【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(31)


「良いですよ、見に行きましょう」
そのお誘いに乗る私も、あの時から何も変わっていない。 
10分くらい歩くと、桜が綺麗に咲いている公園が見えた。
夜桜を観に、サラリーマンの人たちが沢山いてどんちゃん騒ぎしてる。
「ちょっとここ酒臭いし、もうちょっと奥行こうか」
そう言ってもう少し進むと、1つベンチがあった。
そこに先生と並んで座る。
先生の隣は、やっぱり好きだ。
「大学、どうだった?」
不意に来た先生からの質問に少しびっくりしたけど
、何事もなかったかのように取り繕った。
「楽しかったですよ。沢山の文学作品を学びましたし」
「じゃあ、梶井基次郎もやった?」
「やりましたよ!高畑教授が、桜の樹の下には死体が埋まっているんだって、力説して頭に血が上って倒れそうになってました笑」
「まだ高畑教授いるんだ!懐かしいなぁ。俺の時もさの話で倒れそうになってた笑」
先生と同じ時間を共有したわけじゃない。だけど、先生と同じ思い出で笑い合ってる。
何だか少し、近づけた気がして嬉しくなった。
「変わってないんだな。」
先生が何気なく発したこの言葉は、高畑教授に向けられたもの。
だけど私は変わった。沢山変わった。
それを先生に、見て欲しい。
「私は、変わりましたか?」
思い切って口に出した質問。
昔なら、今の質問をするのにきっと3日は考えたと思う。
でも今は違う。だって、自信があるから。
あの頃とは違って毎日メイクもして、髪だって巻いて、香水だってつけてヒールを履いて歩いてる。
お酒だって飲めるようになったし、一人暮らしだって始めた。
先生に近い大人になれるよう、本だって沢山読んだ。
「変わってないね」
先生はいつも、私の期待を裏切る。
この4年間、沢山頑張ってきたのに、先生の言う変わっていないとはどう言う意味なのですか。
「変わりましたよ。もうお酒だって飲めますし、大人です」
「ハハ、それは確かに大人になったな」
「先生こそ、昔と何にも変わってないですよ」
「そう?年取ったよ。」
そう言うと、2人で黙ってただ桜を見つめる。先生はいつも、ずるいことばかりします。 
この綺麗な桜を先生と眺めている夢のような時間をグッと噛み締める。 
「本当はここで、お酒ちょろっと飲めたら幸せだよなぁ」
「買ってきましょうか?」
「いや良いよ。めんどくさいでしょ」
先生と、お酒を飲みたかった。
大人になったところ、見せつけたいから。
「じゃあ今度、飲みに連れて行ってください」
「お、良いよ?確かに就職祝いだしな」
先生からもらった良いよの言葉に、胸が熱くなる。
「多分1学期は初めてでてんやわんやだと思うから、1学期を無事終えられたらのご褒美だな」
ご褒美。先生からのその単語が何度も頭の中で繰り返された。
先生は本当に、昔から変わっていない。
昔と変わらず、ずるい。
「約束、ですよ」
「はいよ。じゃあそろそろ帰ろうか」
そう言って、先生は席を立った。私も先生に合わせて立ち上がる。
「菊池は電車だよね?」
「はい」
「じゃあ駅まで見送りに行くよ。」
高校生の時に1度だけ、先生の車に乗ったあの苦い思い出が頭によぎる。
先生はいつも、車で学校に来ていた。
「いえ大丈夫ですよ!1人で帰れるので」
「いや良いよ。それくらい手間でもないから」
そして先生は、駅の方に歩き始めた。私も慌ててその後をついて歩いく。後ろから眺める先生の姿。
ずっと見たかった、会いたかった。
だけどどこかで、またあぁなってしまうのではないかという恐怖もあった。
失いたくない。もう、離れたくない。
すると先生は、斜め後ろを歩く私に顔を向けた。
「あのね、斜め後ろだとちゃんと付いてきてるのか不安なのよ。俺の横に並んでもらえる?」
「あっ、すみません」
ちょっとした会話。
だけど、それは私中ではすごく大きな一歩だった。
今まで先生に並ぶことは何一つできなかった。でも今、先生に並んでと言われた。
気持ちと同じように、足が勝手に早く動く。
をまぁ担任補助っていうけど、基本菊池に任せるよ。好きにやってごらん」
「え?本当ですか?」
「分かんなければ教えてあげるし、悩んだら相談してくれれば良いし。俺がいるから、安心してどうぞ」
先生の言葉は、男気と優しさに溢れていた。こんなの、ますます好きになる。
「分かりました。頑張ります!」
「ハハ、昔と変わってないな本当に」 
また言われるその言葉が、私の心に引っ掛かった。
変わらない。それは、どういう意味なのか。
「それは、良い意味ですか?悪い意味ですか?」
その時、ちょうど駅に着いた。でもこのモヤモヤでは、帰れない。この答えを聞かないと、帰らない。
そんな私の顔は、不安な表情だったのかもしれない。
先生が私の顔を見て、フフっと笑った。
「変わってなくて安心したってこと」
先生は、本当にずるい。
私の気持ちがまだ先生にあるって分かってるくせに、そう言うこと言うんだ。
先生は、じゃあねと言って私に背を向けてまた学校の方へと戻って行った。
「_____すみません、ありがとうございました!」
少し放心状態になってしまい、少し進んでいる先生に慌ててお礼を伝えた。
先生の言動には、何度も惑わされる。でも、どんなに上手く行っても調子に乗ってはいけない。7年間の思いを、無駄にしてはいけない。そう、自分に何度も言い聞かせた。

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