【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(32)6月の魔法

すぐに入学式は終わり、時間はあっという間に過ぎて季節は6月になろうとしていた。
生徒のことや新生活、そしてそろそろテスト制作が始まる。
正直、今あることで心も体も精一杯。先生って、思ったよりも重労働だ。今でもギリギリで生活してきたけど、とにかく1学期終わるまでは頑張らないとと自分に喝を入れる。
私の容量が悪いのか、いつも睡眠時間は3時間程度しか取れない。
小川先生に助けてと言ったらきっと助けてくれるだろう。でも、それはやっぱりしたくなかった。
“1学期を無事終えられたらのご褒美だな”
簡単に助けを求めたら、昔の私と同じだ。先生に教わってばかりじゃダメだから。私は大人だから、自分で解決したいから。私1人で、やり遂げて見せたかった。 
そんな無理が積もっているせいか、最近常に微熱が続くようになっていた。
そしてとうとう、今朝の体温は37.9度。
でも今日も授業があるから学校に行かないわけにはいかない。
家にある解熱剤を探し出し、水と一緒に飲み干した。
よし、今日は金曜日だ。今日頑張れば、土曜と日曜は休めるから。
自分で自分に鞭を入れる。 
薬が効いてきておかけが、学校に着く頃には起きた時よりはるかに体が楽になっていた。
ただ、立ちくらみや倦怠感は消えることがない。いけないいけない。他の先生たちにバレて、心配されては意味がない。
この授業が終わったらお昼なんだなら。
そう思い、私は必死にお昼前最期の授業をやり切った。
終わった時、また熱っぽくなっているに気がつく。
とりあえず、もう一回薬を飲もう。
そう思い、鞄から朝飲んだ薬を取り出して少し多めに飲もうとした。
「お疲れ様でーす」
その瞬間に小川先生が国語科室に戻ってきた。
慌てて持っていた薬をポッケにしまう。
「お疲れ様です」
薬飲むところを見られて、何飲んでるの?なんで聞かれたら今まで頑張った意味がない。
私は気怠い体に力を入れ、隣の国語科準備室に移動した。
誰もいない部屋でとりあえず入り口付近の地べたに座り込む。
はぁ、辛い。でも、新人なのにすぐに風邪で休むなんて出来るわけない。 
とりあえず、お昼休みいっぱい休んでなんとかあと2時間分の授業をやり遂げれば。
「何してんの」
予期せぬ声に、自然と体がビクッと大きく反応した。
そして、声のする方にゆっくりと顔を向けると、そこには私を見下ろす小川先生が立っていた。
「何で」
「何でも何もないだろ。何、熱?」
先生は床にしゃがんでいる私と目線を合わせるように膝を曲げて腰を下ろし、私の握る薬を手に取った。
それを確認し、ゆっくりと顔を上げる。目の前に先生の顔がある。そして、私と先生の目線が重なり合った。先生の吐息が私の鼻に当たる。それくらい、私たちの距離は近い。
こんなの、もっと体温上がってしまう。
「ちょっと触るぞ」
「えっ」
先生は私の体温を確認するために、前髪を右手でずらし私のおでこに左手のひらを当てた。
「全くさ。無理すんなって前から散々言ってんのに」
すると先生が、ポッケからスマホを出してそれを耳に当てた。 
「あ、もしもし?今日午後授業あるっけ。
あ本当?そしたらまたあの子を頼むは。はいよろしく」
そして先生はスマホをポッケへと戻し私の手を掴んで肩に担いだ。
小川先生の顔が、私の真横にある。距離が、今までにないくらい近い。
少しでも近づいたら、触れてしまいそうな距離。
「保健室まで、歩ける?」
「いや、大丈夫です。薬飲むので」
「バカ。無理するなってあれほど言っただろ。強制送還です。」
そして、ヨイショと言って私のことを立たせると、そのまま先生は国語科室から私を連れ出した。
こんな姿、生徒にでも見られたらどう思われるか。
「あの、自分で歩けます。それに、他の生徒に見られたら...」
「あのね、倒れられたら俺の責任だから。文句ばっかり言うなら、昔みたいにお姫様抱っこさせていただきますけど」
高校3年生の私が倒れた時、先生がお姫様抱っこで保健室まで連れて行ってくれた。思い出すだけで恥ずかしくなる。でもあれは、意識がなかったから成立したことだ。
もし今あの時と同じことをやられたら、きっと私は緊張とときめきで気を失ってしまうだろう。 
「このまま俺の肩借りて行くか、お姫様抱っこされるか、どっちが良い?」
そんなの、本当はお姫様だっこだけど、そんなの死んじゃうよ。
「ちなみにこのまま授業するのと1人で保健室まで行くのは選択肢に入ってないから」
先生は意地悪だ。
こんな優しくされたら、こんなに気持ちを見透かされたら、また勘違いをしてしまうよ。
「...お借りします」
「ん?」
「肩を、お借りします」
「ですよね〜」
そして先生は、もう一度私の腕を肩に乗せ直し、私の歩幅に合わせて保健室まで運んでくれた。 
保健室の扉を開けると、そのままベッドに横に連れて行かれ横になるように言われる。
「ほれ、熱測って。そしてまたまた不幸なことに保健室の先生は外に出てしまったらしい。
でもうちにはもう1人ほぼ保健室担当がいるから安心しな」
そう言って、ベッドを囲むカーテンから顔を出したのは、昔を思い出すその人だった。 
「お久しぶり、菊池ちゃん」
「藤岡先生、お久しぶりです」
そこは、気がつけば高校生の時と全く同じシュチュエーションになっていた。



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