【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(23)

高校生活4度目の、桜の舞う季節。
3月だからか、まだ風が冷たい。
今日で私は、この学校を卒業する。
死ぬ気で勉強して、勉強して勉強して。
ギリギリ補欠で東風大学に合格することができた。
晴れて来月から、東風大学の生徒になれる。
とりあえず、1つ夢を叶えられてよかった。
柚木も、一緒に泣いて喜んでくれた。
 「みんな卒業おめでとう。これからみんな別々の進路に進むと思うけど、自分らしさを忘れずにいてください。」
あの日から、私は先生と直接話すことはしなかった。
だから今の私の気持ちは、あの時のまま。
 「えーっと、この学校は不思議な儀式があって、卒業生に担任の先生から何か一言プレゼントするってのがあるんだが...先生はそういうのを直接言うのが苦手なので、全員卒業証書の間にちっさい封筒が挟まってると思います。
それが、先生からのみんなへの最後のプレゼントです」
みんなその紙を確認して、中身を読んで泣き出す人もいれば、笑ってみんなに見せびらかしてる人もいた。
 「はいはい。それじゃあ、卒業おめでとう。楽しんでな」
そう言って先生は、教室から出て行ってしまった。
先生は私に、最後何の言葉をくれるんだろう。
みんなにくれているとはいえ、先生からの贈り物だもん。大切に、慎重に中身を取り出した。
そして、そこに書いてあったのは...

「先生!」
私は、国語科室に戻って行く先生の後を必死に走って追いかけた。私の呼びかけに、先生の足は止めたがけど振り返ってはくれない。それでも良い。先生と話せるなら、それでも良いから。
 「この言葉、どういう意味ですか」
先生の字で書かれた最後のプレゼント。私には、その意味がわからなかった。
「すぐに答えを与えないで考えさせる。それが教師だよ。」
そう言って、先生はまた歩き出した。
いつも先生は、大事な時にいなくなります。
いつも先生は、大事なことを教えてはくれません。
いつも先生は、私を惑わせては悩ませます。
 「“綺麗な月でした”って、どういう意味ですか」
私の言葉に、先生は何も言わない。
ただ、左手をひょっと上げて“さようなら”と背中で語るだけ。
私はこの答えを、随分と長く考えさせられることになる。
これが私と先生の、第一章の物語。






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