【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(30)


部屋に残された私と先生の2人。
あの頃の記憶が、どんどん蘇る。先生の匂い、先生の仕草、何一つ忘れていない。
パソコンをする時にはメガネをかける、それも変わってない。
「そんなに見ないでもらえるかな?」
「えっ」 
「そんなにガン見されるとやりにくいんですけど」
このやりとり、前にもあった。 
あれは、初めてここで先生と話した時。
「すみません」
あの時の感覚が蘇り、ドキドキで心臓音が先生にまで聞こえそう。
「久しぶりだね。本当に教師になったとは」
パソコンから目を離さずに、先生は私のそう語りかけた。
だって先生、約束したじゃないですか。
諦めませんって宣言したじゃないですか。
「お久しぶりです。はい、本当になりましたよ」 
「ンフフ、ほい終わった!よし、じゃあ準備室行こうか」
国語科準備室。懐かしい。
毎週金曜日、先生と2人で勉強した場所。
あの日から、また先生と2人であの部屋にと何度も考えた場所。
「何の作業ですか?」
「いつも新年度すぐに学力テストやってたの覚えてるよね?あれを、数えてクラス別に数えて分ける。
今からやったら...多分終わるの19:00近くなるけど、まぁ明日土曜日だし、平気?」
そうか、今日は金曜日か。
偶然なのか必然なのか、神様のいたずらなのか。
「大丈夫です。」
「じゃあ俺も手伝おうかな〜そしたら早く終わるし」
そう言いながら、先生は問題用紙の束を持って数を数え始めた。
その横顔は、やっぱり綺麗だ。
ダメダメ。
ボーッとして見てちゃまたガン見しないでって言われちゃう。
「本当に、教師になったんだな。あんなに国語苦手だったのに」
高校生の宣言なんて、先生にとったら小さなことだったかもしれない。
でも、私はずっと本気でした。
「今は、大好きですよ。小川先生に沢山教えてもらったおかげです。
「ハハ、それは嬉しい言葉だね。
「私も、先生みたいになれるように、頑張ります」
そんな私の言葉に、期待してますなんて言う先生。
先生は昔と変わらず、ずるいです。
でも、そんな先生をずっと好きな私はどうしようもないんです。
そんなことを思いながら、ただただ2人で作業をした。
先生と2人の空気を、噛み締めながら。
「よし終わった〜。やっぱ2人でやると早いな。」
そう言いながら笑って、肩痛ぇって首をぐるっと回した。
先生と関節が、ゴリゴリと音を鳴らす。昔から先生は、よく関節を鳴らしてた。
「じゃあ、帰ろっか」
「はい」
4月とはいっても、風の強い日はまだ少し肌寒い。
薄手のコートを羽織り、学校を出るとまだうっすらと外は明るかった。
校庭に咲く大きな桜が、風に舞っていた。
「桜が満開ですね!これだと、入学式までギリギリ保ちますかね」
「最近咲くの早いからね。あと3日くらい保つかどうかかな」 
「3日か〜。今週末はまだバタバタしてるし、今年はお花見出来なさそうです」
「毎年してんの?」
「はい!ほとんどはしてますよ!小川先生は?」
「へー、偉いな。俺はしないな。外より内で本読んでる方が楽しいからさ」
先生らしい答えだ。なんか、こうやって先生と普通に会話してるのが嬉しい。
「桜は日本の文化ですから。先生も見た方が良いですよ」
「ハハ、そうか。まぁでも、男1人で見てもね」
「誰か友達でも誘ったら良いじゃないですか」
「いないよ友達なんて。友達多そうに見える?俺」
「いや多いかは分からないてますけど、1人くらいはいますよ絶対。まあ、そう言っても私も今年行く人決まってないですけどね」
「じゃあ今から行く?」
「え?」
今先生、なんて言った?
「今から、時間あるなら見に行く?その辺の公園桜すごい咲いてたし」
やっぱり、先生は罪です。そのお誘いは、どういう意味ですか?
私は馬鹿だから、まだずっと期待してしまう。
「えっと、私で良いんですか?」 
「だって、この後お互い予定なくて、お互い桜見たくて、お互い明日仕事なくて。見る相手もいなくて。でしょ?」
先生はいつもそうだ。先生こそ、あの時から何も変わっていない。そのずるさは、私を惑わし続けるんだ。

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