【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(11)


柚木から言われた通り、私は今日だけ先生を好きじゃないと自分に言い聞かせて、国語科室の扉を開けた。
「失礼します」
「はーい」
扉を開けると、そこには結構な人数の先生達がいて。
そしたら先生はテキストを持って
 「人多いから、隣の準備室行こう」
そう言って私を案内してくれた。
先生はいつも、国語科室に沢山先生がいると隣の国語科準備室に私を連れて行く。
この部屋には、沢山のものが置いてあって、一見物置に近い。
真ん中には少し大きめの机が一つ置いてあって、私と先生は横に並んで座る。
だから私は、国語科室よりも先生の近くにいられる、この準備室が大好きだ。
「この前のところ、分かった?」
「ちょっと分かりました。お嬢さんの気持ちの描写が、ラストに繋がるってことですよね?」
「おっ、だいぶ分かって来たじゃん」
その時、先生がチラッと私のことを見た気がした。
でも私は、いつもみたいに先生をガン見したりはしない。
我慢我慢。
その時、窓から大きく風が吹いて、机の上に置いていたプリントが部屋中に散乱してしまった。
あぁあぁと言いながらプリントを拾い始める先生に合わせて、私も急いでしゃがみプリントを拾い集める。
風が吹くたびに先生の髪がふわっとなびき、微かにタバコの匂いを感じた。
匂い嗅ぐだけなら、バレないよね。
あの時、窓越しに先生を見た時の匂いと一緒だ。
やっぱり、かっこいいな。
そんな風に先生を感じながら自分の周りにあるプリントが拾い集め、終わりましたと先生にの方に目を向けた。
その時初めて、先生が私のことをじっと見ているのに気がついた。
「え、え?」
私が先生を見ていることはしょっちゅうあったけど、先生が私を見てるなんてことは今まで一度もない。
「あぁ、ごめん。何でもない」
「え?」
先生の周りは、まだプリントだらけ。
「良いから、ほらやるよ。2学期の中間期末合わせて100点取れなかったらやばいんでしょ?」
「あ、はいそうです」
なんで先生は、私のこと見てたの。香水が先生の好きじゃない香りだったのかな、それともやっぱりこの格好が私に似合ってないのかな、先生の“何でもない”は、どういう意味なのかな。
答えを聞きたい。
だけどいつも答えを教えてと私が言うと、先生は“ すぐに答えを与えないで考えさせる。それが教師だよ”と言うだろう。
もう何も、頭に入ってこないよ。
「じゃあ、今日はこれくらいにしようか」
今日はいつもより早く終わった。
なんで?いつも少し空が暗くなってから終わりなのに、今日はまだ明るい。
「どしたの?元気ないじゃん」
「そんなこと、ないですよ」
「いやそんなことはあるでしょ。まぁ、言ってくれないなら仕方ないけど」
さっきの何でもないはどういう意味ですか、何で今日はこんなに早く終わるんですか、私こんなに頑張って準備してきたのに、先生は何にも言ってくれないんですか。
聞きたいよ。でも聞いてもきっと先生は、答えてくれないじゃないですか。
「ほれ、暗くなっちゃうから早く帰りなさい」
結局先生は私のこの頑張った容姿について、何も言ってくれなかった。気付いてないのか、あえて言わないのかは分からない。
けど、何も言ってもらえなかったという事実だけが私の心に刻まれた。
「105ページまでやってくるのと、間違えたところの直し、忘れないこと」
「分かりました。また来週お願いします」
「それじゃあね」
私と先生は準備室を出ると、先生は左にある国語科室に、私は右にある階段に向かう。
頑張っても、意味なかったな。これは無駄な、努力になってしまった。
「あっ、あともう一つ」
先生のその言葉を合図に、互いに背中を向けていた私と先生はもう一度向かい合った。
「はい?」
「いつもの方がいい」 
「え?」
「じゃあまた来週。変な男に気をつけなさい」
そう言って、先生は国語科室の扉を閉めた。
“いつもの方がいい”
先生のその最後の言葉が、私の頭の中に響き渡る。
しばらくその場で放心状態。
歩き始めてからもずーっとそのことばっかり頭で考えている。
先生、私の頑張ったことに気がついてたんだ。
言ってくれれば良いのに、あえて最後にしか言わないって、先生口下手すぎるよ。
女の子は、ちゃんと口に出して言って欲しい生き物なんだから。
でも、先生にいつもの方が良いって言われた。
私って本当に単純。


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