【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(40)

長い長い夏休みが始まってもう2週間が経とうとしている。
あの日から何回か学校に用があって行った時に、先生とすれ違ったりしたが軽く挨拶をするだけで前みたいに笑ったり、目を合わせたりすることはなくなった。
こんなようなこと、昔もあったな。夏休み前に先生に告白しちゃって、それからほとんど話さなくなった。
私の夏休みは、いつも会えない先生のことを考えるだけ。
毎日カレンダーを見ては日にちを数える。今日はちょうど、夏休みの折り返し地点だ。
そのとき、私の携帯が振動していることに気がついた。
あるはずのない期待をしながら、少し目を細めて携帯の画面に視線を移す。
“柚木”
その表示に、少し気持ちが落ち込んだのは事実。
だがすぐに、久しぶりに見る名前に気持ちはすぐにもとに戻った。
『もしもし華??元気にしてる?もうそっちは夏休みでしょ?』
「久しぶり柚木!元気だよ!それに夏休み真っ只中で暇してるところ」
『良かった見つけたー。私ね、ただいま絶賛有給消化中でして、平日に休みの人を探してたわけですよ!』
「そしたら、学校勤めの私が1番に浮かんで電話してみた、というこか」
『その通り!今日会えたりしない??』
「全然良いよ!ランチからディナーまで」
『そういえば、一人暮らし始めたんだよね??』
「うん!そういえば柚木来たことないよね。うち来る?」
『行く行く〜!じゃあ今から、お酒持って向かいます〜』
やけにテンションの高い柚木につられて、私の気持ちも明るくなった。
こうやって周りの人を明るくできる柚木って、素敵だな。
よし、クヨクヨしちゃいられない。柚木が来るなら、少し部屋を片付けなきゃ。
急いで片付けを始め、思っていたよりも自分の部屋が汚れていたことに驚いた。
そして思っていたよりも早く柚木はうちに到着してしまい、一緒に掃除をしてもらった。
ひと段落して、たまには良いよねなんて言いながら2人で昼間っから柚木が持ってきてくれたシャンパンを開ける。そして近況報告をして、柚木の恋愛話を聞いて。
そして話題は、自然と小川先生のこととなった。
『どうなの?先生とは』
LINEでは、熱が出た時に先生が沢山私に優しくしてくれてテンション上がってすぐに報告したりした。
だけど、1学期最後の出来事はまだ話してない。
言葉にして事実にしたくなかったという気持ちも、どこかにあるのかもしれない。
「人生は、そう簡単にはいかないね」
『何その意味深な感じ。何、もうやっちゃったの?』
柚木の言葉に、思わず口に含んでいたアルコールが少し空間にまき散らされた。
ごめんごめんと謝りながら急いで拭き、柚木はニヤニヤしながら一緒に布巾で拭いてくれた。
『で、したの?してないの?』
「出来るわけないしそんなところまで全然行ってません。むしろ逆方向に今進んでます」
思わず勢いで事実を口にしてしまった。なんだな、あの出来事が現実であると自分で自分に叩きつけられた気分。
『逆方向って、どゆこと?』
もうこうなったら仕方がない。私はあの日の事を、全て柚木に話した。 

『そうだったのか。というか先生、思わせぶりな態度すごい取ってたくせに何事?華の勘違いっていうか、先生がいけないように思えるけど私には。』
さっきまでハイテンションだった柚木だが、私の話を聞く時はしっかり真面目な様子に戻っていた。
「さすがにもう、厳しいのかなって。これで実施フラれるの、3回目になるし。」
1度目の屋上。
2度目の本屋さん。
3度目の国語科室。
自分で言って、自分の首がグッと重くなったのを感じた。
『何言ってんの!告白してないのにフラれるわけないでしょ!
それにさ、今回に関しては理由が分からなくない?理由も分からず振られたって、なんかしっくりこなくない?』
「確かに、それはそうだけどさ。結局ダメってことだよ。先生にとって私は、自分のこと好いてくれるちょうどいいおもちゃなのよ。」
少し愚痴をこぼしてしまったのは、少し酔ってきてる証拠かもしれない。
“その答えはもう教えてあるかな”
結局あれは、何だったんだろう。
『何言ってんの。華、それ本気で思ってるの?』
「え?」
柚木の少し強い口調に驚いた。
『先生が、華のこと今まで遊びで接してたって本気で思ってるの?そんな男の人を、華は高1からずっと好きでいるの?』
そんなこと、本当は思ってない。私が好きになった先生は、そんな人じゃない。
「違う。先生は、ずるくてカッコ良くて、真っ直ぐな優しい人。」
『でしょ?じゃあ、先生がこんな事するの、変だよね。』
「うん、変。」
『じゃあこの際、もっかいズバッと事実を聞く!』
柚木の声が、少し大きくなった。
「そうだよね。このまま諦めるなんて、私らしくない。」
『そうだよ。もう何年片想いしてると思ってるの!』
「そう!だって私は先生に」
「『青春捧げて恋をしてるんだから!』」
大事な思いを、忘れかけていた。そう、私はこんなことで負けない。負けていられない。ちゃんと理由を聞かないと、納得なんてできない。
「今すぐ、手帳持ってくる!」
のほほんとなんてしてられない。何度だって、ぶつかってやる。
『よし、じゃあこれから作戦立てるよ!』
柚木の掛け声を合図に、私のモヤモヤしていた気持ちはどんどん晴れていった。あの時のようにただ真っ直ぐに、先生を想う気持ちでいっぱいになっていく。
諦めない。まだ、私は諦めない。


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