いや、そんな「
「そうよく言われるから。別に良いの。むしろ、それを狙ってるから」
藤岡先生のその言葉を信じ、私はさっき思った正直な気持ちを伝えるために小さく首を縦に振った。
「それが普通だし、世間一般的に求められてるような作品じゃない。」
先生は、さっき私が絵の飛ばしたまだ乾いてない作品を手に取った。
「でも別に、世間がどうとかそんなのどうだって良いじゃん。当人が良いなら、それで良いじゃん。 
俺はずっと、そう思ってる。」 
その絵を見ながら話す藤岡先生は、きっと私に向けて話してくれている。小川先生のことを、言っている。
「俺ね、女の子の絵描けなかったの。ずっと、もう20年近く」
「でも、この絵には」
そう。私が最後に絵の具を付けたところ。そこには1人の女の子が描かれていたはず。
「そう。20年ぶりに描いた。」
そんな大切な絵だったんだ。なのに私は、それを台無しにしてしまった。
「なのにごめんなさい。私がそれをこんなにしまって」
「それで良いの。菊池ちゃんのおかげで、書き直せるから。」
「どういう、事ですか?」
内容があまり掴めない。藤岡先生は、誰に向かって話しているの。
「笑ってなかったから、あの子。こっちの方が、綺麗だよね」
そう言って藤岡先生は小さな筆を手に取り、さっきの絵に何か描き足した。
そして、ほらと見せられた絵はさっきとは印象が全く違うように変わっていていく。
「すごい」
「でしょ?綺麗な可愛い月」
私が大きく付けてしまった丸い絵の具の部分に、さっき描かれていたはずの女の子の表情を思わせるような、女性が微笑んでいるように見える月に変わっていた。
「月が、綺麗ですね」
「ん?ありがとう」
そのまま藤岡先生はニコニコと笑いながら、これ展示室に持っていくから手伝ってと言われ、私はこの部屋を後にした。





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