【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(2)


『私達の担任の先生、遠くでも分かるすんごい綺麗な人だったよね!』
そうだ、小川先生の事ばかり気にしてて自分の担任の先生が誰なのか聞くの忘れてた。
「あの、真ん中らへんに座ってた人?」
『そうだよ!まさか聞いてなかったの?意外と寝てたとか?』
「ごめんちょっと寝てたかも」
『何それ!それにその隣に座ってた小川先生だっけ?やる気なさそうだったけどめっちゃイケメンだったよ〜。遠くでも分かる。あれはモテる。』
その時、廊下の向こう側から小川先生が向かってくる。どんどん縮まる距離に合わせて、私の鼓動もどんどん大きく早くなる。
『ねぇあの人だよ!やばいやっぱりめっちゃかっこいい!』
本当にかっこいい。歩くたびに揺れた前髪、少しだけ微笑んだ唇、少し眠そうな目。
忘れないように、私の頭にその姿を焼き付けた。
先生のクラスにはなれなかった。ならせめて、せめて、先生の授業を受けたい。この時私は確信した。
私は先生に、恋に落ちたんだ。
教室に入るとさっきの綺麗な女の人が教壇の前に立っていて、黒板には、“白石奈緒”の文字。
『名簿順だけど、黒板に座席表が貼ってあるから確認してから座ってくださいね』
さっき小川先生の隣にいた人だ。勝手に嫉妬している自分がいる。
きっと白石先生は、私よりも小川先生を知っているし、私よりも先生に近い人で、私よりも何倍も大人で綺麗な人だから。
ホームルーム中に、隣のクラスから聞こえる生徒達の笑い声にまた胸が締め付けられる。
あぁ、私も先生のいるあの場に混ざりたかった。先生のいる空間に、私もいたかった。
『菊池さん、このプリント後ろに回してくれる?』
そんなことを考えて心ここに在らずだった私に、白石先生は声を掛けてくれた。
入学初日なのに、もう名前覚えてる。すごいな。
『今配布しているのが時間割になります。このクラスの国語と古典は私が担当するので、一緒に頑張ろうね!』
そりゃそうか。小川先生も白石先生も国語科の人だから、授業を持つのは担任の先生が優先されるに決まってる。
また私の気持ちが、分かりやすく落ち込んだ。
今日初めて先生に出会ったはずなのに、もう私の心は先生でいっぱい。こんな気持ち、初めてだよ。
新生活が始まり、もう1ヶ月が経とうとしていた。
学校やクラスの雰囲気にも馴染んできて、私はいつも柚木と2人で休み時間を過ごしている。
『華どうしよう。なんで返信しよう』
やっぱり柚木は、私の予想通りモテモテだった。
髪も巻いて綺麗にお化粧してて、見た目でチャラそうとかって言われがちだけど、全くそんなことはない。
柚木ははっきりしている性格で、無理な人には迷うことも遠慮することもなく、ハッキリごめんなさいって断って。
それに、最近同じ部活の先輩を好きになったらしい。柚木は毎週決まった日にその先輩と話したり出来て。私には、そんな機会すらない。
他のクラスの授業に向かう先生を、ただ眺めることしかできないんだから。
『ねぇ華聞いてる?』
「あっごめん、ぼーっとしてた笑」
『ねぇねぇ、華のタイプってどんな人なの?』
タイプ...何かを答えなきゃ。なのに、私の頭に浮かぶのは小川先生のことばかり。
「タイプって、あんまり分かんないかな」
『えぇ無いの?じゃあ、今まで付き合ってきた人はどんな人だったの?』
今まで告白というものは何度かされたことがあった。でも、
「付き合ったことない」
『はっ!?』
柚木の声が教室中に響き渡った。
その声の大きさに、私も柚木も驚いてちょっと笑いながらごめんなさいと2人で謝った。
『ちょっと待って、華って中学校共学だよね?』
「うん、そう」
『まさか、昔めっちゃ太ってた?』
「ううん」
『じゃあもしかして、整形?』
柚木は私に耳打ちをするように小さな声で言った。その言葉に、思わず少し笑ってしまう。
「してませんよ。
『じゃあ何でよ!こんな可愛くて性格良いのに、男が放っておくわけないでしょ!』
「いや今までね、ちゃんと人を好きになったことがなくって」
私のその言葉に、また大きな声を出して驚きそうな柚木の口を必死で抑えた。
『この高校割とイケメン多いと思うんだけど、この1ヶ月も何のときめきもなし?』
この質問には、答えられなかった。
ないと言ったら嘘になるし、あると言ったら本当のことを全部言わなきゃいけなくなる。
柚木に、嘘はつきたくない。けど、本当なことも言えない。
時計を確認すると、あと2分で4限が始まるチャイムが鳴る。
きっともう直ぐ、先生がこの廊下を通る。
いつ先生が廊下を通ってもいいように、休み時間は決まって廊下が見えるところで柚木とお喋りすりって決めてるの。
そしてこっそり、柚木と喋ってるフリして小川先生を眺めるの。

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