【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(26)

なんでこんなな素敵な人が私にこだわるんだろう。
もっと綺麗で気の利く可愛げのある女の人なんて、沢山いるだろうに。
この暑い中、栗原さんを1人待たせるのも申し訳ない。
柚木ごめん、まだ5分前だけど行かせてもらいます。
少し小走りで栗原さんの元に駆け寄ると、その足跡に気がついたのか振り返って、笑顔で手を振ってくれた。
「すみません遅くなりました。」
 「全然待ってないよ。暑いし、早くお店入ろうか」
男の人と2人でこうやって話すの、久々すぎて慣れない。
そんな私のために、栗原さんはたくさん話しかけてくれて、私はそれに答えるのに必死だった。 
そして気がついたら、お店についていた。
 「ここ、併設されてる本屋さんから本買ってて、読みながらお茶できるんだよ。」
「すごい、沢山本がある」
初めて来た場所に、感動した。
カフェなのに、壁には一面本が並んでいた。
すっごく大きいお店ってわけでもなくて、小さめだからこそなんだかアットホーム感があって、すごく居心地が良く懐かしい感じさえあった。
 「俺のオススメはここのコーヒーなんだけど、それで良い?」
「あっ、ごめんなさい。実は私コーヒーが苦手で」
『そしたらカフェラテは如何でしょうか?同じところの豆を使用しておりますので、どちらも自慢の商品です』
 「あ、そしたらそうする?」
「はい、すみません」
まだコーヒーは苦手で飲めない。苦いって、やっぱり思っちゃう。
ドリンクを用意してもらってる間に、栗原さんと好きな本を選び、カウンターに用意されたドリンクを持って席についた。
 「どうぞ飲んでみて」
そう言われて一口飲んでみた。
「すごい!美味しいです」
 「でしょ!良かった〜安心したわ」
すると、栗原さんは自分のコーヒーを一口飲んで、やっぱり美味ぇなって呟いた。
「すみません、コーヒー飲めなくて」
 「全然そんなことないよ!でも、コーヒー飲めないってなんか可愛いね」
少し首を縮めて笑う栗原さんは、何だか可愛く見えた。
「いや、そんなことないです。子供ですよ」
 「そんなことないよ。でも、華ちゃんが喜んでくれて良かった。」
そう言ってマグカップを手に持ちながらにっこりと笑う栗原さんは、なんだか裏のない人に見えた。
心から、そう思って笑ってくれている気がした。
確かに、柚木が言っていたように栗原さんはチャラチャラしてるっていうか、何だか普通に良い人って感じ。
少し、外見の先入観で判断しすぎていたのかもしれない。
 「何、どした?」
「え?いや、何も」
 「めっちゃ見てたから、何かと思った笑」
私、考え事すると相手のことガン見しちゃうのかな。気をつけなきゃ。
 「今、何考えてたの?」
「え?いや」
 「良いよ何言っても怒らないから」
「えー、えっと。
その、申し訳ないんですけど、栗原さんのこともっとチャラい人だと思っていたので、意外とそうじゃないんだなって思って」
 「やっぱり、そう思われてると思ったわ!でも、大概そう思われるから全然平気だよ。違うって分かってもらえたなら、それで十分。」
そう言ってまた笑顔になる栗原さんを見て、私の心は痛くなった。
 「華ちゃん、いっつも鞄にその本入れてるでしょ?この作者好きなのかな?って思って、こういうテイストのお店探した。結構回って探したんだけどね笑」
私がいつも持ち歩いている本は、あの本。
先生と私を、結びつけてくれた本。
「1番、好きな本です」
私はそう、笑顔で答えた。
 「アハハ、良かったそんなに喜んでくれて」 
その栗原さんの笑顔に、また心が苦しくなる。
「ちょっと、お手洗い行ってきますね」
この状況に耐えられなくなって、私は栗原さんに背を向けて、レジの横にあるお手洗いに向かった。
お手洗いに入って一回落ち着いて考えてみる。
私が栗原さんとのデートを受け入れたのは、修行の一環。
全ては、小川先生のため。
私の頭には、さっきの栗原さんの笑顔が頭に浮かんだ。
あの笑顔、そして私のために時間を使ってお店を探してくれて。
やっぱり、失礼だ。すごく申し訳ない気持ちになる。やっぱり、デートなんて軽々しくするんじゃなかった。
謝ろう。そう思って、お手洗いの扉を押して席に戻ろうと思った。
この時は、本当にそう思っていた。それに、気がつくまでは。


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