【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(7)


『何で何で?』
『白石先生はどうしたんですかー?』
「良い質問です。白石先生が体調不良で今日お休みです。たまたま時間割的に空いてて、たまたまクラスを持っていない先生が、このクラスの代理に抜擢されたっていうことです。以上です。とりあえず、授業をするよ」
嘘。不意打ちの幸せに頭が停止しそうになる。
私今から、先生の授業を受けられるの?
50分間、まるまる先生の声が聞けるの?
 「じゃあ教科書52ページを開いてください。まずは音読から始めるので、えーっとじゃあ藍沢さんから朗読お願いします」 
良いな、藍沢さん。先生に名前呼ばれたい。でも良いや。50分間、この目に先生をしっかり焼き付けるから。
と思ったけど、朗読中教室を歩き回る先生をずっと目で追うことは不自然すぎてできなかった。
だから私は、鞄の中から先生とお揃いの小説を取り出して、膝の上に置いた。
この小説を買って持ち歩くようになってから、先生に会う確率が少し上がった気がする。
現に、こうやって先生が授業が受けられたし。
やっと夢が叶いました。ありがとう。 
白石先生が体調不良なのに、喜んでごめんなさい。 だけど、今日この瞬間が今までの高校生活の中で1番嬉しい日です。 
先生が歩くたびに、革靴のトン、トンて音が聞こえる。
その音が、どんどん大きくなってくる気がして、ドキドキする。
先生が、私に近づいてくる。
そしてその足音が、ふと止まった。
それと同時に、私の頭に何かがぶつかった。
「痛っ」
びっくりして勢いよく振り返ると、私の横には先生が立っていて。 
至近距離の先生に、私はそのまま動けなくなって固まった。
先生の手には丸めた教科書。きっと私は、これで叩かれたんだ。
 「集中」
周りのみんなには聞こえないくらいの、小さな声で先生は私に言った。
先生のささやき声に、ドキドキしないわけがない。
「すみません」
私も小さくな声で、そう返事をした。
すると先生は、フッと左の口角を上げて笑ったかと思うと、今度は私の膝の上に置いてある小説を手に取った。
「あっ」
内緒で先生の真似をして買った本なのに、先生に見られてしまった。
恥ずかしくなり、思わず顔が赤くなるのが自分でも分かる。
 「没収」
また先生は、フッと左の口角を上げて笑った。
先生にあの本を取られちゃった。
真似して買ったの、バレるかな...でも、これを機に先生と話せたり、放課後国語科室に呼ばれたり...いやいや、そんな上手いことはない。こういう時は大体担任の先生に渡されて注意を受けるだけ。だから、授業に集中しなさい自分。ウキウキしてる場合じゃない。
そんなことを考えていたらあっという間に授業は終了し、先生は私の本を持ったまま特に何も言わずに教室を出て行ってしまう。
「えっ」
待って、何もなし?何も言うことなし?
「あの、先生!」
私は思わず廊下に飛び出した。
授業が終了た直後だからか、廊下には私と先生だけだった。
 「何?」
「あの...」
普通に謝れば良い。そうすれば、きっとあの本を返してくれる。だけど、ここで終わりたくない。その感情が、私の口を噤ませた。
そんな風に私がウジウジしている間に、教室から他の生徒たちの声が近づいてくる。
なんて言おう。なんて言えば、先生と長くいられるの。
その時、先生がさっき私から没収した本を自分の顔の横に取り出した。
 「放課後、取りにおいで」
その言葉だけ残し、先生は私に背をつけて国語科室へと戻っていく。
それと同時に、色んな教室から沢山の生徒が溢れ出てきた。そして私も、思わず笑みが溢れ出す。
放課後、先生と話せる。先生と、2人で会える。
『やったやん』
後ろからその声がして振り返ると、そこにはピースサインをして立っている柚木がいた。
「柚木、私『
『ボーッと突っ立ってないよ!身だしなみ整える!ちょっとだけリップも塗っちゃいなよ!』
それから柚木のリップを借りて少し塗ってみたり、恋愛に必要な駆け引きを教わったり。そんなことをしていたら、あっという間に放課後になっていた。


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