【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(34)


「でもね、菊池先生のことよく知ってるけど、2人が思ってるような人じゃないよ」
『え?まさか藤岡先生も騙されちゃってる系?』
『重症!やばいって!』
「やばいのはそっちでしょ。俺、よく知りもしないで悪口言う心の汚い人、好きじゃない」 
初めて聞いた藤岡先生のはっきりとした声。
顔は見えないけど、その声から伝わる。すごく真剣に話してくれてるってことが。
「本当に菊池先生は、38.5℃の熱があったんだよ。なんでそんなになったか分かる?君たち生徒のために、沢山考えて沢山準備して、君達のことを1番に優先したから体を壊しちゃったんだよ。それなのにそんなことも考えないで傷つける言葉ばかり並べて。先生も、傷ついた。」
その言葉を聞き、生徒たちは突然と出来事に固まっているようだった。
そしてしばらくしてどちらかが立ち上がると、もう1人も立ち上がって保健室の扉が開く音がした。
「ここは、君達みたいな人が来る場所じゃない。でも本当に具合が悪くなったら、また来なさい」
その藤岡先生の言葉は、さっきの真剣な感じとは違い、暖かく優しい言葉に聞こえた。
そして最後に、2人の生徒が失礼しましたと小さく言って部屋を出ていく音がした。
すごく、藤岡先生の言葉は嬉しかった。でも、罪悪感が消えたわけではない。結果的に、私は自分だけではなく小川先生のことも藤岡先生のことも傷つけた。自分の知能の低さに、欲望の強さに、悲しくなった。
すると、ゆっくりと藤岡先生と思われる足音が近づいて来る。
私はとっさにベッドに横になり、目を瞑って寝たフリをした。
カーテンが少しだけ開く音がする。きっと藤岡先生が私のことを覗いているのだろう。
そして数秒経つと、もう一度カーテンが閉められて藤岡先生が椅子に座る音がした。
きっと、さっきの話を聞かれていなかったことに安心しているのだろうか。小さく、鼻歌が聞こえた。
その後私は、もう一度眠ることは出来なかった。
自分の無力さと無能さに腹が立った。
目から溢れ出そうになる水滴を、必死に抑えようと目を閉じた。
私は泣いていい立場じゃない。寝たふりして逃げて、ずるい。
そう思っていたくせに、本当に私は最低だ。
意識を取り戻した時、時計の針は15:00を指していた。
その時刻に、私は慌てて飛び起きる。昼休みだけ休憩をしようと思っていたのに、気がつけばあと10分で今日の授業が終わる時刻になっていた。
「すみません、寝過ぎました授業が!」
「お、起きた。大丈夫だよ。小川先生と栗原先生が5限6限それぞれ変わってくれたから。あこれ、ケイちゃんが菊池ちゃんに食べさせろだって。」
そう言ってまた、コンビニの袋が私に渡された。
中身は、あの時と全く同じ。
「ありがとうございます。すみません、ご迷惑おかけして」 
「全然。よく寝れた?」
「はい。お陰で、体が軽くなった気がします」
笑顔でそう答えた。確かに体は軽くなった。でも、心は重い。本当は、藤岡先生に謝りたかったいから。悪い立ち回りをさせてしまってごめんなさいと謝りたいから。でも、その一言がなかなか言い出せない。寝たフリまでしてしまって、今更言いづらいと思ってしまう自分が邪魔をした。
「なら良かった。ケイちゃんが家まで送るって。仕事が終わったら迎えに来るって言ってたから、もうちょっと寝てて大丈夫だよ」
「そんな悪いです。自分で帰りますから」 
「分かってると思うけど、そんな簡単に納得する人じゃないでしょ?だから、諦めて送ってもらって」
パンと肩に手を置かれ、藤岡先生はニコッと笑った。
その瞬間、自分のお腹が保健室中に響き渡るくらい大きな音で鳴ってしまった。
そんな私を見て、藤岡先生は右の口角を上げてふっと馬鹿にしたように笑った。
「ケイちゃんが買ってくれたやつ、食べたら?」
人前でこんなにお腹を鳴らすなんて恥ずかしすぎて私は切った顔を真っ赤にしていただろう。
「すみません、いただきます」
私は照れ隠しのために、ニコッと笑いそう返事をした。


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品