【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(14)

新学期が始まってから数日後。
先生との個人面談のために、教室で、私の前の席の椅子をくるっとひっくり返して、先生は私と向かい合わせに座っている。
いつも国語科準備室で勉強を教えてもらう時は、2人横並びで座るから、先生の横顔は少し慣れた。
けど、こんなに近くで先生の顔を真正面から見るのは初めてだ。ドキドキが止まらない。
「えーっと、まずはテスト結果がねぇ...どうしようか笑」
自分でも結果を見て悲しくなる。全然去年から進歩してない。
 「そして進路は...東風大学文学部、ですか」
東風大学は、日本でも有名な私立大学。
私がここに行きたい理由は単純で、先生の出身校だから。
2年生の時に、柚木が他の先生から聞いてすぐ私に教えてくれた。
それから私の志望校は、一瞬でここに決まった。
「私、どうしてもここに行きたいんです」
先生の顔は渋かった。
そりゃそうだ、今の私の学力では到底足りない位置にある大学だもの。
 「理由は?」
先生なら、そんな質問をしてくると思っていました。だからちゃんと、答えは考えて来てます。
「私は、夢を叶えたいんです。その夢を叶えるためには、東風大学に行かないといけないんです」
すると先生は、真面目な顔で書類を見ている姿勢のまま、目さんだけを私に向けた。
なんでも見透かしてしまいそうな目。だけど、見透かされても平気です。これは、嘘じゃないから。
 「ちゃんと考えているなら、先生は全力で応援するよ。居残りも、これまで以上に力入れないといけないな。」
先生は私に笑ってそう言った。
はい、先生。私頑張ります。
私は、先生に少しでも近づくために、頑張ります。
 「実は俺も、東風大学の文学部出身なんだよ。あ、白石先生もだよ」
白石先生。先生からその単語を聞くと、何だか胸がキュゥッと苦しくなる。
「白石先生と小川先生は、付き合ってるんですか?」
 「は?」
先生のその声は低くて、少し恐怖を覚えた。
やっぱり、聞いてはいけないことだったのかな。というか、なんでこのタイミングで私はこの質問をしてしまったのだろう。危ない橋を、渡り過ぎだ。
「や、そう話している人が多かったし。子供ができたとか...それに、今日先生そのこと言われても何も反応してなかったから、何だか気になって」
 「えぇまじでそんなに噂になってんの?今時のJ Kは怖いわ」
そう言って、先生は笑った。笑うだけ。先生、答えはくれないんですか。
「実際のところは...?」
 「菊池はどう思う?」
どう思う。そには、どう答えるべきなのか。先生の求めている回答は何なのか。なんだか、考え過ぎて目が回りそう。
「それは、お二人のことなので私は何とも」
 「あらっ、その回答は大人っぽいな。」
どうやら、私の答えは正解だったらしい。先生の言葉を聞き、少し安心した。
でも結局、心のモヤモヤは何も晴れない。
先生はいつも、ずるい答え方をする。
 「すげぇモヤモヤしてるんですけどって顔だな」
楽しそうに笑ってる。私の顔、そんなに変だった?
 「モヤモヤして勉強が手につかなかったら困るので、菊池には特別にお答えしましょう。」
そう言って先生は、両手を組んだ状態で机に肘を乗せ、左の口角を少しだけ上げた。
 「付き合ってないし、子供もいない。だから、そんな邪念は捨てなさい。」
先生からの直接聞いたこの言葉で、私の心がどれだけ安心した事だろうか。
嘘とか真実はどうでもいい。先生が、直接私に特別に教えてくれた。
その事実が、何よりも嬉しかった。 
「そう、なんですね」
 「そんな言いふらすなよ?ほっときゃそのうち治るから。まぁ、これで勉強に集中できるな。俺も、菊池の夢を叶えられるように頑張るから」
その先生の笑顔は、反則です。
もっと好きになってしまいそうです。






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